ビットコイン経済学 – 負債デフレによるスパイラル(パート3)

レポートの原文は以下より。

Bitcoin Economics – Deflationary Debt Spiral (Part 3) – BitMEX Blog

抜粋

本レポートは、ビットコイン経済学3回シリーズの3回目である。このシリーズの第1回では、銀行の貸付の仕組みについてのありがちな誤解、および銀行が経済における信用水準を拡大する能力にこの貸付の仕組みがどう影響しているかについて考察した。こうした一般に理解されていない貨幣の本質を分析し、それがビジネスサイクルに及ぼしうる影響を評価した。このシリーズの第2回では、ビットコインが独特な特徴を併せ持つと考えられる理由を、伝統的な貨幣と比較しながら検討するとともに、  こうした特徴が銀行の信用拡大能力に及ぼしうる影響について説明した。第3回(パート3)では、ビットコインのデフレ的性質を説明し、こうしたデフレを必然とするビットコインの弱点をいくつか検討する。また、デフレの経済的デメリットに対する一部の従来の概念について、ビットコインは一部の批判派が考える以上に弾力的である可能性についても考察する。

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ビットコインのデフレ問題

ビットコインと関連仮想通貨システムについて、供給上限(ビットコインの場合は2,100万)と付随するシステムのデフレ的性質を批判する声がよく上がっており、経済への悪影響が懸念されている。批判派は、マネーサプライに限りがある経済政策は、歴史的に良策と言えず、経済破綻または悪化につながると主張する。なぜなら、貨幣価値の上昇傾向を受け消費者が支出を控えるため、あるいは債務の実質価値が増加し、経済に占める債務額が増大するためである。ビットコイン支持派は、過去のこうした教訓を学んでいないことを理由に「経済に疎い」と頻繁に揶揄される。

ビットコイン経済学シリーズのこのパート3では、ビットコインは過去に登場した貨幣種類と根本的に異なることから、こうした批判派が考える以上に状況は複雑である可能性について指摘したい。こうした独自の特徴により、ビットコインはデフレ的方針により適する可能性がある。逆に、ビットコインには制限や弱点もあり得る。つまり、インフレ率が上昇すると伝統的貨幣形態には当てはまらない悪影響が及ぶ恐れがある。ビットコイン経済の批判派の一部はこうした問題点を見過ごすことが多いと我々は考える。

ビットコインのインフレ問題に関する主な引用

中央銀行紙幣の供給は、容易に増減できる。紙幣に対する需要ショックがプラス(消費/投資から貨幣にシフト、すなわち「デフレショック」)の場合、中央銀行は証券と外貨を購入してマネーサプライを増大させる。    紙幣に対する需要ショックがマイナスの場合、中央銀行は証券などの資産売却によって貨幣を吸い上げる。  [ビットコイン]の場合、2番目の選択肢はそのプロトコルに含まれていない。つまり、仮想通貨プロトコルには通常、通貨の供給ルールは含まれる、通貨の吸収や償却は含まれていない。我々は、この不可逆性を軽減できるだろうか?

– 岩村充教授(『Can We Stabilize the Price of a Cryptocurrency?: Understanding the Design of Bitcoin and Its Potential to Compete with Central Bank Money』) – 2014年

肝心な点は、ビットコインの世界的供給にインフレ率(例えば年率2%)を織り込まなければ、通貨としての機能が著しく損なわれることにある。人々は、今年より来年価値が高くなることを知っているため、ビットコインを買いだめし始める。

–  David Webb (動画の51分目) – 2014年

大局的には、ハードサプライの上限、すなわち内在的デフレは、貨幣候補にとって本質的強みとは言えない。貨幣の強みは、社会的ニーズを満たせる点にある。ビットコインは内在するデフレ的性質により、社会的ニーズを満たすという側面で期待外れに終わると筆者は考えている。もちろん、私の考えが誤りと判明する可能性もある。状況を見守ることにしよう。

–  エコノミスト誌 (『Bitcoin’s Deflation Problem』) – 2014年

ビットコインの「マネーサプライ」は、最終的に2,100万単位で頭打ちとなる。この制限は、ビットコインが自由主義という原則を貫くうえで、インフレ気味の政策運営という中央銀行の介入を避ける賢明な方法であり、大半の通貨はこうした介入に左右される。ただ、最近の中央銀行には、低水準であれインフレ率をプラスに保つことを支持するしかるべき理由がある。現実世界の賃金は「硬直的」で、企業が従業員給与を削減するのは困難である。賃上げ率がインフレ率を下回る場合、わずかなインフレは実質的に労働者賃金を削減させることで、システムの潤滑油となる。マネーサプライの成長ペースが鈍すぎる場合、物価は下落し、賃金が硬直的な労務コストは上昇する。その結果、失業率は上昇する傾向にある。さらなる物価の下落を見越す労働者が現金を貯め込む場合、景気後退に拍車がかかる。

エコノミスト誌 (『Money from Nothing』) – 2014年

現在のグローバルシステムもかなりひどい状態であるが、ビットコインは最悪だと私は考える。  初心者にとって、ビットコインは元々デフレ的である。作成可能なビットコインの数には上限がある(ちなみに作成とは、業界用語で「採掘」と呼ばれる。新しいビットコインは数学的演算を行うことで作成されるが、ビットコイン業界が発展するにつれ、急速に難解になっている。空前の桁数の素数を計算するように、異次元レベルへと向かっている)。そのため、新しいビットコインの作成コストはどんどん上昇し、ビットコイン価格の上昇率は市場で入手可能な財やサービス価格の上昇率を上回る。資金の投資妙味があるモノが少なくなり、消費者が支出する資金も減少する(モノの供給ペースが貨幣の供給ペースを上回る)。

–  Charlie Stross (『Why I want Bitcoin to die in a fire』) – 2013年

いずれにしても、2,100万問題は払拭されない。この上限に達すれば、ビットコインの供給はいずれ、わずかな準備銀行活動に向かわざるを得なくなる。供給不足の克服策は、既存コインの再貸付、あるいはいずれビットコイン建てで決済が可能という根拠を拠り所とする貸付(伝統的な銀行活動)のみとなるためだ。

Izabella Kaminska – フィナンシャル・タイムズ (『The problem with Bitcoin』)– 2013年

この実験[ビットコイン]から通貨体制について学べることは、それが新たな絶対的基準のようなものとは逆の傾向を強めるということである。それが示すのは、こうした基準が消費控え、デフレ、不況にいかに脆弱であるかということのみにとどまるためである。

–  Paul Krugman (“Golden Cyberfetters』 – 2011年

ビットコインは、限定的規模であれ自立に成功しているが、需要変動に対応する仕組みに欠けている。ビットコインの需要が増大すれば、ビットコイン建てでの価格下落(デフレ)につながり、需要が減少すれば、価格上昇(インフレ)につながる。これら各ケースで何が起こるのか?現在、ビットコインの需要は増大しているため、デフレのケースについて先に述べよう。今日より明日の方があるモノの価値が高くなると考えられる場合、消費者はどのように行動するだろう。そう、そのモノを手に入れ、ため込んでしまう!価値が上昇する一方のモノをどうして手放す必要があるだろう。つまり、需要が増大し続けると、さらに増大することになる。根拠なき熱狂(irrational exuberance)である。デフレは際限なく(少なくとも被害をもたらすまでの間)、デフレを誘う。

The Underground Economist (『Why Bitcoin can’t be a currency』) – 2010年

デフレと負債デフレによるスパイラル

多くの経済学者が、長年、インフレのメリットとデメリットを巡り論争を繰り広げている。ただ、論争の焦点はある理論に集約される(各学派に属する経済学者のこの件に対する見解は多岐にわたる)。  すなわち、デフレが望ましくない経済現象であるのに対し、年率2%前後の緩やかなインフレは望ましいというのが現在の経済的コンセンサスであると断言して良かろう。特定のプラス目標に向けてインフレを中央で管理することに反対するオーストリア学派は、ビットコイン、および金の若干デフレ的性質をひいき目に支持する傾向がある。

デフレに対する否定的な見解の主因として、1929年の大恐慌と負債デフレによる負のスパイラルが挙げられる。この理論は、景気後退にデフレが重なると、債務の実質的価値は増加するというものである。増加により、既に悪い景気はさらに悪化していく。経済学者のアーヴィング・フィッシャーは、1837年、1873年、1929年の大恐慌における金融危機の処方箋としてこの理論を形成した功績を認められることが多い。

そこで我々は、9つのリンクで、以下の一連の結果を推測できる。

1 債務の清算により、経済的困窮状態が定着し、

2 銀行ローンが返済されるにつれ、預金通貨の収縮、流通速度の減速につながる。こうした預金収縮と流通速度の低下は、悲観売りにより加速し、

3 物価水準の下落、つまりドルの膨張をもたらす。上述したとおり、こうした物価下落がレフレーションなどの干渉を受けないと仮定した場合、

4 企業の純資産はなお大幅に下落し、倒産を加速させ、

5 利益低下をもたらす可能性が高い。これは、「資本主義」、つまり営利社会では、赤字運営に対する懸念を生み、

6 生産、取引、雇用の減少につながる。損失、倒産、失業は、

7 人々の先行きと信用に対する不安感をあおり、ひいては、

8 消費行動が控えられ、景気後退に拍車がかかる。上記8つの変化は、

9 金利低下(特に名目金利の低下)、貨幣やレートの低下と商品価格や実質金利の上昇といった複雑な攪乱要因によって引き起こされる。

負債とデフレは、きわめて単純な論理的方法で大方の現象を説明する決め手となる。

アーヴィング・フィッシャー (1933年)

デフレとは批判派の主張ほど悪役であるか?

批判派がビットコイン支持派を「経済に疎い」と非難しても、批判派が常に正しいとは限らないし、ある微妙な点を見落としている可能性もある。まず、オーストリア学派でなくとも、デフレ(供給上限)が常に望ましくない現象であるかどうかは疑問である。デフレが望ましくない状況は確かにあるが、その判断は、経済の性質や社会で用いられる貨幣タイプに応じて異なり得る。人文科学はコンピューターサイエンスの数学と異なり、正答と強く確信できる者はいないし、学術界の意見は時と共に変化する。経済状況も同様であり、それが一連のダイナミクスの変化をもたらし、最適なインフレ政策が変わる可能性がある。したがって、「デフレは常に悪である」という強固な常に固定化したルールは、正しい理念でない可能性がある。例えば、インフレに対するフィッシャーの見解は、20世紀経済には正しかったが、テクノロジーは劇的な変化を遂げるであろう2150年までには、別のインフレ政策が社会にとってより適切となる可能性がある。

ビットコインは異なる性質を持ち、負債デフレによるスパイラル議論は的外れである

本シリーズのパート1とパート2で説明したとおり、ビットコインは米ドルや金本位制など経済で伝統的に使用されている貨幣と根本的に異なる特質を持つ。米ドルをはじめとする伝統的貨幣は、法定通貨の本質的特質である債務を基盤とする。片や、ビットコインは、信用拡大能力に弾力的な特質を持つ可能性があるため、本質的に債務とリンクしない。そのため、ビットコインを基盤とする経済では、経済破綻やデフレ時における債務の実質価値増大の影響は、想定されるほど大きくない可能性がある。したがって、負債デフレによるスパイラル議論は、ビットコインを基盤とする経済にとって関連性が薄くなるものと考えられる。  ビットコイン批判派の多くは、ビットコインのデフレ的貨幣政策のデメリットを評価する際、この点を見過ごしているのではないかというのが我々の見解である。

ビットコイン固有のインフレデメリット

デフレのデメリットに対する弾力性を高めるビットコインの潜在的メリットに加え、ビットコイン批判派は、ビットコインの以下のような弱点も見過ごしている可能性がある。こうした弱点によりビットコインはインフレにより脆弱となる。

  • 恣意的な環境破壊 – ビットコインに対するよくある別の批判として、エネルギー集約的採掘プロセスにより生じる環境破壊が挙げられる。本シリーズのパート2で採掘インセンティブについて取り上げたが、この問題は過大視されている可能性がある。採掘者には採掘活動の地理的場所に関して、それぞれ独自の幅広い選択権が与えられている。こうした柔軟性により、採掘者は新規プロジェクトに投資する代わりに、失敗したエネルギープロジェクトを活用できる。  ただし、ビットコインが環境にもたらす悪影響は、相当否定的な外部要因であると考えられる点は否めない。  採掘インセンティブは、トランザクション手数料とブロック報酬(インフレーション)から成る。したがって、インフレ率の上昇により環境被害の度合いは拡大し、否定的外部要因も増える。2%のインフレ政策が決断される場合、システム価値の少なくとも2%は、毎年環境の”破壊に費やされる可能性がある。こうしたインフレ政策の決断は、多少、恣意的であり、インフレターゲットが高いほど、環境破壊の度合いも大きくなる。既存の金融システムに平行する場合さえある。インフレ目標を達成するための中央銀行の景気刺激策も、少なくとも一部の批評家の目からは、高度の環境破壊を恣意的にもたらす可能性があると言われている。ビットコインを基盤とするシステムにおけるインフレと環境破壊との関係はより直接的で測定可能であり、  インフレが継続する代わりに、ビットコインでは、採掘インセンティブが完全にトランザクション手数料によって運営されるまで、ブロック報酬は4年ごとに半減する。つまり、環境破壊の度合いは市場によって左右することになり、市場は、インフレ的な金融政策の結果である恣意的な高度の環境破壊でなく、利用者がセキュリティに支払う意思のある金額を表す可能性がある。
  • 採掘者と利用者の利益のすり合わせ – 現在、採掘者の主な誘因は、トランザクション手数料でなくブロック報酬である。この点は、採掘者と利用者の利益相反など、エコシステムに潜在的な問題を多数もたらしている。例えば、採掘者は利用者の利益に反し、ブロックからトランザクションを除外することができる。採掘者の主な誘因がトランザクション手数料である場合の方が、採掘者がこの種の行動を取る可能性は小さいが、ビットコインのデフレ的方針を踏まえるといずれそれが現実となるのは確実である。
  • コイン価値の創出不能 – 投資家にとって、供給上限はビットコインの主なセールスポイントと考えられ、投資家の興味を掻き立て、システムの自立に不可欠な要素であったのかもしれない。無期限のインフレ方針が選択されたならば、経済的観点からはデフレ方針の方が不利であるとしても、ビットコインはこれほど成功できなかったかもしれない。

この議論の皮肉な点は「経済的批判が意味を持つのは、ビットコインが大成功を収めた場合のみ」という点

この議論の大半は、ビットコインの経済的意味に焦点を当てており、ビットコインが広範に普及しているため、インフレダイナミクスが社会に影響するものと仮定している。我々はこれをありそうもない結末と考えている。おそらく、ビットコイン批判派は、より強くそう考えているはずだ。さらに我々は、ビットコインが有益なニッチを満たし得ると考えており、検閲に強く、デジタル決済であるという性質を兼ね備えるが、経済における主要通貨となる可能性は小さい。したがって、ビットコインのデフレ的性質を巡る論争は、いずれにしても、概ね的外れであると考えられる。以上より、一部の批判派がこの点をビットコインに対する批判の根拠とするのは、やや奇妙な話しである。

この点は、2013年に米経済学者のポール・クルーグマン氏が『Bitcoin is Evil』という論文で展開した主張と類似する。クルーグマン氏は、「2005年前後までに、インターネットの経済的影響はファックスの経済的影響と大差ないことが明らかになるだろう」という1998年の発言を筆頭に、ビットコイン業界では広く嘲笑の的となっているが、以下の引用で引き合いに出した違いは、正確であると同時に示唆に富むものであると考えられる。

ビットコインがバブルであるか、素晴らしい発明であるかの両方について話そう。その理由の1つは、我々がこの2つの質問を混同しないようにするためだ。

ポール・クルーグマン – 『Bitcoin is Evil』 – 2013年

ビットコインの発明者ナカモト・サトシ氏は、社会的観点からメリットがあるのは、緩やかなインフレの方であったとしても、供給に上限を設けデフレ気味にすることが、システムの成功に役立つと考えたのだろう。システム考案者の立場からは、優先されるのは機能する決済システムの構築である。理論上、社会に有益であったとしても、成功しないシステムは最終的には用をなさないためである。

結論

結論として、ビットコイン支持派は経済に疎いというより、債務、デフレ、貨幣の特質、信用拡大について批判派の考えとは微妙に異なる理解をしているのだろう。対照的に、経済的主流派は貨幣と債務の関係をよく理解しておらず、ビットコインはこの2つの要素を何らかの形で分断する能力を秘めているという主張もあり得る。実際、この主張は、最もよく見受けられる誤解である。債務を貨幣から分断できる能力で、負債デフレによるスパイラルの問題を起こさずにデフレ環境をもたらすというビットコインの能力を多くの者は欠陥でなく利点と捉えている。

ただし、ビットコインがこの経済的問題を解決したとしても、恐らく、ビットコインがより成功を納める経済システムにつながると考えるのは短絡的であろう。ビットコインは新しい独自のシステムであるため、予想外または新規の経済的問題をもっと引き起こす可能性が高い。結局、完璧な貨幣など存在しない。伝統的な過去の経済問題をこの新種の貨幣に当てはめることが単純に適切でないのかもしれない。ビットコインの潜在的経済問題を見極めることは、より困難な可能性があるが、そのさらなる分析と基礎となる技術の理解を深めることが必要であると考えられる。

皮肉にも、デフレに関連するこうした経済的問題が的外れなものでない可能性は低いと考えるならば、ビットコインが広範に普及し、大成功を収める余地は小さくないということになる。その場合、賢明なのは、ビットコインを購入し、その後売らずに保持する(「HODL」)ことであろう。

ビットコインの価格相関性:S&P 500 に対し過去最高レベルに

この記事は、2018年3月28日にBITMEX リサーチによりアップロードされた記事の日本語訳です。

 

抜粋:ビットコインといくつかの従来型金融資産との価格相関性を2012年以降考察し、過去数か月の株式との相関性が過去最高に達したことに気づいた。ただし、絶対値としては比較的低水準にとどまっている。結論として、「相関性のない新しい資産クラス」という仮想通貨投資理論にはある程度分があるものの、エコシステムが拡大した場合、相関性は増す可能性があると言える。株式との現在の相関性を踏まえ、金融危機が発生した場合、一部の予想に反し、ビットコインは相場下支え要因とならない可能性がある。

概要

当社は、2012年以降のビットコインおよび多様な従来型金融資産180日移動平均価格を取り上げ、その変動率の相関性を考察した。以下の表が示すとおり、相関性は、-0.2~+0.2のレンジから大きく乖離することはなかった。これは比較的低水準である。

多様な従来型資産とビットコイン価格との相関性 – 180日移動平均価格(日足)の変動率。(出典:BitMEX リサーチ、Bloomberg、Bitstamp)

ビットコインと S&P 500 および金の比較

S&P 500 指数と金のみに焦点を当てると、ビットコインは複数期間で相関性を持つように見受けられた。

  • 当時、評論家からキプロス金融危機が一因に挙げられた2013年3月におけるビットコインの上昇局面では、ビットコイン価格と金価格の相関率が高まり、2014年1月にビットコイン価格が急落するまで、高いレベルに留まった。
  • 2016年12月のビットコイン上昇局面では、金価格との相関関係は再びやや強くなり、金とビットコインのいずれの相場も好調な年となった。この理由として、基礎的経済状況や政情不安定(中国の景気減速、英国のEU離脱、トランプ大統領の選出)という共通の要因が同年における両資産の価格変動に寄与した可能性が挙げられる。
  • 先頃のビットコインの買い相場はやや様相が違った。ビットコイン価格と株価との相関関係が過去最高(約0.25)に達したのである。ビットコインはこの相場で若干「リスク選好」性を帯びたように当社には思われる。投資に利用できる流動性の増加と新テクノロジーに対する熱気が株式とビットコインの価格変動をある程度加速した可能性がある。したがって、金融破綻や株式市場の急落時にビットコインが逃避先となる可能性(従来、ビットコインの強みの1つと考えられていた)は遠のいた模様だ。さらに、ここ最近、金との価格相関性は若干マイナス傾向にある。

S&P 500 指数および金に対するビットコイン価格の相関性 – 180日移動平均価格(日足)の変動率。(出典:BitMEX リサーチ、Bloomberg、Bitstamp)

統計的有意

ビットコインと他の資産の決定係数は低く、最近の上昇局面で S&P 500 に対して付けたわずか 6.1%が最高である。さらに、効果的な方法を用いても、ビットコインと従来型資産との価格変動(日足)の相関関係における統計的有意を証明できていない。したがって、この記事は科学的には推測に留まる。

S&P 500 指数および金に対するビットコインの決定係数 – 180日移動平均価格(日足)の変動率。(出典:BitMEX リサーチ、Bloomberg、Bitstamp)

最近の価格変動

効果的な統計手法に基づいても、データ点の数が限定的などの要因で結論を下すのは難しいが、過去数か月におけるビットコインと S&P 500 の比較チャートでは、完全に無視できない強い相関関係が示されている。

ビットコイン価格と S&P 500 指数との比較。(出典:BitMEX リサーチ、Bloomberg)

実際、Bloomberg が以下のグラフで指摘したように、ビットコイン価格のピークは、S&P 500 の将来収益バリュエーションレシオのピークと一致した。この比較には疑わしい点がある。株価が天井に達したのは1月末(ビットコインは12月末)であり、2018年度の収益予想は2017年末に上方修正されたためである。

S&P 500 指数の予想 P/E レシオとビットコイン価格の比較。(出典:Bloomberg)

イーサリアムとライトコイン

当社は、イーサリアムおよびライトコインとビットコイン価格の変動(日足移動平均)も考察した。これらコインとビットコインとの価格の相関関係は、明らかに従来型資産よりはるかに強く、統計的に有意である。2017年の大規模な仮想通貨買い相場において、ビットコインとの価格相関性は0.1まで急減した。アルトコインがビットコインに対して取引され、独立的動きを示したためである。2018年に価格調整が始まってからは、仮想通貨が同様の動きを示す中、価格相関性は上昇し始めた。

  • ライトコイン — 相関性は高い傾向にあり、0.5 前後を推移している。2015年には、ライトコインの価格変動が乏しく、0.2 近辺まで落ち込んだ。
  • イーサリアム — イーサリアムは発行当初、比較的小規模で、発行にまつわる不透明感、創業チームへの資金提供モデルなど固有のリスクにさらされていた。そのため、ビットコインとの価格相関性は低水準に留まっていたが、やがてライトコインと同様のレベルに達した。

イーサリアムおよびライトコインに対するビットコイン価格の相関性 – 180日移動平均価格(日足)の変動率。(出典:BitMEX リサーチ、Bloomberg、Bitstamp)

結論

仮想通貨擁護派は、仮想通貨とは「相関性のない新たな資産クラス」であり、従来型資産のポートフォリオマネージャーにとってヘッジ手段となると主張する。これが事実であれば、ポートフォリオでの仮想通貨比率を高めるものと予想されるため、価格の上昇要因となり得る。
過去、ビットコインは一貫してそれほど価格相関性のない資産クラスであったように見受けられる。ただ、時価数千億ドル規模に押し上げた最近の上昇局面では、相関性は上昇し始めている(しかもリスク選好資産に対して)。
従来型資産と相関しないという仮想通貨仮説にはある程度もあるが、仮想通貨価格が高止まるか続伸し、世界金融システムに重要な位置を占めるようになれば、従来型資産と相関し始めるのは避けられないであろう。
仮想通貨が「新たな」資産クラスであるか、それが重要であるかは別の問題である。単に新しいというだけで重要性があるかは疑わしい。より重要なのは、仮想通貨が独自要素を提供するかどうかの方が重要であろう。

ビットコインブロックの略図:非公開型対公開型 AsicBoost

この記事は、2018年3月1日にBitMEXリサーチによりアップロードされた記事の日本語訳です。

 

抜粋:今回のブログでは、マークルツリーなどを用いてビットコインブロックを図説します。また、Segregated Witness(通称「SegWit」)のアップグレードに関連して、追加のマークルツリーが必要な理由も説明します。次に、公開型と非公開型 AsicBoost のいくつかの潜在的欠点に焦点を当て、この点に関する 2017 年 9 月のブログ記事を補完します。特許所有者からの最近の発表を受け、新しいブロックチェーン防御的特許ライセンス (BDPL) スキームは、堅牢である場合、ネットワークで公開型 AsicBoost を使用する欠点を限定する可能性があります。その一方で、効率性に劣る非公開型 AsicBoost では、いくつかの問題がなお残ります。

 

上記は、ビットコインブロック構造とその中に含まれるマークルツリーの略図です。より詳細な図が ジェレミー・ルービン氏  ティモ・ハンケ氏によって作成されています。(出典:BitMEX リサーチ

図の構成要素

ブロックヘッダ 

ビットコインブロックのヘッダ(グレー)は約 80 バイトで、バージョン、前のブロックのハッシュ、マークルルート、タイムスタンプ、ビット(難易度)、ナンスを含んでいます。

ブロックヘッダ候補

これにはナンスを除く上記の要素すべてが含まれます。

チャンク

上図では、マークルルートは 2 つのチャンクに分かれています。これは、ビットコインの SHA256 プルーフオブワーク機能を実行するために必要です。この点に関する説明は、AsicBoost に関する過去の ブログ記事 をお読みください。

2 番目のマークルツリー

SegWit のアップグレードでは、新しいマークルツリーが導入されました。このツリーは、メインのマークルツリーと同じ構造を持ちますが、検証データ(witness)を含み、コインベーストランザクションは含みません。各トランザクションの相対的位置は、メインのマークルツリーと同じである必要があります。

2 番目のマークルツリーが必要な理由

2 番目のマークルツリーによって複雑さは増し、これを欠点と考える人もいます。SegWit は、ビットコインをアップグレードしたものであり、シグハッシュ操作の二次的拡張やトランザクション展性といったバグが修正されています。検証データは、古いノードがハードフォークとなるトランザクションを無効とみなすため、メインのマークルツリーには追加できません。

ただし、SegWit をソフトフォーク型でなくハードフォーク型のアップグレードにすれば、マークルツリーを加えずに済むわけではありません。メインのマークルツリーに検証データを含めてハードフォーク状態にすると、既存のウォレットは、新しいトランザクションフォーマットを無効とみなすことになります。また、こうしたウォレットはノードを完全に検証するかどうかにかかわらず、新しいトランザクションフォーマットに対応しません。その結果、一部のユーザーは他のユーザーと接触できず、資金は紛失したように見える可能性があります。このタイプのアップグレードは、ビットコインなどのライブネットワークでは大規模な中断が避けられません。そのため、SegWit のアップグレードがハードフォークであっても、2 番目のマークルツリーで増す複雑さを受け入れる必要があります。

AsicBoost

AsicBoost に関する過去の ブログ記事で説明したように、非公開型 AsicBoost には、マークルツリーの直前 4 バイトの衝突(コリジョン)を見つける作業が伴い、ハッシュアルゴリズムがマークルルートを 2 つのチャンクに分ける特性を利用します。非公開型 AsicBoost ではトランザクションが無秩序となります。これは公開型 AsicBoost には見られない欠点です。非公開型 AsicBoost は、ブロックがずっと小型で検知可能な場合を除き、2 番目のマークルツリーによって、より難解になる可能性があります。

AsicBoost の潜在的問題

  非公開型 AsicBoost 公開型 AsicBoost

特許保護

AsicBoost のこの潜在的欠点は非公開型と公開型の用法のタイプに当てはまります。AsicBoost は特許技術であり、特許に関する過去のブログ記事で説明したように、ブロックチェーン界で、特に有害となる恐れがあります。この点は AsicBoost の最大の欠点となりかねません。採掘企業 1 社に競走上、挽回不能な優位を与えることになるためで、法的制約により埋めることができない格差につながり、ビットコインの中核的価値提案を台無しにしかねません。特許問題が深刻化すれば、ビットコインコミュニティはソフトフォークを実施して、AsicBoost を遮断する可能性があります。

この問題の軽減策として、特許所有者は、防御的特許誓約を作成して、特許を公開することができます。AsicBoost の特許所有者は、最近そうした誓約をした可能性が指摘されています。誓約が十分堅牢であると証明されれば、少なくとも特許が適用される地域において、この問題はしばらく収まるでしょう。

小型ブロックと低キャパシティ

非公開型 AsicBoost は、その効率性を高めるためにブロックの小型化あるいは空洞化が進む誘引となり得ます。小型化や空洞化すると、ネットワークキャパシティは小さくなり、トランザクション手数料が増加します。

小型/空洞ブロックは、キャパシティに不利な影響を及ぼします。ネットワーク維持は困難なままである反面、こうしたブロックはトランザクションのバックログに大きく寄与しないためです。

該当なし

SegWit へのアップグレードに消極的で、その理由が不誠実である可能性

AsicBoost にとって最もダメージの大きい欠点として、一部の採掘業者が SegWit へのアップグレードに消極的となる要因であることが挙げられます。これ自体、それほど不利な要因でないかもしれませんが、SegWit に関して不誠実で敵対的な情報操作が展開されると、エコシステムに多大な損害をもたらす可能性があります。

ただ、これは単なる推測からなる根拠のない非難であり、SegWit 反対の誘引であるかどうかは不明であることを指摘しておきます。

該当なし

マークルツリーやトランザクションの調整能力への依存

上図で示すとおり、非公開型 AsicBoost は、採掘業者のマークルツリーやトランザクションの調整能力に依存しています。この事実は、小型ブロック意外のネットワークに有害な影響を及ぼす可能性があります。公開型 AsicBoost は、変更が必要なのがブロックヘッダのフィールドのみであるため、より明白な解決策のように思われます。

該当なし

機密面で競争上優位

非公開型 AsicBoost は検知不能であるため、既知の優位と比較して、情報の機密性で一部採掘業者に競争上の有利をもたらす可能性があります。

透明性は一般的にプラスの要素であると考えられますが、非公開型 AsicBoost が動作するネットワークが、この表の他の部分で掲げる欠点に加え、機密性の点でも直接不利益を被るかどうかは明確ではありません。

該当なし

ビットコイン・コアのバージョン信号発信機能と警告メッセージを介したソフトフォーク型アップグレードの実施能力低下

n/a

公開型 AsicBoost では、上図の左上にあるバージョンフィールドを使用します。このフィールドは、採掘業者がソフトフォーク型のアップグレードの準備ができていることを示す信号として使用されています。公開型 AsicBoost では、このフィールドでスペースを使用すると、アップグレード信号システムとして使用できなくなる場合があります。

ただし:

  1. 公開型 AsicBoost はすべての 4 バイトを必要としない可能性があるため、ソフトフォークの信号発信のために一部のバイトを残すことができます。これにより、同時に実行可能なソフトフォークの数を減らすことができます。
  2. ソフトフォークの信号発信システムは、いずれにしても失敗であるという見方が大勢を占めています。採掘業者は矛盾する信号を同時に発信することがよくあり、信号方式の信頼性を損なっています。

公開型 AsicBoost のもう 1 つの欠点は、ビットコイン・コアソフトウェアが異常なバージョンフィールドを見て、ネットワークが不明の方法でアップグレードしていると考え、その結果、ユーザーに警告メッセージを発する点です。

当社は、AsicBoost が必ずしもネットワークにとって不利だとは考えていません。非公開型 AsicBoost はブロックの小型化を促すという問題を抱えていますが、公開型 AsicBoost に関連する問題の大半は軽減できます。特に、BDPLシステムが堅牢と証明された場合、現時点で予測可能な範囲では、公開型 AsicBoost の使用による重大なマイナス要素は見当たりません。

Tether

この記事は、2018年2月18日にBitMEXリサーチによりアップロードされた記事の日本語訳です。

 

抜粋:テザー(Tether)は、ビットコインとイーサリアムのブロックチェーンを基盤とする仮想通貨で、その価値は、中央管理される米ドル準備金によって米ドルと連動します。テザーを巡る懐疑論があり、システムの裏付けとなる準備金が不十分と非難されています。こうしたテザー懐疑論の大半は論点の焦点がずれているとBitMEXは考えています。当社は、プエルトリコの銀行制度へのテザーの影響を明示する証拠となりそうなものを公表財務データで発見しており、規制関連の問題に直面する可能性(あるいは既に直面?)が、テザーの保有者にとって長期的に大きな懸念材料になると考えています。

テザーについて

テザーは、米ドルなどのFiat(法定)通貨をビットコイン(およびイーサリアム)のブロックチェーンで使用できるスキームです。以下は、テザーの ホワイトペーパー でのテザーについての説明の抜粋です。

デジタル通貨を法定通貨で裏付けることで、個人や機関投資家は、堅牢な分散管理型方式のメリットを得つつ、馴染みのある会計単位を使用することができます。ブロックチェーンの革新性は、監査可能で、暗号によって保護される世界的レジャー(台帳)にあります。資産担保通貨の発行企業をはじめとする市場参加者は、ブロックチェーン技術および組み込まれたコンセンサス(合意形成)システムを活用して、馴染みのある、比較的変動の小さい通貨や資産で取引できます。説明責任を維持し、交換価格を安定させるために、我々は、仮想通貨「テザー」と関連のある実在資産「法定通貨」との間の準備比率を 1:1 に保つ方式を提案しています。この方式では、ビットコインのブロックチェーン、準備金証明、その他の監査方法を用い

て、懸案通貨が完全に担保され、準備金が常備されていると証明します。

つまり、テザー通貨は、 ビットコイン と イーサリアム のブロックチェーンに存在しており、その割合はそれぞれ、約 97%、3% となっています。ビットコインでは、テザー通貨は 実在通貨 同様に存在し、 Omni Layer を使用しています。Omni Layer のプロトコルでは、ビットコインの余剰取引データ(テザーの作成や移転など)から追加的意味を解釈します。

テザーは主に金融投機に使用されている模様で、多くの取引所で、ビットコインなどの仮想通貨を相手資産とするテザーの売買を認めています。テザーの現在の発行高は約 22 億(22 億米ドルに相当)となっています。以下のチャートで示されるように、テザー保有者の約 85% は身元が特定されており、仮想通貨取引所の最大手クラスが上位保有者に名を連ねています。こうした大口保有者がテザーを直接米ドルに換金できる何らかの仕組みがある可能性が高く、そうした仕組みについてこのレポートで後ほど推察します。

20182月時点のテザー所有者、単位:百万米ドル。(出典:Tether rich list Tether transparency report)

テザーのハッキング

テザーの金庫ウォレットは 2017 年 11 月に ハッキングされた疑いがあります。盗難額は 3,100 万米ドルで、外部ビットコインアドレスに送金され、そこで 凍結状態のままになっています。11 月 21 日、テザーは OmniCore の フォーク済みクライアント をリリースしました。この Omni Layer の実質的なハードフォークにより、盗難資金は凍結されました。テザー社は現物の米ドルでテザー通貨を担保していますが、その選択した側のフォークのトークンのみを担保するのは明らかであるため、テザーの利用者はアップグレードせざるを得ませんでした。以下はテザー社の主張です。

すべてのテザーのインテグレーターに、このソフトウェアを即刻インストールすることを強くお願いします。

ハッキング事件を受け、テザー社がハードフォークを独断で強行し、トランザクションを振り戻すことができたことから、レジャーが実質的にテザーの完全支配下にあることが実証されました(ただ、それ以前のテザー社の支配について何ら疑うべき点はなかったかもしれませんが)。これにより、テザー社がビットコインやイーサリアムのブロックチェーンにデータベースをわざわざ構える理由が問われ始めました。採掘業者に手数料を支払わずに、自前の公開データベースを作成した方が、テザー社にとってはるかにコスト安です。テザー社は資金を凍結し、その状態を保つことはできたものの、そのプロセスは、新しいソフトウェアプログラムを記述、リリースし、すべてのテザー取引所にアップデートを求める必要があり、高度な技術と多くの時間を必要とします。

テザーの支配者とは?

テザー社の「About us」ページが 2017年 12 月 5 日 ~2017 年 12 月 7 日の間だけ表示され、テザー社の経営陣は Bitfinex 取引所と同じであると判明しました(以下に図説)。これは、テザー社が米商品先物取引委員会から召喚状を受領したとされる時期(2017 年 12 月 6 日)とほぼ同じです。それ以前に、テザー社は経営陣を少なくとも Web サイトでは開示していませんでしたが、テザー社の背後には Bitfinex がいると広く考えられていました。開示のタイミングから見て、召喚状がきっかけで透明性を高めた可能性が浮上します。

Bitfinex 幹部チーム テザー社経営陣
JL van der Velde (CEO) JL van der Velde (CEO)
Giancarlo Devasini (CFO) Giancarlo Devasini (CFO)
Philip Potter (CSO) Philip Potter (CSO)
Stuart Hoegner (ゼネラルカウンセル) Stuart Hoegner (ゼネラルカウンセル)
Matthew Tremblay (最高コンプライアンス責任者) Matthew Tremblay (最高コンプライアンス責任者)
Paolo Ardoino (CTO)
Chris Ellis (コミュニティマネージャー)

テザー社と Bitfinex の経営陣はほぼ同じ。(出典:Tether Bitfinex)

2017 年 11 月発行の「The Paradise Papers」によると、Bitfinex の CFO と CSO は、それぞれテザー社の所有者および取締役です。テザー社と Bitfinex のつながりについては、テザー社の Web サイトでの完全開示前にも若干、疑われていました。

テザー社経営陣と所有者。(出典:Paradise Papers)

Bitfinex はテザー社を支配していないと、テザー社が過去に示唆したことがあると考える人もいます。たとえば、テザー社の創業者兼顧問、Craig Sellars 氏は、Bitfinex の元 CTO でもあるのですが、2017 年の春にReddit について 以下のように述べています。

Bitfinex はテザー社の 顧客 です。Bitfinex がもっと米ドルを必要とするなら、他のテザー社の顧客と同じように、テザー社にリクエストします。テザー社は米ドルが出回るのを待ち、出てきたら、必要なテザーを作成して、Bitfinex に提供します。

この発言は、多様な解釈が可能ですが、Bitfinex はテザー社を支配していないと明示するものでないのは確かです。上記の発言の 1 か月前のこちらの 発言の中で、Sellars 氏は、自分と Bitfinex CSO の Phil Potter 氏がテザー社の改善方法を話し合っていたことを明言しています。Sellars 氏は、テザー社と Bitfinex への同時関与についても、公表しており、LinkedIn プロフィールに以下を明示しています。

  • 2014 年 4 月から現在まで:テザー社創業者兼顧問
  • 2015 年 1 月~2016 年 5 月:Bitfinex CTO
  • 2014 年 4 月~2016 年 5 月:テザー社創業者兼 CTO

一部の人が主張するように、テザー社が Bitfinex への関与について大衆を欺いたという証拠があると、当社は考えていません。

テザーの監査

テザー社ホームページ には以下の記述があります。

当社の準備金保有高は毎日公表され、専門家による度重なる監査の対象となります。

会計事務所 Friedman LLP (FLLP) は、2017 年 9 月に報告書を公表し、テザー社が保有することになっていた米ドル残高を確認しました。報告書には、2017 年 9 月 15 日時点で、テザー社名義の銀行口座残高が 382,064,782 ドルであったと記載されています。

ただし、報告書には銀行名の開示がなく、銀行の営業国にも触れていません。さらに、報告書には、以下の記載もあります。

FLLP は、上記銀行口座の条件を評価しておらず、当該クライアントが口座から資金にアクセスできるか、または資金がテザートークンの換金以外の目的に確保されているかどうかについて表明しません。

2018 年 1 月、テザー社は FLLP との関係を終了し、以下の説明メールを出しています。

当社は、Friedman との関係を解消したことを認めます。  比較的単純なテザー社のバランスシートに対して、Friedman がとったきわめて周到な手順を考慮すると、監査を適当な期限内に完了できないことは明確です。テザー社は、こうしたプロセスを経験し、一定レベルの透明性を追求する業界初の企業であるため、プロセスの指針となる前例も、成否を測る指標も存在しません。

上記の声明から、透明性の欠如と監査プロセスの不備、あるいは少なくともテザー社 Web サイトの約束との不整合がうかがえます。これが仮想通貨界の憶測の原因となった可能性があります。例として、テザーは 投資詐欺であるという 主張 が挙げられます。

透明性の欠如=不正とは限らず

テザー社は利用者が米ドルを送金・受領できるようにしています。トランザクションは簡単に阻止できず、利用者は許可を必要としません。ただし、トランザクションを阻止するためにテザー社がすべての利用者に新規クライアントへのアップグレードを求める場合を例外とします。3,100 万ドルのハッキング事件後に生じたこのプロセスは手間がかかります。

テザー社は、トランザクションの作成や受領時に、利用者にある程度の匿名性を認める可能性もあります。その特徴は、ビットコイン同様、犯罪者を魅了する恐れがあります。取引所など、テザーの発行・換金能力を持つ者は、承認と身元確認プロセスを通過する必要がありますが、個人ユーザーは公開/秘密鍵ペアの作成のみでテザーを使用でき、この点もビットコインと共通しています。

規制当局は、こうした点を好ましく思っていない可能性があり、銀行は懐疑心を持ってテザーを捉える可能性があります。テザーの担保に必要な米ドル準備金を保有するため、テザー社も銀行を利用する必要があります。多くの銀行は、テザー社に対して慎重な態度を取る可能性があり、テザー社を顧客として受け入れることは、マネーロンダリング防止用規則など銀行のコンプライアンス手続きに違反する可能性があります。

つまり、テザー社は問題に直面する可能性があります。テザー社が準備銀行からテザーを操作する方法を隠そうとするか、コンプライアンス手続きが大半の大手金融機関のものほど厳格でない銀行をテザー社は見つける必要があるかもしれません。テザー社は、銀行との適切な関係を模索した可能性があり、しかるべきパートナーを見つける過程で、多数の法域の多数の銀行に口座を開設した可能性があります。米ドルの準備金不足というより、透明性の明らかな欠如が主な理由である可能性が高いと当社は考えています。基礎となる活動が規制当局の明確な認可を受けていないか、規制下にない場合、テザー社の株主の一部が期待する透明性を実現するのは金融部門では不可能かもしれません

Bitfinex 取引所は、先頃の仮想通貨バブル相場で 1 日あたり 100 万ドルの余剰収益を上げていた可能性があります(1日あたり取引高 100,000 BTC、手数料率 0.1%、価格 10,000 BTC と想定)。テザー社が問題を抱えていたとしても Bitfinex はシステムを救済する十分なリソースを所有している可能性があります。こうした資金力により、テザー懐疑派が主張する類の不正行為や投資詐欺を実行する誘引の一部は排除されることにもなります。

プエルトリコからの財務データ


 では、テザーがプエルトリコ(未編入の米国領)と何らかのつながりがあると取り沙汰されています。当社は、 公開財務データ を分析して、異常な活動や大幅な成長の印を探すことにしました。

International Financial Entities (IFE) 銀行部門で現金残高(および預かり金残高)が大幅に増えているのが目につきました。現金準備高のこうした急増はテザーに関連している可能性があります。また、仮想通貨エコシステムのテザー以外の領域に関連している可能性もあります。例えば、プエルトリコを 仮想通貨のユートピアとする計画があります。

以下のチャートでは、発行済みテザーの値とプエルトリコ IFE 銀行部門の預かり金残高を比較しています。相関性はまったく見当たらず、データから有力な結論は導き出せません。今後、この地域の規制当局のデータがどのように推移するかが注目されます。

プエルトリコの IFE 合計預かり金残高とテザー残高の比較、単位:百万米ドル。(出典:IFE AccountsBitMEX リサーチ、Coinmarketcap)

合計現金残高は、それ自体急増しているだけでなく、以下で図示するとおり、総資産に占める割合も増加しています。

 プエルトリコの IFE 合計現金残高が総資産に占める割合。(出典:IFE AccountsBitMEX リサーチ)

このバランスシートは、一般的ではありません。通常、銀行は資産の大半を貸し付け、現金は少額のみ保有します。以下の表では、銀行バランスシートの簡略化した一般構造を示しています。

通常の銀行および準備金 100% の銀行のバランスシートの雛形。(出典:BitMEX リサーチ)

完全準備銀行のバランスシートは通常と異なり、財務アナリストであればマクロ経済データを見ても区別できるはずです。2017 年 9 月末時点で、プエルトリコの金融機関の同部門では総資産に占める現金比率が 70% 超まで上昇しました。この事実から、プエルトリコに完全準備銀行があり、その数は増えていることが読み取れます。

完全準備銀行

完全準備銀行(別名「準備金 100% 銀行」)とは、預かり金を貸し付けず、カストディ銀行または中央銀行に現金を現物でまたは預金として電子的に預かり資金の全額を維持する銀行を指します。完全準備銀行は、近代財務学における非主流概念で、オーストリア学派やリバタリアニズム(あるいはビットコイン型哲学)とよく関連付けられます。完全準備銀行制度では、金融システムが信用拡大の影響を受けにくくなると言われていますが、ビットコインも同様の効果を達成できると提唱されています。その主なメリットは、経済においてビジネスサイクルが発生しにくくなる可能性が指摘されています(このトピックについては、過去の ブログで説明しています)。

Noble Bank

プエルトリコの IFE 部門に属する全金融機関を考察したところ、完全準備銀行であると主張する銀行を 2 行特定しました。Euro Pacific International Bank および Noble Bank Internationalです。完全準備銀行は稀であるため、他にも存在する可能性は否定できないものの、その可能性はきわめて小さいと考えられます。

プエルトリコの登録 IFE リストから抜粋。Noble Bank BitMEX によって赤で囲まれています。(出典:Commissioner of Financial Insitutions of Puerto Rico)

Euro Pacific Bank の経営者はオーストリア人著名経済評論家のピーター・シフ氏です。同氏はビットコインに対して懐疑的立場をとっているため、シフ氏がテザー社のようなビットコイン関連企業に関与する可能性は低いと考えられます。

一方、Noble Bank は仮想通貨と関連があり、テザー社とかかわっている可能性があります。仮想通貨への Noble の関与の証拠としては、次の抜粋文書が挙げられます。2015 年に同行が送付した 規制当局宛ての書簡の以下の部分です。

Noble は、現物通貨、ビットコインおよびその他のデジタル通過の取引、清算、および決済業務の総合金融市場ネットワークを運営する予定です

Noble はまた、2015 年にナスダックとビットコイン関連の事業 提携 を結んでいます。プエルトリコにおける金融サービス業界のこの部門の急成長は、テザーの関与の有無を問わず、Noble Bank と仮想通貨に関連すると当社は推察します。

Noble Bank のジョン・ベッツ創業者兼 CEO は、2014 年に Sunlot Holdings がマウントゴックスのテイクオーバーと救済に 乗り出した 際にも、陰で糸を引いていました。Sunlot の 背後 には、テザー社 創業者 の 1 人であるブロック・ピアス氏がいました。

言うまでも無く、Noble Bank CEO とテザー社創業者の 1 人が過去に仕事上のつながりがあったことが、何らかの証明になるわけではありませんし、ブロックチェーンのエコシステムは狭い世界であるため、こうしたつながりはあり得ることです。Noble Bank がテザーの主要準備銀行であったとしても、Noble Bank が不適切な行為や違法行為に手を染めているという証拠にはならないことを強調しておきます。

インターネットサイト Medium への投稿記事で、Noble は「顧客に自前の信用プールを作成」可能にする方法を示し、このシステムの構造を以下の図で説明しています。

(出典:Medium)

上記モデルは、テザーの基本構造である可能性があり、テザーが米ドルで担保される仕組みとなり得ます。このモデルによると、テザーを担保する米ドルはプエルトリコの銀行制度に組み込まれていることが読み取れます。準備金は Noble のカストディ銀行であり、世界最大のカストディ銀行でもあるバンク・オブ・ニューヨーク・メロン銀行が保持しています。  真実であれば、テザーは投資詐欺ではないことになります。米ドルの準備金が存在し、当局に報告されており、準備金は比較的安全であると考えられるためです。ただ、このレポートで後述するように、長期的なテザー保有者を完全に安心させる要因ではありません。

事例研究

上述したとおり、テザーには次の特徴があります。

  • テザーの送金や受信に許可は不要。
  • トランザクションは容易に阻止できない。
  • テザー利用者はある程度匿名性を保つことができる。

こうした特徴により、テザーのシステムは、犯罪者やマネーロンダリング実行者にとって魅力的となる可能性があります。犯罪活動が蔓延するようになれば、当局はシステムの閉鎖を望むかもしれません。こうした事態は、以下の事例研究が示すとおり、過去、頻発しています。こうした事例研究の歴史について、このレポートで詳しく後述します。

リバティ・リザーブ (2006-2013)

リバティ・リザーブはコスタリカを拠点とする中央集中管理型のデジタル通貨サービスであり、インターネットから米ドル建て決済資金の送金と受領が可能でした。決済はメールアドレスを使って実行され、システム使用者の身元を特定する手順はありませんでした。2013 年、コスタリカ当局は、リバティ・リザーブを 閉鎖しました。  起訴の対象となっている 60 億米ドルの犯罪収益の浄化手段となっていることが理由に挙げられました。リバティ・リザーブの創業者は逮捕され、禁固刑を宣告されました。以下は、BBC による リバティ・リザーブの説明 です。

クレジットカード、郵便為替などの送金サービスを使って、リバティ・リザーブに現金を注入することが可能でした。注入後に、ユーロか米ドルに連動する同社固有通貨に「転換」されると、別の口座保有者に振り込み、その口座の保有者が資金を引き出せるようになります。

GoldAge (1999-2006)

リバティ・リバースの創業前、同じ創業者は GoldAge という金ベースの決済プラットフォームを運営していましたが、これも当局によって閉鎖されています。米司法省は、以下のとおりGoldAge を表現しています。

2002 年の営業開始以来、被告は、少なくとも 3,000 万ドルを世界中のデジタル通貨口座に転送した。デジタル通貨取引所、GoldAge がマネーロンダリングスキームの一環として、2006 年 1 月 1 日~2006 年 6 月 30 日の期間に受領・転送した額は 400 万ドルにのぼる。

e-Bullion (2001-2008)

e-Bullion は、中央集中管理型のインターネットベースの金決済システムでした。2008 年、同社の共同創業者が 殺害されました。その結果、米国政府は同社資産を没収し、システムは閉鎖されました。

DigiCash (1994-1998)

中央集中型の連動決済プラットフォームの中でも DigiCash ほど興味深いものはそうありません。デイビッド・ショーン氏が創立した、DigiCash は、システムに組み込まれた ブラインド署名を基盤とする強力な匿名性技術を有していました。プラットフォームは、モネロのような最新分散型無記名トークンと似ています。

DigiCash は、中央集中管理型でしたが、すべての情報が匿名であったため、処理者はトランザクションに関して詳しい情報が得られませんでした。そのため、トランザクション自体、ある意味、完全に検閲に耐えられる仕組みとなっていました。ところが、同社はやがて破綻し、1998年に破産を申請します。

検閲耐性には 2 つの側面があります。1 つめは、トランザクション自体を阻止できない側面。2 つめは、システム全体を容易に閉鎖できない側面です。1 つめの側面は、リング署名などの匿名ベースの技術を通じて、比較的簡単に達成されますが、2 つめの側面を実現するのはそれほど容易ではありません。

米国司法省は、インターネットベースの決済システムの閉鎖に関して、以下を含む 他の事例を公表 しています。

E-gold (1996-2007)

2007 年 4 月、ワシントン D.C.の連邦大陪審は、デジタル通貨事業の運営企業 2 社とその所有者を起訴しました。起訴されたのは、E-Gold Ltd., Gold、Silver Reserve, Inc.、およびそれぞれの所有者であり、訴因は、貨幣手段の洗浄の共謀、連邦法に基づく免許を取得せずに送金事業を運営したことによる無免許での送金事業運営の共謀、およびワシントン D.C. の法律に基づく免許なしでの送金でした。起訴状によると、代替決済システムの利用希望者に対して、E-Gold が必要としたのは、有効なメールアドレスの提供と、E-Gold 口座の開設のみで、他の連絡先情報は検証されませんでした。この起訴は、米シークレットサービスによる 2 年半の捜査の賜物であり、内国歳入庁(IRS)連邦捜査局(FBI)、州や地方のその他法執行機関などの捜査官の協力も得ました。ワシントン D.C. 担当のジェフリー A. テイラー連邦検事は次のように主張しています。「被告は高度かつ広範な海外送金事業を、世界中で何らの監督や規制も受けずに運営し、マウスをワンクリックするだけで匿名での資金移動を可能にしていた。当然、あらゆるタイプの犯罪者は、無法の資金移動場所として、 E-Gold に引き付けられていった。」

ShadowCrew

2006 年 6 月 29 日、アンドリュー [マントバニ] は、オンラインの議論フォーラム「Shadowcrew.com」を共同創設した罪で、連邦刑務所での 32 か月の禁固刑を宣告されました。このサイトには、4,000 名を超えるメンバーがおり、その多くは個人情報盗難や詐欺の専門家でした。Shadowcrew のメンバーは、物品や犯罪サービスの代金をデジタル通貨で送金・受領していました。起訴されたメンバーの 1 人、Omar Dhanani は、違法通貨取引所を運営し、違法活動で得た現金を匿名でデジタルゴールド(ビットコイン)に転換するマネーロンダリングサービスをメンバーに提供していました。Dhanani は、Shadowcrew メンバーがデジタルゴールドを使用することで従来の銀行システムを回避していたと証言しました。米シークレットサービスが 1 年かけて捜査した結果、2004 年 10 月に米国内で 21 人が逮捕されたほか、数人が海外で逮捕されました。

Western Express International Currency Exchange Company (2002-2005)

2006 年 2 月 22 日、Vadim Vassilenko、Yelena Barysheva、Alexey Baryshev は、2002 年~2005年にかけて違法な小切手の現金化および送金事業に従事した罪で、ニューヨーク州で起訴されました。3 人が在籍していた Western Express International は、犯罪収益とデジタル通貨との交換であることを知りながら、通貨取引所の役割を果たしていました。Western Express は Web サイトを通じて、米国での違法活動に東欧、ロシア、ウクライナの海外顧客を積極的に勧誘していました。顧客は架空の身元を多くの場合複数使いながら、リシッピング、フィッシング、スプーフィング、スパミングなど、多彩なサイバー犯罪を実行しました。盗難クレジットカード番号を使って購入されたアイテムはデジタルゴールドと交換で再売却され、Western Express を通じてさらに浄化されていきました。ニューヨーク州銀行規制に違反して、同社の銀行口座から流出した資金は、4 年間で総額 2,500万ドルに達しました。

結論

特定の特徴(検疫耐性型、匿名トランザクションなど)を持つ中央管理型システムが監督当局によって閉鎖される傾向にあるのは、歴史が物語っています。テザーはこうした閉鎖サービスといくつか共通する特徴を持つため、犯罪の温床となり、いずれ同じ運命を辿る可能性があります。

テザーには、次の 2 つの選択肢があると当社は考えます。

  1. 身元確認やマネーロンダリング防止手順を含むようにシステムを改善し、運営者がトランザクションを簡単に阻止したり資金を凍結したりできるようにする。テザーは、そのために技術アーキテクチャの抜本的変更が必要となる可能性があり、公開ブロックチェーンを去ることになるでしょう。実質的に、テザーは従来型(または完全準備)銀行に転換することになります。
  2. 現状のまま継続すると、いずれ、当局によって閉鎖されるリスクを負うことになります。

テザーが閉鎖された場合、一部のユーザーは一時的であれ、自己資金にアクセスできなくなる可能性があります。当社はテザーの長期保有をおすすめしませんが、その理由は、通常主張される疑念のためではありません。テザーの大半の用途が金融投機にあると考えられることから、テザーが犯罪に悪用される恐れは比較的低いと当社は考えます。また、テザーを使って資金を洗浄する犯罪者の証拠は見つかっていません。現状では、直ちに閉鎖される可能性は低いでしょう。

上記事例を読むと、2 つの角度(個別取引とシステム全体)から見た検閲への耐性、および分散型仮想通貨が長期的に存続するために達成が必要な要素が分かります。トランザクションを阻止不能、使用許可が不要、または匿名使用を許可する決済システムは、いずれ閉鎖されることになるでしょう。これはテザーやリップル のようなシステムに当てはまります。リバティ・リザーブ、E-gold、DigiCashがそうであったように。回避策として、閉鎖不能の分散型システムの構築を目指す(つまり、システム全体を検閲耐性型とする)ことが考えられます。  ビットコインなどのプルーフ・オブ・ワークベースのシステムが達成できるかどうかは、なお検証が待たれます。

免責事項:

このブログで展開される多くの主張は引用ですが、当社はその正確性を保証しません。間違いがあれば、ぜひ、ご指摘ください。

採掘インセンティブ – パート 3 – 短期対長期

この記事は、2018年1月17日にBitMEXリサーチにより投稿された記事の日本語訳です。

抜粋:暗号通貨採掘インセンティブ (誘引)に関する 3 回目のこの記事では、採掘者が短期、または長期的利益を最大化するために選ぶ可能性のあるさまざまな期間を考察します。「ハイグレーディング」などの「伝統的な」採掘の関連概念との類似点を引き出します。企業ファイナンス分野において、暗号通貨採掘者向けの IPO の可能性が取り沙汰されており、短期的利益を重視する経営スタンスのシフトがうかがわれます。四半期決算の正当性を投資アナリストに説明する必要性もその一因かもしれません。次に、「Replace By  Fee (RBF)」、「ASICBOOST」、ブロックサイズ制限などの潜在的なネットワークの問題に対するこの点の影響を見ていきます。フルタイプの RBF は好むと好まざるとにかかわらず、いずれ台頭します。

内モンゴルの Bitmain 採掘ファーム – 写真&衛星画像 – ビットコイン採掘はもはや片手間仕事ではありません 出典:Google マップ衛星画像

概要

2017 年 9 月に当社は採掘インセンティブに関して 2 つの記事を執筆しました。パート 1 採掘コスト曲線に目を向け、「伝統的な採掘」でのコストの動きと比較しました。一方、パート 2 では、暗号通貨採掘者にとって魅力的な機会につながるエネルギー業界の状況を取り上げ、失敗または不経済なエネルギープロジェクトがビットコインの採掘に最適であるかもしれないという結論を導きだしました。2017 年 11 月の記事では、2014年にライトコインとドージコインの間で繰り広げられた「ハッシュレート戦争」で短期的利益を追い求める採掘者を取り上げました。また、ハッシュレートがコイン間で変動する中、この現象がビットコインキャッシュで再現した様子にも触れました。採掘者は、お気に入りのコインの観念的な裏づけに基づき決断を下す代わりに、短期的利益を最大化しようとしました。

今回の記事では、採掘者が短期的利益の最大化 (恐らく次のブロック利益の最大化も) に重点を置くのかどうか、あるいはエンドユーザーの体験向上を目的とする規定の制定により、採掘者がシステムの長期的な実効性を促進して、長期的利益の増大を重視するのかを考察していきます。当社の結論は、「業界の競争レベル、収益性レベルが短期と長期の利益最大化の決断を左右する可能性がある」というものです。競争が激しく利幅が薄いほど、短期利益を重視する傾向にあります。次に、各戦略がビットコインの直面している多様な問題 (「Replace By  Fee (RBF)」、「ASICBOOST」、ブロックサイズ制限ポリシー等)に及ぼし得る影響について考察を進めます。

採掘は観念的側面が薄れ、営利性が色濃くなっているように思われます。同時に、今後数か月から数年にかけて競争激化が見込まれるため、採掘者が短期的利益の最大化を模索する間、ビットコイン採掘では、フルタイプ RBF がはびこるようになるでしょう。

長期対短期

大半の事業の例に漏れず、ビットコイン採掘でも利益最大化が目標となります。過去には趣味や夢を求める採掘者もいましたが、業界が成長し、商業化が進む中、淘汰されていき、今では利益が採掘の主因となっています。   ところが、利益最大化は思いのほか複雑な概念となり得ます。厳密に言うと、投資家が選択すべきなのは、割引後のリターンを最大化するプロジェクトです。現在と将来の利益の差 (割引) を評価するのは、厄介であることが多いのです。

伝統的採掘との類似ハイグレーディング

「伝統的な採掘」におけるハイグレーディングとは、低いグレードの鉱石を破棄または破壊することで、鉱山全体のリターンを減少させる方法で高いグレードの鉱石を採掘する慣行です。高いグレードの鉱石を利用するために一部の鉱石を利用不能にしたり、文字通り破壊したりするため、鉱体の価値の低下につながり、破壊的なプロセスと捉えられることも珍しくありません。鉱山の経営陣がこのプロセスを実行するのは、短期的圧力が原因の場合があります。例えば、経営陣は短期的株主や債権者を満足させるために、利幅の拡大やキャッシュフローの生成圧力を受けたり、成功ボーナスを得たりするには、鉱山の業績アップが必要です。そのため、経営陣は一般人や投資家からこうした活動を秘匿する可能性があります。

ハイグレーディングは、関連商品の価格が長期間低迷している時期によく起こります。こうした時期には利幅が縮小し、債務が膨らむため、経営陣に相当の圧力がかかります。

企業は金価格の低迷で、長期的事業を縮小するのか、それとも短期的事業を縮小して、長期的に金価格が持ち直すのを期待するのかという選択を強いられる。  後者の「ハイグレーディング」を選択した場合は、悲惨な状況を招く。

 

出典:Randgold 社 Mark Bristow 最高経営責任者

以下の図には、ハイグレーディングの露天掘り計画が示されています。より大規模な鉱山向けの最初の計画の方が対象となる鉱石は多くなります。一方、下の代替案では、採掘される鉱石のグレードは高くなるものの、一部の高グレードの鉱石を永久的に破壊するかアクセス不能にするため、鉱山所有者の長期的利益が損なわれる恐れがあります。

出典:Exploration Alliance

割引率、コスト、商品価格の変動を原因とする採掘計画の変更は、いうまでも無く特定の状況では完全に正当化できますが、 ハイグレーディングには否定的な意味合いがあり、不適当な形での資産価値の低下と通常関連します。

ハイグレーディングは暗号通貨の採掘と直接関連しませんが、採掘チームに圧力がかかると、長期的な株主価値を損なう恐れのある短期的決断を下す羽目に陥るというコンセプトの実例となります。  この例は、株主の支配力と情報力が低く短期的成果を重視する傾向にある上場企業において特に当てはまります。

採掘採算性

採掘者がこうした「破壊的な」短期集中型の決断を下すか否かは、多くの場合、基礎商品の価格によって決まる採算性水準に左右されます。商品価格や暗号通貨資産の価格が下落すると、採算が取れない採掘者の選択肢として、以下の 3 つが考えられます。

  • 赤字操業 – 恐らく固定費の補填を行うことになります
  • 一時的な操業停止 – 伝統的な採掘では、商品の供給高が減少し、価格高騰を招く可能性があります。一方、暗号通貨の採掘では、難易度が低下し、残りの採掘者の利幅拡大につながる可能性があります。
  • 採掘ポリシーの変更 – 伝統的な採掘では、採掘計画の変更 (ハイグレーディングなど) につながる可能性があります。暗号通貨の場合は、完全 RBF、公然の ASICBOOST 、あるいは無制限のブロックサイズ制限の場合、メモリプールの消去による手数料の荒稼ぎにつながります。ただし、この場合、トランザクション手数料市場の価格形成に悪影響が及び、業界の見通しを台無しにします。

通常、採算性が低いと経営陣に圧力がかかるため、短期的決断が下されがちです。例えば、銀行からの圧力で債務を完済し、株主からの圧力で採算性を見直します。利幅が高いほど、長期的戦略を重視する余地が生まれ、将来への投資が可能となります。

業界の集中化

採算性以外に暗号通貨を採掘する際に考慮すべき要因として、業界の集中化レベルが上げられます。

過去 6 か月における採掘プールの集中度  出典:BitMEX リサーチ、Blockchain.info

上記グラフは、採掘プールの集中化レベルを図示したものですが、チップ生産やマイニングファームのシェアを見ても、業界の集中化レベルを分析できます。チップ生産に関しては、Bitmain がビットコイン市場で 75% のシェアを持つと推定されています。

1 つの採掘業者のシェアが大きい場合、そのポリシーはビットコインにかなりの影響を及ぼすため、システムの価値を左右する可能性があります。   逆に、市場シェアの小さい小規模採掘者のポリシーがシステム全体に及ぼす影響は比較的小さくなります。そのため「コモンズの悲劇」タイプの状況が起こり、システム全体にとって最適なポリシーが小規模の各採掘者にとって最適とは限らなくなります。例えば、1% のシェアを持つ小規模採掘者が利益を増大させる一方でシステムの条件を損なう行為を実行する可能性がある場合、その行為に従事する採掘者全員は、行為を法規するかもしれません。1% のみでは大して影響しないためです。

この点に加え、競争がどの程度激しいかも重要と言えます。採掘者同士が市場シェアを巡り熾烈な競争を繰り広げている場合、利幅を改善して取引の獲得に全力を尽くそうとするでしょう。

Replace by fee (RBF)

「Replace by fee (RBF) とは、採掘者のメモリプールのトランザクションを、トランザクション手数料の上昇により、同じインプットの一部または全部を使う別のトランザクションで置き換え可能なシステムです。この機能の変形が、ナカモト・サトシによってまず追加され、その後 削除されました。その後、ビットコインコアがテクノロジーのオプトインバージョンに追加され、ユーザーがトランザクションを行う際に置き換え可能なトランザクションをユーザーが指定できるようになりました。

完全、オプトインを問わず、RBF は常に議論の的となっています。反対派は確認ゼロのトランザクションを弱体化することで、ビットコインの利便性が悪くなると主張しています。RBF 支持派は、手数料の高いトランザクションを選別することで、短期的利益が増大するため、システムの利便性が低下し、ビットコイン価格が低下したとしても、いずれ完全 RBFを採用することになると主張しています。  この点も、「コモンズの悲劇」タイプの問題として捉えられることがあります。RBF 反対派は、「採掘者の重点は長期にあるため、RBF 支持派は無関係なゲーム理論タイプの問題を解決している」と主張して、これに対抗する可能性があります。

業界の特徴を考えると、この短期的利益を同期とするフルタイプ RBF の可能性は、概ね低下しています。

短期的利益フルタイプ RBF の可能性大 長期的利益フルタイプ RBF の可能性小
ビットコインの値下がり局面 ビットコインの値上がり局面
利幅縮小 利幅拡大
低い業界集中度 高い業界集中度
競争熾烈で採掘者間にライバル意識 競争はそれほど激しくなく、採掘者同士が協力
上場採掘会社 非上場採掘会社
利益志向の採掘者 理論志向の採掘者

無制限のブロックサイズの制限

ビットコインの動向を追跡している人なら、「ブロックサイズ議論」が、さまざまな観点から考察できる複雑な問題であることが分かっています。こうした観点の 1 つが手数料市場と採掘奨励策との相互関係の問題です。ブロック拡大支持派の主張によると、手数料市場はブロックサイズを制限しなくても機能します。「ブロック小型化支持派」はこの点に反発します。

この議論の本質は、上記の RBF 同様、採掘者の重点が長期と短期のどちらにあるかに関連します。経済的なブロックサイズの制限の支持派は、経済的関連性のあるブロックサイズ制限が必要であると主張し、制限なしでは採掘者は短期的利益の最大化を重視し、手数料を買い漁って、手数料と採掘意欲の低下を招くことを根拠に挙げます。これに対し「ブロック大型化支持派」は、採掘者の長期的利益を重視する採掘者の傾向を指摘し、システムの長期的実効性を損なうサイズ縮小で自分たちの事業に悪影響を及ぼすこうした行動を取ることはないと主張します。

「デススパイラル」議論の歴史

こうした短期的利益対長期的利益の議論 (「デススパイラル」議論) は、ある意味、2011 年 4 月のブロックサイズ議論の発端時まで遡ります。

「デススパイラル」議論では、手数料/優先度の低さに関わらず、すべてのトランザクションを含めることを前提としています。それによりコストが発生するわけではなく、手数料を受け入れるためです。ただ、現実にはそうすることができてもやらない企業は多数存在します。自社のビジネスを損なうことになると分かっているからです。

出典:Mike Hearn (2011 年 4 月) – Bitcointalk

ある早朝、Hearn 氏は「デススパイラルのエラーモードが可能ではないか」と考えましたが、その後気が変わり、この問題をそれ以上追及しませんでした。

皮肉なことに、「ブロック大型化支持派」の一部の主張はここ数年、短期的利益を追求する「採掘支持」タイプへややシフトしています。その理由は恐らく、大規模採掘者 Bitmain がブロック大型化の代表的擁護者となっているためです。「ブロック大型化支持派」の大半は、別の有力ないくつかの根拠に主張をシフトさせていますが、上述したとおり、この短期対長期の考え方は、ブロックサイズ議論の発端であり、コミュニティ分断の主因の 1 つと考えられます。

当社は上記の問いには正答も誤等もないと考えています。採掘者が短期か長期のどちらに重点を置くかは、上述の要因や採算性、市場シェアなど多数の要因によって決まります。   この業界は、業界内の条件に応じて長期と短期との間で重点をシフトさせながら、いくつかのサイクルを経ていくことでしょう。こうした現象は、商品価格周期によって変動する伝統的採掘でも確認され、状況の変化に影響しています。

変化の時代短期的利益重視が優勢に

ビットコインコミュニティは急速に変化しており、革新的テクノロジーの構築という共有ビジョンの下で協力し合う団結グループから、利益のためにしのぎを削る派閥から成る大型コミュニティへの変革はほぼ完了しつつあります。採掘者の主な動機が短期的利益の最大化にあると想定することは、数年前には非現実的に思えたかもしれませんが、今や基本的な想定として幅広く受け入れられています。ビットコインキャッシュの EDA (緊急難易度調整アルゴリズム)を原因とするハッシュレートの変動がこのシフトの発端になったことは否めません。

採掘はビジネス:  TSMC の報告によると、ある暗号通貨採掘企業の年間チップ生産コストは 15 億ドルに達し、なお拡大しています。一部の企業ファイナンス界では、大型採掘プールかチップメーカーが間もなく IPO を実施するという憶測が流れています。数年前には想像もできないことです。これにより採掘プールの経営陣は、営業収益率の正当性を投資アナリストや株主に四半期ごとに説明しなければならない、厄介な立場に置かれる可能性が出てきました。同時に、今年 (2018 年)、採掘業界の競争が激化し、新規企業が競争的な商品を発表すると幅広く予想されています。

この新たな環境において、RBF タイプの行動や手数料市場の「デススパイラルモード」は、一層現実味を帯びています。初期の手数料市場や RBF への擁護は、非現時的で複雑なゲーム理論に取り付かれすぎ、時期尚早でもあったと言えます。RBF やフルブロックを導入する前に、ユーザーエクスペリエンスに重点を置く方が優れた戦略決断だったかもしれません。ビットコインが変化した現在も、短期的利益の最大化が改めて主張されています。

短期的利益を最大化するために万事を尽くす中、今後数年内に、多数の採掘者がフルタイプの RBF や顕在的 ASICBOOST (利益拡大にも寄与) に関与するようになると当社は予想します。  こうした変化を避けることはできないでしょう…。

 

ライトニングネットワーク

この記事は、2018年1月25日にBitMEX Researchにアップロードされた記事の日本語訳です。

抜粋:この記事では、ライトニングネットワーク誕生のきっかけと、従来のネットワークより格段に優れた拡張性により、画期的な進歩につながる可能性を秘めている理由について説明します。ライトニングを実現可能にする基本的な技術的ビルディングブロックの一部についても説明します。また、チェーン上のトランザクションに対するセキュリティ上の欠点などの制限をいくつか挙げ、高額の支払いに不適当な理由を考察します。

出典:flickr.com

ライトニングネットワーク誕生のきっかけ

ブロックチェーンを基盤とする決済システムは、通常、「全員にブロードキャスト」モードで機能します。このモードでは、決済時にネットワークの参加者全員にそのトランザクションをブロードキャスト (一斉送信) する必要があります。

このシステムのノードは次の要件を満たす必要があります。

  • トランザクションを無期限に保存する
  • トランザクションを検証する
  • トランザクションをリレーする

一方、採掘者は、エネルギー集約型の競争プロセスに関与し、相反トランザクションの発生に備えて、トランザクションをレジャーに記録するかどうかを判断する必要があります。

決済受領者を特別扱いすることはありません。例えば、ビットコインを使ってコーヒーを購入する場合、そのトランザクションは全ビットコインネットワークにブロードキャストされますが、コーヒーショップやコーヒーショップの決済事業者にトランザクションデータを優先的に伝達することはありません。こうした扱いに不備があると考える人はたくさんいます。世界中の無数の人が利用する決済システムの構築が目的であれば、この手法は論理的とは思えません。

2000 5月にアーセナルがシェフィールドウェンズデイにホームで 33 で引き分けた試合で、「全員にブロードキャスト」する旧式な方法。   携帯電話が普及する前に、スタジアムのアナウンサーは個人向けメッセージを観戦客全員に公開する方式で放送していました。携帯電話はメッセージを受信相手に直接送ることができるため、このプロセスにかかる時間を短縮し、効率化しました。

ライトニングネットワークは、効率性に優れ、より論理的な決済ネットワークの構築に使用されます。トランザクションは、全員にブロードキャストする代わりに、支払い受領者により直接的に送信できます。トランザクションの当事者が誠実でない場合のみ、コンセンサス (合意形成) を維持するために必要な耐センサーシップシステムを配布する手間のかかるプロセスに頼る必要があります。この方法では、インターネットを通じて当事者同士が直接やり取りする方法にほぼ匹敵するパフォーマンスと効率性を実現できます。しかもビットコインのブロックチェーンの特長である優れたセキュリティもある程度維持できます。

ただし、問題が生じた場合はいつでも当事者全員がブロックチェーンに戻って、資金を取り戻せるように決済システムを構築するのは、複雑なプロセスであり、重大なリスクと制約にもさらされます。

ライトニングの基本的技術ビルディングブロック

一方向マイクロペイメントチャネル。出典:BITMEX リサーチ

上図は、基本的な一方向決済チャネルを設定する伝統的な方法を示したものです。チャネルの設定には、トランザクションを全員にブロードキャストする必要がありますが、設定後はボブからアリスへの複数の支払いはボブからアリスにデータを送信するだけで実現し、全ネットワークへのブロードキャストは不要です。決済プロセスは資金 (この例では 1 BTC) がチャネルで消滅するまで、何度も繰り返せます。

以下の理由で、上記チャネルは理論上安全です。

  • ボブが支払いの取消しを試みる場合、アリスがやるべきことは当初の支払い時にボブが署名したネットワークトランザクション「P1」に署名しブロードキャストするだけです。このプロセスがトランザクション B の 1 週間のロックタイム前に確認される限り、アリスはボブの行為にかかわらず、0.1 BTC を安全に受領します。
  • アリスがボブを困らせようとして署名を拒んだ場合、ボブはトランザクション B が有効になるまで 1 週間待ち、その後アリスが署名済みのトランザクション B をブロードキャストするだけで、資金をチャネルから自分に移動できます。

第三者がトランザクション A を確定できない場合 (TXID が変更) 、このプロセスの安全性は強化されます。さもなければボブはトランザクション A が変更した場合無効になるようにトランザクション B を構築することができるため、アリスの資金は永久に元の持ち主に戻ることがありません。

ナカモト・サトシがビットコイン開発者の Mike Hearn 氏に送信したメールによると、この基本構造はサトシのアイデアです。

「nLockTime」の用途の 1つは、所定当事者間での頻度の高い取引である。当事者は匿名契約で tx を更新し続けることができる。支払い側当事者は次のバージョンの最初の署名者となる。当事者の 1 人が変更への同意を打ち切った場合、最後の状態が「nLockTime」に記録される。希望する場合、n-1 の当事者が応答しない当事者を排除できるように、デフォルトトランザクションを作成できる。仲介トランザクションはブロードキャスト不要であり、 最終結果のみネットワークに記録される。「nLockTime」の直前に、当事者と証人数人のノードが最も頻繁に目にしたシーケンスの tx がブロードキャストされる。

出典:https://lists.linuxfoundation.org/pipermail/bitcoin-dev/2013-April/002417.html

ライトニングの機能方法

このマイクロペイメント構造は、ライトニングネットワークの中核的ビルディングブロックと考えることができ、実質的に、決済チャネルに類似した構造のネットワークです。支払いは最終受領者に達するまで、相互に直結済みのチャネルに沿ってパスを見つけます。

ライトニングで使用されるチャネル構造は、より高度で複雑なテクノロジーを使ってこの基本的な構造上に構築されます。上記構造は一方向ですが、支払いを双方向で作成した方が利便性は高まります。例えば、アリスとボブとの間に 逆方向の 2 つのチャネルを構築することで、双方向の決済チャネルの作成を検討できます。正確には、ライトニングでは「Poon- Dryja」チャネル構築手法を採用しており、一方向の決済チャネルネットワークを逆方向で設定するとチャネル内部にロックする必要のある金額は 2 倍になるため、必要な流動性を減らすことができます。ただし、「Poon-Dryja」チャネル構造には、他の手法と比べて顕著な弱点があり、各当事者はチャネルが更新される (支払いが行われる) たびに新規トランザクションに署名する必要があります。対照的に、一方向チャネルでは、更新時に署名が必要なのは送信者のみです。

旧式のロックタイム機能は、より高度な次の機能で置き換えることができます。

  • チェックロックタイム検証 (BIP65) 機能では、特定日までアウトプットが支出不可であることを証明できます。これはアウトプットの特定支出を特定日まで無効に保つ、ロックタイム類似機能と異なります。
  • 相対的ロックタイム (BIP68) 機能では、対応アウトプットに関連する日付で指定終了日を置き換えることができます。この機能を利用すると、決済チャネルは無期限で開いたままとなり、閉鎖トランザクションによって他の当事者が取消しトランザクションをブロードキャストして資金を取り戻す特定期間 (2 週間等) の時間枠が始動します。
  • ハッシュタイムロック契約 (HTLC) 機能では、特定日までに特定の値に変換される文字列を提供するか、支払い者への返金を資金の受領者に要求できます。この同じハッシュは、そのチャネルネットワークの別の支払いのトリガに使用して、チャネルチェーンにわたり支払いを実行できます。

ライトニングネットワークの誕生とその利点

以上より、ライトニングネットワークを利用すれば、ノード内のパスを見つけることで、ネットワーク参加者はほぼ瞬時にあらゆる方向で割安にトランザクションを行うことが理論的に可能です。しかも、問題が生じない限り、ビットコインネットワークへのブロードキャストは不要であるため、拡張的なネットワークにつながります。こうしたアーキテクチャでは、マイクロトランザクションも可能であり、支払いの機密性を向上させます。

相対的ロックタイム機能により、無期限にチャネルをオープンにしておけるうえ、カウンターパーティリスクがありません。敵対的なチャネルの閉鎖により資金を盗もうとする人物がいても、トランザクションの他の参加者は返金トランザクションを発行して資金を取り戻す十分な時間的余裕があります。

ネットワークの機能とユーザーエクスペリエンス

重大な不透明要素として、個人や企業が実際にどのようにネットワークを利用するかという点があり、この点に対する評論家の意見は分かれているようです。  ライトニングネットワークは、複雑な部分を自動処理するため、いずれ少額決済のユビキタスになるという意見もあれば、  より懐疑的なスタンスの意見もあります。例えば、ネットワークの複数の要素はシステム使用時に手動での構築を必要とし、予測不能のチャネル閉鎖やライトニングネットワークのダウンタイムによってもたらされるユーザーエクスペリエンスの不備が懸念されています。

 

懐疑的意見 楽観的意見
チャネル設定

 

ライトニングチャネルの設定には新たに高価なオンチェーントランザクションを手動で作成しなければならない。 ライトニングチャネルの設定は既存ウォレットとシステムに組み込まれるシームレスなプロセスとなる。支払いの受領やビットコインの購入時には、資金の移動が必要であるが、受領次第ライトニングチャネルに資金を即座に組み入れられるため、チャネルの設定に追加手順やコストは不要。
チャネル閉鎖 支払いが完了すると、手動作成の高価なオンチェーントランザクションでチャネルを閉鎖する必要がある。 チャネルの閉鎖は必要なく、ユーザーは自分のウォレットと資金を無期限または長期的に保有できる。
ネットワークルーティング 当事者間の短いパスを見つけるのはアルゴリズム的に解決すべき難しい問題であり、ルーティング面が大きな問題となる可能性がある。ルートが見つからない場合、ユーザーと業者は、決済プロセスを手動で変更して、オンチェーンの取引を選択する手間のかかるプロセスを行う必要がある。

1.既存の P2P ネットワークでも既にネットワークトポロジやメッセージのリレーが必要であり、ノードには通常 8 の接続点がある。ライトニングネットワークのトポロジは単にその拡張にすぎない。

2. 巨大ネットワークでさえ、ユーザー間のパスの平均手順数は小さいため、ルーティングは大した問題ではない。

3. ルーティングに問題があるとしても、支払いはユーザーが違いに気付くことなく、オンチェーンで簡単に実行可能。

4. 大型チャネル運営者の寡占状態により、ルーティング問題を回避可能。

決済チャネルの集中化 ネットワークは、最も効率的なモデルである小数の大型ハブを中心にまとめられるが、システマチックなチャネルエラーのリスクは高まる。小数の大型チャネルにエラーが生じた場合、大量の資金が同時にチャネルから流出し、チェーンが過密状態となるため、満期までにチャネルを出ることができない支払いが発生する。 集中化を避ける経済的理由として、参入障壁が低いため誰でもノードを設定できることや、請求手数料の引き下げにより、他のノードを削減可能なことが挙げられる。

ネットワークを小数の大型ハブを中心に集中化させた場合でも、ライトニングネットワークは便利でユニークなシステムとなり得る。ビットコインには、コインベースなど、巨額資金を預かる大手事業者が既に存在する。ライトニングでは、資金の保管者は存在せず、支払い用データの伝達役を務めるにすぎない。

流動性 決済チャネルの流動性は不十分であるため、決済業務の範囲は限定的。相応規模の支払いはチャネル全体の流動性をほぼ瞬時に枯渇させ、ライトニングペイメントの中断が必要となる。 ライトニングノードの実行と手数料を受領するための流動性提供がユーザーに推奨される。ネットワークはチャネルの最大能力よりはるかに少額の支払いに使用されるため、流動性は十分確保される。
支払い受領時のオンライン要件 オンチェーントランザクションでは、送金者に必要なのは、支払いアドレスのみであり、受領者がオンライン状態である必要はない。反面、上述したとおり、ライトニングでは受領者は支払いを受領する前に再請求トランザクションに署名する必要がある。受領者は秘密鍵をホットウォレット状態に維持する必要があることになるため、重大な制約であり、高額支払い、ATMや店舗POSシステムでの高額の支払いやインターネット接続が限定的な環境での支払いなど多数の状況でライトニングを非実現的とする。 受領者は支払いを受け取るためオンライン状態である必要はあるが、大半のオンチェーンでの決済と大きな違いはなく、オンライン状態でない場合、受領者は支払いの検証や確認ができない問題が生じる。  また、支払いを直接受領するユーザーやデバイスが秘密鍵を保存する必要があるとは限らない。例えば、店舗の PoS 端末や暗号通貨対応 ATM では、支払いを受領する前に、会社の本部からインターネット経由で返金を受け、トランザクションに署名できるが、支払いを受ける際にやり取りが必要である。
チャネル監視のための潜在的要件 ライトニングネットワーク参加者は、資金を保護するために、決済チャネルを監視して、所定期限までに措置を講じる必要がある。例えば、悪意のある返金取引は、他の当事者が所定期限までに自己資金を保護するためにトランザクションの再請求が必要な期限の開始のきっかけとなり得る。これは、ユーザーに相当の負担を強いることになる。 相対的ロックタイムによって定められる期限に応じてチャネルを常時監視する必要はない。チャネル監視塔(監視業者) はユーザーに代わってチャネルを監視することでリスクを軽減する。こうしたサービスは悪意のあるトランザクション再請求時に警告を発したり、トランザクションの再請求を自ら発行できる(ユーザーが事前に署名し提供した場合)。

現実には、真実は上記 2 つの見方の間にあると考えられますが、いずれ楽観的な見方へシフトしていく可能性があります。  こうした意見の相違は、ライトニング懐疑派がこのネットワークを、チャネル構造システムのみを基準に、複雑で実用的でない決済システムであると捉えていることに由来します。支持派はライトニングをビットコインのブロックチェーンの上部の 2 番目の層を理由に拡張的なビルディングブロックである点を重視しています。いずれ、ウォレットや決済プロトコルシステム、チャネルサービス企業に補完され、シンプルでシームレスなユーザーエクスペリエンスを提供できるようになると期待しています。いずれ、ウォレットは、相互コミュニケーションを可能にし、オンチェーンでの最適な決済方法やライトニング経由での実用的な手法を、ユーザーが気付かないうちに、自動で判断できるようになるかもしれません。

ライトニングのセキュリティリスク増大

  • 支払い受領時のオンライン要件:上述したとおり、資金の受領者は受領前にトランザクションの再請求に署名して、悪意のあるチャネルの閉鎖や署名拒否の場合に、送金者が自己資金を取り戻せることを認識できるようにする必要があります。そのため、資金の受領にはホットウォレットが必要となりますが、反面、セキュリティインシデントが発生した場合、秘密鍵が危険にさらされる恐れがあります。
  • チャネル監視の要件:ライトニングネットワークの参加者や監視業者は、支払いチャネルの積極的な監視が必要な場合があります。ユーザーや監視業者にとってこれは負担となる可能性があり、オンチェーンに保存されるビットコインと比べてチャネル内の資金の安全性を低下させる可能性があります。チャネルの適切な監視を怠った場合やチェーンネットワークの過密が原因で、トランザクションの再請求の期限を逃す危険性もあります。
  • 採掘者はチャネル閉鎖トランザクションを検閲可能:51% というハッシュレートは、採掘者を相手側当事者とするチャネル閉鎖トランザクションの検閲を通じて、ライトニングユーザから資金を盗む機会を提供する可能性があります。この種の攻撃の結果は、ライトニングがない場合でも悲惨ですが、ライトニングネットワークは敵対的採掘者に、通常より広範な攻撃対象となる可能性があります。

3 つの要因は個別には重要ではないかもしれませんが、支払いの受領時に秘密鍵をインターネットにさらす必要性、敵対的なチャネル閉鎖リスク、採掘者による返金トランザクションのチャネル検閲リスクは、すべてある程度管理可能であるものの、組み合わさると大きなセキュリティ上の欠点と言えます。

手間をかけるのを厭うユーザーや情報を十分知らされていないユーザーがチャネルに巨額の資金を維持して、こうしたリスクシナリオが原因で資金を紛失したり盗難に遭ったりするリスクがあります。また、価格変動の結果、決済チャネルに想定していた以上に多くの資金を保持することになるリスクもあります。

結論

当社の意見では、ライトニングネットワークは拡張性の点で大幅で画期的な改善となる余地があるように見受けられます。  その結果、トランザクション速度や手数料率は、基盤となる中核セキュリティプロトコルに影響を及ぼすことなく、劇的に改善が期待できます。  ただし、ライトニング決済に関連するセキュリティ面での弱点は、高額決済でのライトニングネットワークの使用を不適当とする可能性があります(少なくとも高額払いにこのネットワークを使用することは無責任と言えます)。巨額の支払いを必要とする投機や投資フローは、現在、暗号通貨市場の主な牽引役と考えられる一方、小売分野での支払いは比較的少額にとどまっています。そのため、ライトニングは少なくとも中期的には、想像するほど事態を変革する要因とならないかもしれません。このテクノロジーの熱心な支持者は早期の採用に踏み切る可能性がありますが、広範な普及にはかなり時間がかかるでしょう。

暗号通貨事業に進出する上場企業

※このエントリーは、2017 年 12 月 13 日   にBitMEX リサーチによりアップされた記事の日本語訳です。

 

抜粋:ビットコインをはじめとする暗号通貨関連資産の価格は最近急騰しており、多数の投機家がこの上昇気流に乗る構えでいます。こうした明らかな潮流に反して、当社は下方修正リスクが高いと警戒しています。今回のブログでは、暗号通貨と関連がある、他分野ビジネスを手がける優良上場株を紹介しながら、リスクを抑制しつつ上昇メリットも期待できる投資手法を考察していきます。

 

概要

ビットコインの価格は年初来(上記執筆時)で 1,600% を超える驚異的な伸びを見せていますが、イーサリアムやライトコインなどの他通貨の価格上昇率はこれをさらに上回っています。  つまり、大幅な下落リスクがあると当社は考えます。例えば、ビットコインの半減スケジュールにより、4年の価格下落周期が訪れるかもしれません。参入済みの投資家は、一部ポジションの利益を確定しながら、なお他のポジションを保持して価格の上昇を待つ態勢にあります。新規投資家は、下方リスクを抑えつつ、値上がり益が期待できるポジションを組む機会を狙っています。

以下の表には、暗号通貨関連分野を成長要因とする事業セグメントに携わる上場企業がリストアップされています。これら企業は暗号通貨価格の上昇からメリットを受けつつ、下方リスクの軽減が期待できる他の事業も運営しています。どの企業に投資するにしても、ご自分でも詳しいリサーチが事前に必要です。以下の情報は企業の基本的な紹介を目的としています。

 

暗号通貨分野への進出が期待される上場企業リスト

Stock Website Comment
 

 

http://www.tsmc.com 堅実な投資案件となる可能性あり。利幅の大きいビジネスと暗号通貨の値上がりが中核ビジネスの成長につながっている。
http://www.alchip.com 暗号関連事業の重要性を判断するには、さらなる取り組みが必要
 

 

https://www.gmofh.com 投資妙味あり。ただ、暗号取引所は立ち上げたばかりで今のところ小規模
 

 

http://www.globalunichip.com ASIC デザイン事業は好調だが、株価が高水準
 

 

https://www.gmo.jp 1つの暗号通貨分野に集中しきれていない
 

 

https://www.overstock.com 1つの暗号通貨分野に集中しきれていない
 

 

https://squareup.com ビジネスモデルの収益力が不透明
 

 

https://www.ig.com 既存顧客が暗号通貨取引に単純にシフトするだけになる可能性あり
 

 

https://www.plus500.com 既存顧客が暗号通貨取引に単純にシフトするだけになる可能性あり
http://www.garage.co.jp 暗号通貨への関連性が薄い
 

 

http://premiumwater-hd.co.jp 暗号通貨への関連性が薄く、ICOの株主へのメリットが不透明
 

 

http://www.cmegroup.com 暗号通貨事業の重要性が低い可能性
 

 

http://www.cboe.com 暗号通貨事業の重要性が低い可能性
 

 

http://www.sbigroup.co.jp 「フェイク (偽の) Satoshi」への関連性が懸念要因

 

各社に関する詳しい情報

 

TSMC

投資案

  • TSMC は暗号通貨の中規模の値上がりを期待しつつ、価格下落リスクを大幅に軽減/消滅する良い手法と考えられます。

概要

  • 台湾を拠点とする世界最大の半導体メーカー。中核事業である集積回路の製造に特化する専業度の高い企業です。
  • 最新の四半期決算報告によると、暗号通貨採掘関連事業の売上高は、四半期当たり 3 億 7,500 万ドル (グループ総売上の 5.1%) に上っています。ただ、暗号通貨の値上がり傾向が続く中、この事業セグメントでは高成長が予想されます。

投資シナリオの検討

  • TSMC の利益率はきわめて高く、2017 年は c66% (EBITDA ベース) と予想されています。当社は、暗号通貨事業でも同様の利益率を達成可能であると見ています。
    • 採掘者と ASIC 設計者は、最近の価格水準で TSMC と大規模注文を得ようと試みる可能性が高く、来年 (2018 年) 売上が急増する余地があります。暗号通貨価格が急伸した場合、2018 年は堅調な注文が予想されるため、暗号通貨にとって有望な年になるとの確証が得られれば、TSMC はこの市場分野に関して比較的低リスクの投資対象となり得ます。
  • 暗号通貨の採掘は、厄介で競争の激しい事業であり、利益の大半を主要機器の購入に充てる結果となりかねません。TSMC マーク・トウェインの以下の引用どおり、どの企業が採掘市場の支配者となったとしてもメリットを得る態勢にあります。

ゴールドラッシュ中は、つるはしやショベルの事業に従事するのに良い時期だ

  • TSMC の配当利回りも c3.1% とまずまずであり、無配当に陥ったことがないのは、市場が落ち込んだ場合、株価の下支え要因となります。
  • TSMC は半導体メーカーとして中核事業を非常に重視しており、ICO やリップルなど、他のブロックチェーン関連分野への投資に気を散らすことがありません。当社の意見では、中核事業への集中度の高い企業の方が長期的に良いパフォーマンスを上げる傾向にあります。

 

投資リスク

  • TSMC の暗号通貨採掘事業の顧客は現在、 Bitmain 1社と考えられるため、顧客集中リスクは大いにあります。
  • Apple (APPL US) および iPhone への依存度の高さもリスクの 1 つです。

 

評価基準

出典:Bloomberg、BitMEX リサーチ

 

Alchip

考察結果

  • Alchip については暗号通貨事業の重要性を立証するために、さらに調査する価値があるでしょう。

 

概要

  • Alchip は、ASIC 設計・製造事業を営む台湾企業であり、GUC (後述) より小規模です。
  • 同社にとって暗号通貨採掘事業がどの程度重要かは明確ではありませんが、最新の会社プレゼンテーションでは、ビットコイン採掘関連商品の一部について説明しており、2015 年には現在は消滅した KNC 採掘者向けに 16 ナノメートル (nm) のテープアウトを初めて完了しました

 

投資シナリオの検討

  • この銘柄はあまりよく知られていないため、2018 年に暗号通貨分野で大化けする可能性があります。

 

投資リスク

  • ビットコイン事業の規模が不透明。
  • 財務実績が不安定。2016 年には赤字を記録。
  • 注文見通しに関する情報開示が他の企業と比べて不十分とされます
  • 株価は年初来で (執筆時) 171% 上昇しており、 暗号通貨分野出の活動が株価に既に織り込まれていると考えられます。

 

評価基準

出典:Bloomberg、BitMEX リサーチ

 

GMO フィナンシャルホールディングス

考察結果

  • GMO コインは、既存のインフラやノウハウを活かして、日本を代表する暗号通貨取引所となる可能性があるため、  GMO フィナンシャルは興味深い投資機会となる可能性を秘めています。

 

概要

  • GMO フィナンシャルは GMO インターネットの上場子会社であり、同社によって 80.8% が所有されているため、ため、  株式の流動性は高くありません。
  • リテール FX プラットフォームに加え新たに取引所を営む GMOが 58% を所有する GMO コインも子会社に含まれます。
  • 暗号通貨採掘事業や ICO はこの子会社でなく、GMO インターネット内のグループレベルで遂行されます。

 

投資シナリオの検討

  • 親会社よりGMO フィナンシャルに投資した方が暗号通貨取引所事業に直結します。取引所事業への進出はまだ日が浅いため、大幅な成長を期待できます。
  • FX 取引プラットフォーム事業はリテール分野において日本最大でありそのインフラやノウハウを活用して暗号通貨取引所の効率的な構築が可能です。
  • 取引所では、ほどなく、レバレッジ商品の扱いを始める予定です。

 

投資リスク

  • GMO コインの取引高データは特定できていないため、市場シェアが低い可能性があります。  ただし、最新の会社プレゼンテーションからは、堅調な成長がうかがえます。
  • GMO コイン取引所事業以外のGMO コイン取引所事業以外の月次取引高データは、開示されています。

 

評価基準

出典:Bloomberg、BitMEX リサーチ

 

Global Unichip

考察結果

  • 評価比率はかなり高く、暗号通貨のメリットが株価に織り込み済みである可能性があります

 

概要

  • Global Unichip (GUC) は、台湾を拠点とする自社工場を持たない ASIC 設計企業です。TSMC が GUC の株式の c34% を保有し、GUC の会長はTSMC China での役職を兼任しています。ただし、TSMC の技術ライブラリは、無工場型の他の競合企業にも公開されています。
  • 2017 年における暗号通貨採掘関連の売上高は、GUC の総売上高の約 20% を占めると考えられています。2018 年にはこの比率が大幅に高まる可能性が濃厚であると当社は見ています。

投資シナリオの検討

  • 暗号通貨事業の売上シェアが 20% と大きく、 2018 年には採掘事業の競争力向上が期待されるため、ASIC の設計がカギを握る可能性があります。2018 年に暗号通貨価格が値上がりした場合、GUC の株価は好調なパフォーマンスが期待できます。

 

投資リスク

  • 株価には既に暗号通貨市場の影響がある程度及んでおり、2017 年の値上がり率は米ドル建てで c304% に達しています。こうした状況を踏まえ、暗号通貨市場が急落した場合、かなりの下落余地はあると当社は見ていますが、暗号通貨トークンを実際に保有するよりリスクはなお低く抑えられます。
  • 株価は将来企業価値/EBITDA が 34.7 倍と割高です。
  • 機械学習/人工知能 (AI) 関連分野も暗号通貨と合わせて同社の成長牽引要因となっています

 

評価基準

出典:Bloomberg、BitMEX リサーチ

 

GMOインターネット

考察結果

  • GMO インターネットの暗号通貨事業への関与度合いはそれほど大きくなく、GMO フィナンシャルの方が投資対象として魅力的と言えます。

 

概要

  • GMO インターネットは、インターネットインフラおよびデジタル決済関連事業を手がける日本のグループ企業です。  オンラインクレジットカード取引処理、ドメイン名関連サービス、SSL 証明書を 事業の 3 本柱とします。
  • 2017 年 10 月、同社はビットコイン採掘事業の立ち上げ、および関連するICO の可能性を発表しました。
  • 暗号通貨取引所を手がけるGMO コインも子会社です。

 

投資シナリオの検討

  • GMO は、暗号通貨、ICO、採掘、取引所運営と多様な分野での幅広い投資機会となります。
  • 主要事業である SSL 証明書分野では高い成長率を上げており、2017 年の売上高の伸びは c90% に達しました。

 

投資リスク

  • 競争が既に激しくなっている分野に参入していることや、同時に多様な分野を試しており集中度に欠けることから、  すべての分野での成功は難しいと考えられます。

  • GMO は 2018 年に 7nm のマイニングチップの発売を予定していますが、Bitmain が手強い競争相手となる可能性が高いことから野心的な計画と言えます。また、マイニングチップの製造パートナーも公表されていません。
  • 取引所事業 (GMO コイン) の実質的所有率は低く、46% にとどまります。

 

評価基準

出典:Bloomberg、BitMEX リサーチ

 

Overstock

考察結果

  • 暗号通貨分野への集中度に欠ける一方、同分野への関与を材料として株価は既に上昇基調にあると言えます

 

概要

  • Overstock は米国のEコマース企業であり、家具・シングを主要商品とします。
  • 同社CEO兼創業者の Patrick Bryan 氏は、ここ数年、ビットコインを熱心にサポートしています。  2005 年、同社は複数の大手投資銀行やヘッジファンドが同社をターゲットに株式を手当てしないで大掛かりな空売りを仕掛けたとしてこれら銀行らを告訴しており、同氏はそれ以来、反ウォール街的スタンスを取っています。  この件に関して和解金を得た結果、同 CEO の主張の正当性が概ね立証されました。
  • Overstock は 2014 年に初めてビットコインでの支払いを受け入れ、同年に「Counterparty」プラットフォームを含むいくつかのプロジェクトに関与するようになりました。2016 年には、t0 システムに関与し、Overstock 株を同プラットフォームの最初の取引商品としました。現在は、分散レジャーシステムの構築に携わっています。

 

投資シナリオの検討

  • Overstock は暗号通貨分野への幅広い投資機会となります。

 

投資リスク

  • 上記企業の多数同様、Overstock は集中度に欠け、多様な暗号通貨関連のビジネスアイデアを試行錯誤している段階にあります
  • 暗号通貨をテーマとする投資の結果、株価は年初来ベースで 214% 上昇しています (執筆時)。
  • 評価基準

出典:Bloomberg、BitMEX リサーチ

 

Square

考察結果

  • 暗号通貨シナリオは投資家に既に十分浸透している可能性があり、株価評価ランクでは相当の下落リスクが示唆されています。

 

概要

  • Square は米国を拠点とするデジタル決済ソリューション企業です。
  • 最近、モバイルアプリケーションでビットコインの売買が可能な新商品の発売を発表しました。

 

投資シナリオの検討

  • 新しいビットコインアプリケーションは、使用が簡単なことから、発売以来、好評を得ています。

 

投資リスク

  • 従来の評価基準によると、株価はかなり割高です。
  • ビットコインアプリケーションには、ビットコインネットワーク自体での支払い送金機能はありません。
  • モバイルアプリケーション内でビットコインを売買するビジネスモデルに採算性があるかは不透明です。

 

評価基準

出典:Bloomberg、BitMEX リサーチ

 

IG Group

考察結果

  • 暗号通貨が好調になると他分野の収益を減少させる可能性があるため、暗号通貨関連事業の成長は限定的と考えられます。

 

概要

  • IG Group は英国を拠点とする CFD およびスプレッドベッディングプラットフォーム企業です。
  • ボラティリティの高さから、暗号通貨取引関連商品を手掛けており、他商品のボラティリティが低下する中、こうした商品は有望な収益貢献要因となり得ます。

 

投資シナリオの検討

  • IG はリテール分野で最大かつ最強の CFD 企業の 1 つです。

 

投資リスク

  • 同社にとって、英国と欧州の規制環境は大きな課題の 1 つです。 リテールレバレッジ取引業界は、規制当局による厳格な監視下にあります。
  • 暗号通貨事業の業績は好調であっても、それが新規顧客獲得につながるかどうか、同社の既存顧客が主な取引手となり、ボラティリティに応じて投資対象を切り替えるにとどまるかどうかは不透明です。

 

評価基準

出典:Bloomberg、BitMEX リサーチ

 

PLUS 500

考察結果

  • IG 同様、暗号通貨事業での売上の伸びにより、他分野の売上が減少する可能性があります。

 

概要

  • Plus 500 は英国を拠点とするオンラインリテール取引プラットフォームです

 

投資シナリオの検討

  • Plus 500 の技術プラットフォームでは、多数の競合商品より早く新商品を本格展開できるため、変動的な暗号通貨市場での新しい傾向を早く活用できる可能性があります。
  • IG が評判と実績で上回るため、Plus 500 は IG より割安な水準で取引されています。  ただ、Plus 500 の顧客定着率は向上しているうえ、全資金を失い離れていく投機的な顧客より、忠実で価値の高い顧客をより重視する傾向を強めています。

投資リスク

  • IG 同様、規制と CFD 関連の規則厳格化の可能性が主なリスクです。

 

評価基準

出典:Bloomberg、BitMEX リサーチ

 

デジタルガレージ

考察結果

  • デジタルガレージを買い、価格.com を売るペアトレードは検討の余地がありますが、実質的な暗号通貨事業とのつながりは重要性と可能性の面で期待できません。

 

概要

  • デジタルガレージは日本のテクノロジー投資ファンドであり、主要資産は価格比較サイトの株式会社カカクコム (2371 JP) です。
  • デジタルガレージはブロックチェーンインフラ企業 Blockstream にも投資しています。
  • 理論上、デジタルガレージを買い、カカクコムを売って、Blockstream への関与度を高めることができます。

 

投資シナリオの検討

  • Blockstream は、ビットコインブロックを世界中に公開する衛星商品を発表しています。

 

投資リスク

  • Blockstream のビジネスモデルは不透明に思われ、商業化より技術とインフラを重視する傾向がうかがわれるため、収益に結びつかない可能性があります。
  • Blockstream との関連性はきわめて限定的です。

 

評価基準

出典:Bloomberg、BitMEX リサーチ

 

プレミアムウォーターホールディングス

考察結果

  • 暗号通貨分野との関連性が乏しすぎる可能性があります。

 

概要

  • プレミアムウォーターは急成長している日本の天然水企業であり、家庭とオフィスへの天然水の宅配を手掛けています。
  • COMSA Whitepaper 』の 10 ページによると、同社は恐らく事業拡大への投資資金を調達するため ICO を実施する予定です。 COMSA (コムサ) とは日本の集中型 ICO ソリューション企業であり、同社もトークンの売り出しを最近実施しました。

 

投資シナリオの検討

  • 同社は ICO で相当の額を調達できる可能性があり、この点が既存株主にとって何らかのメリットとなるチャンスがあります。

 

投資リスク

  • 既存株主が ICO から直接受けるメリットについては、その有無を含めて不透明です。

 

評価基準

出典:Bloomberg、BitMEX リサーチ

 

CME Group

考察結果

  • 暗号通貨が収益の重要な牽引役となる可能性は高くありません。

 

概要

  • CME Group は機関投資家向けデリバティブ取引所を運営しており、先物契約とオプションを取り扱っています。これら商品は、金利、株式指数、FX 、コモディティに関連しています。
  • 同社は、ビットコイン先物契約の導入を最近発表しました。

 

投資シナリオの検討

  • 金融投機はビットコインを利用する主要活動の 1 つとされており、ビットコイン商品の導入によりかなりの取引高増につながる可能性があります。

 

投資リスク

  • ビットコイン商品は新規の商品であるため、同社の他の商品と関連して、相当の需要があるかどうかは不透明です。
  • 将来企業価値/EBITDA は 21.0 倍であり、株価は既にやや高い水準にあります。

 

評価基準

出典:Bloomberg、BitMEX リサーチ

 

CBOE

考察結果

  • 暗号通貨が収益の重要な牽引役となる可能性は高くありません。

 

概要

  • CBOE は機関投資家向けの金融オプション取引プラットフォームを運営しています。  主要商品は、FX および株式指数と関連があります。
  • 同社は、ビットコイン先物契約の導入を最近発表しました。

投資シナリオ

  • CME 同様、金融投機がビットコインを利用する主要活動の 1 つであり、ビットコイン商品の導入によりかなりの取引高増につながる可能性があります。

 

投資リスク

  • ビットコイン商品は新規の商品であるため、同社の他の商品と関連して、相当の需要があるかどうかは不透明です。
  • 将来企業価値/EBITDA は 24.4 倍であり、株価は既にやや高い水準にあります。

評価基準

出典:Bloomberg、BitMEX リサーチ

 

SBI Holdings

考察結果

  • 「フェイク (偽の) Satoshi」とのパートナーシップは重大な懸念であり、当社は SBI への投資を推奨しません。

 

概要

  • SBI ホールディングスは、主要事業を国内オンライン株式取引プラットフォームとする日本の金融企業です。SBI は GMO と同格とみなすことができます。
  • SBI ホールディングスは暗号通貨分野にかなり関心が高いと見られ、Ripple、R3、Orb、Coinplug、Wirex、Veem、bitFlyer に投資する暗号通貨ファンドを持ちます。(出典)
  • SBI はビットコイン採掘を含め、投資拡大を計画しています。また、ICO の助言など、ブロックチェーンに関するコンサルティング事業にも従事しています。

 

投資シナリオの検討

  • SBI ホールディングスは暗号通貨業界の多数の分野への投資機会となります。

 

投資リスク

  • SBI は最近、nChain との戦略的提携を発表しました。同社の経営者はビットコイン界で「フェイク (偽の) Satoshi」としても知られる Craig Wright 氏です。同氏との提携により、SBI が暗号通貨分野にあまり詳しくないか、株主の資金を無駄にする可能性があると懸念されています。
  • SBI のブロックチェーン戦略は一貫性に欠けているようにも見受けられます。

 

評価基準

出典:Bloomberg、BitMEX リサーチ

 

その他の暗号通貨関連企業

ティッカー 企業名 時価総額(US$ m) 2017 年初来リターン(US$) 説明 ブロックチェーン専門企業
日本
4751 JP サイバーエージェント 4,814 50.0% メディアWebサイト「Ameba」の運営、
広告代理店業務、
外国為替取引Webサイト、PCやモバイルコンテンツを提供。自社の暗号通貨取引所を準備中か
非該当
3774 JP インターネットイニシアチブジャパン 841 16.2% インターネット接続サービスを企業向けに展開。ビットコインサービスを計画中 非該当
6172 JP メタップス 365 (24.6%) スマートフォン向け広告アプリケーションプラットフォームを開発。自社の暗号通貨取引所を準備中か 非該当
3825 JP リミックスポイント 322 359.9% 電気小売事業、省エネコンサルティング、中古自動車販売事業に従事。BITPoint 取引所事業 非該当
2315 JP カイカ  231 (7.7%) 情報システムソリューションサービスを金融および電気通信業界に提供。仮想通貨「CICC(カイカ)」を発行 非該当
3696 JP セレス   216 34.8% インターネットマーケティングサービスを提供。「CoinTip」サービスを運営 非該当
3853 JP インフォテリア 177 47.6% ソフトウェア開発に従事(XMLベース)。仮想通貨「Zen」を発行 非該当
8732 JP マネーパートナーズ    133 (18.0%) 外国為替取引を提供。取引所「Kraken」と提携 非該当
3807 JP フィスコ  125 22.4% 金融情報を提供。モナコインの両替と取引に従事 非該当
8704 JP トレーダーズホールディングス   120 (8.7%) インターネットとコールセンターを通じて金融サービスを提供。Quoinex取引所事業 非該当
3121 JP MBK  102 36.7% 日本と中国でローンと投資サービスを企業と不動産会社向けに提供。BTCBOX取引所に投資 非該当
3808 JP Okwave   43 36.6% Q&Aコミュニティサイト「OKWAVE」を運営。自前の暗号通貨取引所を準備中か。 非該当
台湾
2377 TT Micro Star 2,058 5.6% マザーボード、ビデオグラフィックカード(VGA)の製造・販売 非該当
2376 TT Gigabyte Tech 1,102 28.8% パソコン用マザーボードの製造・販売 非該当
3515 TT AsRock 296 100.6% マザーボードの開発、設計、小売 非該当
2399 TT BioStar Micro 84 70.5% パソコン用マザーボードとインターフェイスカードの製造、販売 非該当
6150 TT TUL Corp 68 312.3% ビデオグラフィックカード(VGA)、マルチメディア製品、インターフェイスカードの開発、製造、販売 非該当
アメリカ
NVDA US NVIDIA 116,085 80.2% グラフィックスプロセッサおよび関連ソフトウェアの設計、開発、販売 非該当
AMD US AMD 9,928 (9.3%) 半導体製品の製造 非該当
GBTC US Bitcoin Investment Trust 5,139 2,383.0% ビットコイン投資専用の信託 該当
RIOT US Riot Blockchain 275 732.7% 暗号通貨の購入、ブロックチェーン事業、およびブロックチェーンテクノロジー企業のサポート 該当
SSC US Seven Starts Cloud Group 262 241.5% 人工知能、ブロックチェーン、フィンテック搭載デジタル金融ソリューションの提供 非該当
MGTI US MGT Capital  204 475.3% サイバーセキュリティ技術ポートフォリオの運営 該当
DPW US Digital Power 103 686.4% パソコンその他電気機器メーカー向けに市販用スイッチング電源の設計、開発、製造、販売 非該当
カナダ
HIVE CN Hive Blockchain 636 n/a 暗号通貨採掘企業として運営 該当
BTL CN BTL Group 197 991.7% ブロックチェーンテクノロジーの開発 該当
CODE CN 360 Blockchain 33 600.0% ブロックチェーンを基盤とするテクノロジーに投資 該当
オーストラリア
DCC AU Digitalx 106 495.7% ICOアドバイザリーおよびブロックチェーンコンサルティングサービス 該当

出典:Bloomberg、BitMEX リサーチ

 

免責事項: この文書は投資に関する助言に該当しません。投資に関する決断を、下す前に、独自のリサーチをすることが推奨されます。

リップル・ストーリー

これは、2018 年 2 月 6 日 BITMEX リサーチによりアップロードされた記事の日本語訳です。

 

抜粋:今回のブログでは、リップルの歴史を概観すると共に、主に XRP トークンの支配権を巡る創業者とパートナー企業との様々な論争を詳細に見ていきます。次に、リップルの背後にあるテクノロジーの各要素について考察します。結論から述べると、リップルの分散コンセンサスメカニズムはその明らかな目的を果たしていません。なぜなら、リップルのノードのデフォルトでの動作は、台帳の更新に関する完全な支配権を、Ripple.com サーバーに事実上委譲するようになっているため、Ripple はビットコインやイーサリアムなどの暗号トークンの興味深い特徴を、少なくとも技術的には、まったく共有していないように、当社には思われます。

 

2011年にリップルに入社した Jed McCaleb (左) と、2012年に同社に入社した Chris Larsen (右)。(出典:BitMEX リサーチ)

はじめに

2018 年 1 月 4 日、リップル (XRP) の価格は $3.31 を付け、2017 年初以来の上昇率は51,709% とまさに驚異的な域に達しました。その結果、時価総額は 3,310 億ドルとなり、リップルの評価額は、Google、Apple、Facebook、Alibaba、Amazon といった世界最大のテクノロジー企業と並びました。Forbes誌によると、リップル の Chris Larsen 上級会長は同社株の17% を所有し、51.9 億 XRP を支配しているため、ピーク時の時価で換算して約 500 億ドルと、世界長者番付にランクインすることが確実視されています。こうした驚異的な評価の反面、市場ではリップルの歴史やその背景にあるテクノロジーについてあまり知られていません。今回のブログでは、リップルの歴史を概観し、技術的基盤をいくつか考察していきます。

リップルの歴史

RipplePay:2004 年~2012 年

2004 年、Ryan Fugger は、「RipplePay」社を創業しました。その中心的アイデアは、信用のおけるピアツーピア式金融リレーションネットワークを確立し、銀行を凌駕するというものでした。

RipplePay 現存時の同社のロゴ。

RipplePay 現存時の同社のロゴRipplePay の基本理論は次のようなものでした。

  • 銀行の業務は資金を預かり、貸し付けているだけである。
  • 銀行預金は、顧客からの銀行へのローンにほかならない。従来の銀行システムでは、ボブからアリスへの送金は、2人の銀行へのローン残高を変更するだけにすぎない。つまり、ボブの銀行ローン残高は減り、アリスの銀行ローン残高は増える。
  • RipplePay は信用のおける利用者同士(ピアツーピア)のネットワークを確立して、個人間で直接相互に貸し借りをすれば、銀行に置き換わることができると考えた。ローン残高を変更すれば支払いは可能である。
  • この場合、支払いはローン残高の変更によって簡単に行われる。ただし、支払者から受領者へのリレーションパスを見出す能力を持つシステムが必要となる。

上図の例では、右端の人が左端の人に 20 ドルを支払う。 支払者と受領者はお互いを直接信用しているわけではないが、支払いは、相互に信頼関係にある 7人 が交わす 6 枚の借用証書 (IOU) をチェーン状につなげ、その信頼関係を通じて移転していく。(出典:Ripple.com)

上記のネットワークアーキテクチャは、ライトニングネットワークの基本構想と類似しますが、カウンターパーティリスクの点で、この問題を克服しているライトニングネットワークと立場が異なります。このモデルは、不安定である可能性が高いと当社は考えます。信頼関係に基づくネットワークは「信用がおける」とみなされる可能性は低く、その有効性は不明です。システムを大手銀行寄りに集中化させるか(この場合、既存の金融システムとの大きな差別化は望めません)、支払い不能が日常茶飯事になる恐れがあります。ただ、現在のリップルのシステムは、この当初のアイデアから様変わりしています。

2011 年初め、ビットコインは上昇気流に乗り、リップルのターゲット層の注目を引き始めました。ビットコインは、リップルの失敗をある程度克服するのに成功し、リップルより一見優れたアーキテクチャを持つピアツーピア式決済ネットワークを構築していました。2011 年 5 月、ビットコイン初期の創始者 Jed McCaleb がリップルに入社します。上記懸念材料に対処することが目的であったと推察されます。

McCaleb は、2010 年に「Mt. Gox Bitcoin」取引所を創設しましたが、2011 年 3 月に MarkKarpeles に売却しました。WizSec 社の Kim Nilsson 氏による Mt. Gox 失敗の分析によると、プラットフォームは既に資金難に陥っており、 2011 年 3 月に McCaleb が売却したときには、手元資金は 80,000 BTC と 5 万ドルに減っていました。この直後、Ryan Fugger はリップルプロジェクトの舵取りを McCaleb に引き継ぎました。

2011 年撮影のこのビデオでは、McCaleb がこのプロジェクトに参加後のリップルの理念とアーキテクチャについて説明しています。

OpenCoin:2012 年 9 月~2014 年 9 月

OpenCoin 時代のリップルのロゴ。(出典:Ripple.com)

2012 年、McCaleb は Chris Larsen を雇い入れました。Larsen は執行役会長として現在も取締役会メンバーにとどまり、Web サイトでは、リップルの共同創業者と紹介されています。これが OpenCoin 時代の幕開けとなります(リップルはこれを皮切りに、2012 年から 2015 年にかけて、社名を3 度変更します)。Larsen は、1996 年に共同創業した E-Loan の元会長兼 CEO でした。ハイテクバブルがピークに達した 1999 年に上場した同社は2005 年に Banco  Popular に売却されました。その後 Larsen は、ピアツーピアの貸付プラットフォーム「Prosper  Marketplace」を創設し、2012 年にリップル入社までこのプラットフォームを運営していました。

Larsen は以前も価格変動とバブルを経験しています。E-Loan の株価は 1999 年から 2001年にかけて 99.1% の騰落率を記録しました。1999 6 28 日における E-Loan IPO 価格は 14 ドルでしたが、2005 年には4.25 ドルに落ち込みました。 (出典:Bloomberg)

ビットコインの成功に便乗しようと、リップルは内部ネットワークでビットコインでの決済を認め、基本決済通貨とする計画も立てていました。リップルゲートウェイの枠組みができたのもこの時期のことです。利用者コミュニティは、ピアツーピアという体系が機能しないことに気付き始めていました。一般ユーザーは相手を十分信用することをためらう傾向にあり、ネットワークを決済に利用しようとしませんでした。この問題を解消するため、多数のユーザーが信頼できる大規模な安定的事業として、リップルはゲートウェイの構築を決断しました。この決断は妥協と揶揄されましたが、従来の銀行などの金融機関と、ピアツーピアのネットワークとを組み合わせたものです。

リップルゲートウェイの仕組み。(出典:Ripple.com)

2012 年終盤、OpenCoin はリップル決済ネットワークの導入前に存在していた通信会社 Ripple Communications から、「Ripple Card」という名称の使用を反対されます。この出来事からは、会社を法律で保護する社風の変化の兆しと共に、リップルブランドに集中する戦略シフトがうかがえます。

Ripple Communications は、米ネバダ州を拠点とする無関係の通信会社であり、リップルの決済ネットワークが誕生する前から、「Ripple.com」というドメインを保有し、「Ripple」という名称を使用していました。  (出典:Internet Archive)

2012 年 10 月、取引所「Kraken」 (2011 年創設) の創業者兼 CEOであり、McCaleb とも親しい、Jesse Powell が、リップルの初回シードラウンドに参加しました(投資総額は約 20 万ドルと見られています)。Roger Ver はまた、自身がリップルの初期の投資家で、「製作者がまだどうなるのかさえ明らかになる前から」投資をしていると言っています。

XRP トークンのローンチ:2013 1

リップルは、2013 年 1 月、自社コイン「XRP」を発行しました。ビットコイン同様、XRP は暗号式署名の公開チェーンを基盤としているため、初回の Web サイトの信頼性評価 (WOT) やゲートウェイ設計を必要としませんでした。XRP は、ゲートウェイやカウンターパーティリスクなしで、利用者から利用者へ直接送信できました。この方法は、米ドルを含め、リップルのすべての通貨で採用されました。リップルは、米ドル決済で WOT 構造と XRP の併用を想定していたようです (例えばトランザクション手数料の支払い)。リップルは、XRP の供給量を 1,000 億と高く設定しました。理由の 1 つとして、価格の急騰防止が挙げられました。批判筋は、XRP トークンが同ネットワークの必須要素ではなかった可能性を指摘しました。

2013 年 4 月、OpenCoin は Google Ventures、Andreessen Horowitz、IDG Capital Partners、FF Angel、Lightspeed Venture Partners、Bitcoin  Opportunity  Fund、Vast  Ventures から 150 万ドルの資金提供を受けました。  これを皮切りに、世界の著名ベンチャーキャピタルファンドを筆頭に、ベンチャーファンドが何度もリップルに注入されました。

McCaleb は 2013 年 6 月から 2014 年 5 月に、一時、プロジェクトを離脱しましたが、この話題が論議されたのは、2014 年 5 月以降で、リップルコミュニティ内のみにとどまったようです。後日会社が発表した声明によると、McCaleb がプロジェクトに関与しなくなった時期は、Stefan Thomas が CTO として経営の舵取りに乗り出した 2013 年 6 月と推察されます。Thomas は、2011 年 3 月に Web サイト「We Use  Coins」を立ち上げ、同年、  YouTube 動画「What is Bitcoin?」を制作しました。

McCaleb は、戦略面で Larsen と意見が合わず、プロジェクトから手を引かざるを得なくなったようです。ベンチャーキャピタルの新規投資家は、Larsen を支持しました。  リップルを去った後、McCaleb は 2014 年に ステラ (Stellar) を創設します。このプロジェクトは、リップルの当初の理念を基盤にしていると言われました。

Ripple Labs2013 9 月~2015 10

2013 年 9 月、OpenCoin は Ripple Lab に社名を変更しました。

2014 年 2 月、リップルは、「残高凍結」機能を導入し、2014 年 8 月に実践に移しました。この機能を使うと、リップルのゲートウェイは同ゲートウェイの利用者からのコインを、トランザクションの有効な署名なしに、凍結 (あるいは没収さえ)できます。この機能を導入した理由は、ゲートウェイが規制要件 (資金の没収を求める裁判所命令など) に準拠できるようにするためと言われています。ゲートウェイのデフォルト設定では、「凍結」機能は有効にされていましたが、ゲートウェイは「NoFreeze (凍結なし)」フラグを使ってこの機能を無効にできました。つまり、この機能によりゲートウェイが所有するトークンを凍結または没収することは不可能となりました。  当時、最大のゲートウェイであった Bitstamp は凍結機能をオプトアウトしませんでした (つまりデフォルト設定を選択) 。

2015 年 5 月、米規制当局は、Ripple Labsに 70 万ドルの罰金を科しました。必要な承認を得ずに XRP を売却することで、銀行秘密法に違反したことが原因です。リップルはさらに、救済措置にも同意しました。中でも手痛かったのが次の措置です。

  •  Ripple Labs は FinCEN に登録しなければならない。
  • リップルが XRP をさらに発行した場合、受領者は口座情報を登録し、身元情報をリップルに提供しなければならない。
  • リップルは、マネーロンダリング防止規制に準拠し、コンプライアンス役員を任命しなければならない。リップルは、外部監査を実施しなければならない。
  • リップルは、トランザクションと資金フローを規制当局が分析できるようにデータかツールを当局に提供しなければならない。

Ripple (リップル)2015 10 月から現在まで

2015 年 10 月、社名が Ripple に簡略化されました。

現在のリップルのロゴ。(出典:Ripple.com)

2016 年 9 月、リップルは日本の大手オンライン小売証券会社、SBI ホールディングス (8473 JP) が指揮を執った資金調達で 5,500 万ドルを調達し、SBI はリップルの持分 10.5% を取得しました。過去のブログ「暗号通貨事業に進出する上場企業」で述べたように、この取得は SBI による暗号通貨分野への広範な投資の一部です。SBI とリップルは、合弁事業 SBI Ripple Asia を設立しました。出資の内訳は、SBI が60%、リップルが 40% であり、リップルの「分散型金融テクノロジー」を活用した決済プラットフォームの提供を目指しています。

2017 年 9 月、ブロックチェーン企業 の 1 つ R3 がリップルを告訴しました。R3 の主張によると、リップルは 2019 年 9 月までに 50 億 XRP を行使価格 0.0085 ドルで購入する権利を R3 に付与することに、2016 年 9 月に同意したとされます。ピーク時にこのコールオプションの内在的価値は約 165 億ドルに達していました。R3 は、2017 年 6 月に、リップルが権利もないのにこの契約を解除したと主張しています。リップルは、その後、2016 年の原契約に関して、R3 側の条件不履行を理由に反訴しました。リップルに多数の銀行顧客を紹介するか、銀行システムでの XRP の使用を促進するという約束が守られなかったことを根拠としています。2018 年 2 月時点で、この裁判は係争中です。

リップルの供給と会社の留保

リップルは創業時に 1,000 億単位の XRP トークンを発行し、そのうち800億トークンは会社に、200 億トークンは創業者 3 人に割当てられました。以下は、これらトークンの配分の概略です。

  • Ripple は会社として800 億 XRP を受領。
  • Chris Larsen が 95 億トークンを受領。
    •  2014 年、Larsen は 90 億トークンのうち 70 億トークンを慈善基金に拠出。
  • Jed McCaleb が95 億トークンを受領。リップル退社時:
    • McCaleb は 60 億トークンを保持 (ロックアップ契約の対象)。
    • McCaleb の子供が 20 億トークンを保持 (ロックアップ契約の対象)。
    • 15 億トークンは慈善団体と McCaleb の他の親族に贈与 (ロックアップ契約の対象外)。 
  • Arthur Britto が 10 億トークンを受領 (ロックアップ契約の対象)。

McCaleb がリップルを退社する際、保有する XRP を市場に投売りして、価格を暴落させる可能性が取り沙汰されました。McCaleb とリップルは、XRP の売却を制限することでこうした事態を防ぐ以下の契約を練り上げました。この契約は、McCaleb が最初の条件に違反しているとリップルが非難したのを受け、2016 年に改定されました。

2014年の契約
  • 初年度:McCalebの売却限度額は、1週間あたり1万ドル
  • 2〜4年目:McCalebの売却限度額は、それぞれ1週間あたり2万ドル
  • 5〜6年目:McCalebの売却限度単位は、それぞれ年間7億5000万XRP
  • 7年目におけるMcCalebの売却限度単位は、年間10億XRP
  • 8年目以降におけるMcCalebの売却限度単位は、年間20億XRP

(出典:http://archive.is/cuEoz)

リップルが保有していた 800 億 XRP については、残高を売却または無償配布し、その資金を会社の運営や、国際的な送金ゲートウェイの元手に利用する計画でした。以下は Ripple wiki からの引用です。

XRP の価値は低下不可能である。リップルネットワークの構築時に、1,000 億 XRP トークンが作成され、創業者は Ripple Labs に 800 億 XRP を委譲した。Ripple Labs はリップル用ソフトウェアの開発、リップル決済システムの普及、XRP の無償配布や売却に当たる予定である。

2014 年 12 月~2015 年 7 月、同社はその Web サイトで XRP の自己保有高、流通高を開示し、(留保高を示すことで)会社運営に使用された量も間接的に示されました。売却分と無償配布分は区別されませんでした。以下は、2015 年 6 月 30 日付けの開示内容です。

(Source: Ripple.com)

2015年7月以降のある時点で、保有残高が確認できないように開示部分は修正されました。その後2017年後半から、リップル社は3つの数字「リップル社によって保有されているXRP」、「配布されたXRP」、および「エスクローに保管中のXRP」を開示し始めました。2018年1月31日時点において、保有残高は次のようになっています:

  • 70億XRPがリップル社によって保有されている
  • 390億XRPが配布された
  • 550億XRPがエスクローに保管中

当社は古いリップル社保有残高と新しいリップル社に保有されているXRPとの関連付けができておらず、それゆえ当社は、全期間においてどれほどの額をこの会社が自社の運営に使用したのか明らかにできていません。しかしながら、2015年7月までに古い方法により開示された合計12の情報、および同社の現在の主任暗号作成者 David Schwartz (リップルのテクノロジーの主な設計者の 1 人とみなされ、JoelKatz というネット名を持ち、10 億 XRPを保有しているとされる) のRipple Forumへの投稿を当社は分析し、XRP の流通量や使用量を計算した結果、以下のチャートが得られました。

2013 年~2015 年の XRP 保有高単位:10 億。(出典:BitMEX リサーチ、Ripple.com)

 

XRP の流通高 (パートナーへの売却高+ XRP の無償配布高) および会社運営目的での XRP 使用高単位:10 億。バッテンは、情報が存在した時点を表す。会社運営に使用された量が 2015 年末に向かい減少している理由は不明。 (Sources:Ripple.com,https://forum.ripple.com/viewtopic.php?f=1&t=3645, https://forum.ripple.com/viewtopic.php?f=1&t=3590)

 

XRP 流通高単位:10 億。(出典:Ripple.com https://forum.ripple.com/viewtopic.php? f=1&t=3645, https://forum.ripple.com/viewtopic.php?f=1&t=3590, Coinmarketcap/new Ripple disclosure)

データによると、リップルは 2013 年 1 月から 2015 年 7 月にかけて、125 億 XRP を売却または配布しています。売却数、売却価格、無償配布高は特定できませんでした。会社は、2014 年 3 月 から 2015 年 7 月にかけて会社運営資金として 40 億 XRP を使用しましたが、詳しい使途やこの期間以外に会社が支出した XRP の枚数は分かっていません。この点に関する開示は不十分であると当社は考えます。

会社創業者同士の論争

上述したとおり、McCaleb の退社は円満とは言えなかったようです。2014 年5 月、リップルの初期の投資家 Jesse Powell は次のように状況を説明しています。

Jed (McCaleb の愛称) の退社以来、会社の経営陣は方向性を変えた。残念なことに、Jed と私が初期においてこのプロジェクトに抱いていたビジョンは失われてしまった。私はもはや、経営陣にも、会社の回復能力にも、信頼を寄せることができない。20% という創業者への XRP の割当て率は、常識を逸しており、つい最近まで、返却されることを願っていた。Jed がリップルを去る前、私は分配された XRP を会社に返却するよう創業者に求めた。Jed は同意したが、Chris [Larsen] は拒否し、事態は行き詰ってしまった。今日の午後、私は 2 人に割当の件を再び持ちかけてみたが、またもや、Jed からは前向きな返事を得たが、Chris は反発した。

リップルは Powell への反論の中で、リップルの取締役会メンバーの義務にそむいて、Powell が虚偽で中傷的な情報を流布していると主張しました。以下は会社書簡からの引用です。

実際、Chris には、貴殿と Jed との過去の話し合いの中で述べたように、創業者としての XRP の割当の大部分を返却する意思が常にある。

Powell は、Larsen が自分の XRP の一部のみを、返却でなく、貸付として会社に引き渡すつもりであると反論、会社宛ての書簡の最後で、創業者に 200 億 XRP が付与された状況とリップルの創設についての自分の見解を説明しています。

Jed と私は、2011 年 9 月にリップルに入社した。Chris は、2012 年 8 月頃に入社したはずだ。Chris の入社前、会社には 2 人の投資家がいた。Jed と Chris が自分たちにいつ XRP を割当てたか確信が持てないが、2 人は会社設立前の 2012 年 9 月だったと主張している。初期投資家の承認を得ず、他の株主と割当を共有せずに、XRP を取得する行為は、この 2 人による会社資産の横領であると私は考えている。OpenCoin の設立前に、自分たちに割当てたコインは、すべて放棄されたものであると私は考える。2012 年 9 月から 2012 年 12月にかけて、複数の台帳が初期化されており、OpenCoin が構築した新しいバージョンのリップルが明らかに会社の資金で出現した。Jed と Chris が Betacoin を維持するために古いソフトウェアを実行し続けていたなら、問題はない。残念なことに、2012 年 12月、Jed と Chris は再び自分たちに XRP を割当てた。その XRP が、Jed と Chris によって会社に贈与されたものでないことは間違いない。会社の誕生前に存在しておらず、会社のリソースを使って作成されたものだ。その XRP はずっと会社に帰属するものであり、会社から Jed と Chris によって奪われた。盗んだものを返すことを、私は 2 人に求めている。

Powell は Ripple Forum で、状況について発言を続けました。

取締役会と投資家は長年この件について知っている。私はこの件を知って以来、XRP を返却するよう、2 人に求め続けている。Jed は常にその用意があるが、Chris は違う。Jed が 保有し続けているのは、Chris に持分の返却をより強く求めるために万一必要になった場合、Jed の持分を活用するためだ。この件は、一般的に議論するトピックではなく、リップルのイメージと普及にこの件がもたらすダメージを Chris が認識できれば、自然に解決する問題だと私は考えていた。私の目標が正当な分け前を得ることであったなら、この件について、より先見的に行動していただろうが、いつか会社に全部返却されると想定するだけだった。現金報酬や株式の代わりに、小規模の XRP の支払いを受けることには同意できただろうが、そうでなければ、我々は皆、他のすべての人のように、市場価格で XRP を購入するべきであったはずだ。

リップルは、マーケティング担当バイスプレジデントの Monica  Long を通じて、次の公約を発表し、Powell から公開の場で受ける圧力に対抗しました。

さらに、共同創業者兼 CEO の Chris Larsen は、恵まれない人々や金銭的に困窮している人々の寄付として 70 億 XRP を分配するために、基金の創設を承認しました。このプランは、過去、構想段階にあったが、当初創業者全員の正式な合意により、進展し、最終化されたものです。Chrisは、この決断が、当社の幅広いビジョンを追求するうえでの障害を取り除く、適切かつ最善の方法であると考えています。基金の詳細、その独立的取締役、および贈与の詳細は、追って公表されます。

上記の返答により、リップルコミュニティ内で蓄積しつつあったリップルと Larsen への圧力は沈静化しました。こうして創設された基金がRipple Worksです。当社が2015 年 4 月および2016 年 4 月末終了の会計年度における同基金の米国納税申告書を点検したところ、以下の寄付が XRP で行われています。

公約後 2 年経過した 2016 年 4 月時点で、Larsen は約束した合計 70 億 XRP のうち少なくとも 12 億 XRP を基金に拠出したようです。2017 年 4 月に終了する会計年度の申告書はまだ公表されていない可能性があり、入手できていません。

論争、および Bitstamp のリップル凍結事件

2015 年、リップルが、2014 年 8 月に開始したリップル凍結機能を活用する事件が起こりました。Bitstamp ゲートウェイが Jed McCaleb の親族に帰属する資金を凍結したのです。この事態を皮肉と捉える者もいました。リップルは当初、凍結機能の導入理由を、ゲートウェイが司法命令に従えるようにするためだと説明していました。ところが現実には、最初の使用例は、創業者の 1 人に対するリップル自身の指示に従うためのものでした。

経緯を説明すると、McCaleb の親族の 1人が 9,600 万 XRP (恐らく他の親族へ贈与された 20 億 XRP の一部であり、ロックアップ契約の対象にはならない) をリップルに約 100 万ドルの対価で売り戻しました。リップルは米ドルと引き換えに XRP を取得すると、リップル凍結機能を使って、トークンの購入に使用したばかりの 100 万ドルを没収するよう、Bitstamp に依頼したようです。2015 年、Bitstamp は、リップルと McCaleb の双方を相手取って訴訟を起こし、最善の措置の判断を裁判に委ねました。

以下は、裁判文書に記載される容疑/発見事項です。

  •  McCaleb は 55 億 XRP を所有していた。
  •  McCaleb の 2 人の子供は 20 億 XRP を保有していた。
  •  さらに 15 億 XRP が、慈善団体と他の親族によって保有されていた。
  •  2015 年 3 月、McCaleb の親戚である Jacob Stephenson が 9,600 万 XRP の売却をリップルに持ちかけた。
  •  リップルは、約 100 万ドルの対価で、9,600 万 XRP を Stephenson から購入することに同意した。取引は、「市場を操作」し、「XRP 当たりの取引価格を不当に水増しして、他の購入者を誤解させる」ような複雑な形で行われた。この取引の一環として、リップルは原価を超過する対価を支払い、超過額の 7 万 5,000 ドルをリップルに返却するよう Stephenson に求めた。
  •  Bitstamp の最高法務責任者は、リップルの顧問でもあるため、利益相反が存在した。

McCaleb と Ripple との論争は、2016 年の最終決議まで継続しました。その中でリップルは、McCaleb が 2014 年の XRP ロックアップ契約に違反したことを挙げ、最終的な和解に達したとして、次の声明を出しました。

Jed はリップルがまだ OpenCoin であった 2013 年に会社を離れた。それ以来、リップルの戦略にも運営にも一切関与していない。ただし、相当の割合の XRP と会社株式を保有していた。2014 年 8 月、我々はロックアップ契約の条件に合意し、Jed が XRP を売却できる日程と上限高を決めた。契約の目的は、リップルのエコシステムにとって建設的な方法で、Jed の保有する XRP が分配されるように取り計らうことにあった。2015 年 4 月以降、Jed は 2014 年の契約違反の疑いに関連して継続訴訟の当事者となっていた。

McCaleb は上記の声明に対して、自分の視点からの説明で返答し、最終的な合意に自分も納得しているとしました。

今週は、長期的な問題の終結も迎えた。ステラと私は、リップルとの間で進行していた論争で、ようやくリップルとの和解に至った。和解では、リップルの主張が完全に根拠がないことが証明された。リップルは、ステラと私が法的和解に同意する代わりに譲歩した。

最終合意では、McCaleb の親族の 100 万ドルの凍結は解除され、リップルは裁判費用全額の支払いに合意し、20 億 XRP が慈善団体への寄付に開放されました。McCaleb は、残りの XRP (50 億超と推定)を、以下の表の条件と一致する形で売却可能となりました。

2014年の契約 2016年の改定契約
  • McCaleb の売却は、初年度中、1 週間当たり1 万ドルに制限される。
  • 24 年目における McCaleb の売却限度額は、それぞれ、1 週間あたり 2 万ドルとする。
  • 56 年目における McCaleb の売却限度単位は、それぞれ、年間 7 5,000 XRP とする。
  • 7 年目における McCaleb の売却限度単位は、年間 10 XRP とする。
  • 8 年目以降における McCaleb の売却限度単位は、年間 20 XRP とする。
  • McCaleb は、20 XRP を慈善団体に寄付すること。
  • McCaleb は、53 XRP の所有権を留保する必要があるが、リップルが資金を管理する。
  • McCaleb と慈善団体は、 1 日平均取引高に対して以下の割合で、共同で売却できる。
    • 初年度:0.5%
    • 23 年目:0.75%
    • 4年目:1.0%
    • 5年目以降:1.5%

 

 

   (出典:http://archive.is/cuEoz)

リップルのコンセンサス (合意形成) プロセス

コンセンサスシステム

リップルのテクノロジーは、複数の反復を経由しているように見受けられますが、リップルのマーケティングの中核部分は、コンセンサス (合意形成) プロセスにあります。2014 年、リップルは以下の画像を使って、コンセンサスシステムを説明しました。図によると、サーバーが提案を行い、ノードは特定の定足数条件を満たす場合のみこの提案を受け入れるプロセスを反復しているように見うけられます。サーバーの 80% という閾値は重要レベルとみなされ、この閾値を越えると、ノードは提案を最終とみなします。図では、プロセスの一部がやや複雑となっています。BitMEX リサーチチームは、システムの詳細な内部機能がどうなっているか、コンセンサスシステムに必要な収斂的特質をどのように備えているかという点を理解できませんでした。

(Source: Ripple wiki)

2018 年 1月、BitMEX リサーチチームはこのレポートのためにリップルシステムのコピーをインストールし、実行しました。ノードは、サーバー (v1.ripple.com) から 5 つの公開鍵のリストをダウンロードすることで動作します (以下のスクリーンショットを参照)。  5 つの鍵はすべて Ripple.com に割当てられます。ソフトウェアでは、提案が受諾されるためには、5 つのうち 4 つの鍵が提案をサポートする必要があることが示されます。  鍵はすべて Ripple.com サーバーからダウンロードされていることから、リップルは台帳を進めるうえで完全な支配権を実質的に所有します。そのため、システムは中央集権的であると言うことができるでしょう。実際、当社のノードでは、2018 年 2 月 1 日に鍵の期限が切れることが示されています (スクリーンショットのほんの数日後)。つまり、ソフトウェアは、Ripple.com のサーバーに再びアクセスして、新しい鍵のセットをダウンロードする必要があります。

動作中のリップルのスクリーンショット。(出典:BitMEX リサーチ)

言うまでも無く、中央集権的システムに問題はありません。電子システムの圧倒的多数はそうなっています。   中央に権限を集約すると、システムは構築しやすくなり、効率性、速度、実行コスト、他のシステムとの統合しやすさの面で優れています。ただし、以下の画像のように、一部のリップルのマーケティング資料では、リップルシステムは分散されていると主張しており、誤解を招く可能性があります。

(出典:Ripple.com)

誤解を招く可能性のあるマーケティング資料に加え、定足数プロセスが関与する構造や 80% という閾値は、必要でない場合があり、難解さを高めるだけにすぎないと思われます。一方、リップルの擁護者は、5 つの公開鍵リストがカスタマイズ可能である点、すなわち設定ファイルを手動で編集し、好きなキーを入力できる点を長所に挙げることができます。  実際、リップルの Web サイトには、こうしたバリデータのリストが掲載されています。とはいえ、リップルのユーザーの多数がこの設定ファイルを手動で変更するという証拠はありません。

ユーザーが設定ファイルを修正したと仮定した場合でも、大して有益ではない可能性があります。こうした状況で、システムが単一の台帳に収斂すると想定する理由は特にありません。例えば、当社ユーザーは 5 つのバリデータを接続し、別のユーザーは別の 5 つのバリデータを接続できます。この場合、各ノードは 80% の閾値に達しますが、2 つの相反する台帳に対してです。サーバーグループからの 80% という定足数閾値には、当社が認識している限り、収斂性またはコンセンサスという特質はありません。従って、このコンセンサスプロセスは不要な可能性があると当社は考えます。

台帳のバリデーション

コンセンサスプロセスは中央集権的ですが、ユーザーノードはなお参加者全員からのトランザクションデータを検証できるという主張することもできます。この主張には納得のいく面もありますが、台帳を先に進める行為が中央集権的なプロセスであるならば、リップルのサーバーはユーザーのローカルノードが拒絶する無効な提案を受諾し、ユーザーのノードは前進できなくなります。したがって、この検証にはほとんど価値がなく、リップルが台帳を実質的に支配していると主張することができます。

リップルでは明らかに、台帳の最初から32,000~ 33,000 のブロックが不足しており、ノードはこのデータを取得できません。 つまり、チェーン全体、およびリップルが当初ローンチした、1,000 億 XRP の完全なパスを監査できないことになります。「初期に台帳がリセットされた可能性」を示唆する Powell の発言を受け、一部この点を懸念する声が上がっています。David Schwartz は不足しているブロックの重要性について次のように説明しています:

これは平均的なリップルユーザーには何も問題ありません。2013年1月、リップルサーバーのバグが原因で台帳のヘッダ部分が失われました。リップルサーバーで稼働する全てのデータが集められましたが、それらは台帳を構築するのには不十分でした。実際のトランザクションは、どのトランザクションがどの台帳に入ったかわからない情報や、その他のトランザクションと混ざっています。台帳のヘッダ部分がないと、台帳を再構築するのは容易ではありません。台帳番号N-1のハッシュが台帳番号Nを作成するのに必要で、そのことが物事を複雑にしているのです。

 

 

結論

このレポートの大半では、横領容疑を含めた XRP の支配権を巡る論争に焦点が当てられています。恐らく、こうした論争は、エコシステムの価値が急速かつ予想外に拡大したことを考慮すれば、それほど特異とはいえません。実際、この論争ストーリーは、このブログの冒頭で触れたハイテク大手企業の一部のエピソードと大差ないかもしれません。

論争より重要なのは、リップルのシステムが、あらゆる実務的な点で、完全に中央集権化しているように思われ、そのためユニークな技術的特徴を失っているという事実です。ただ、この事実によりリップルまたは XRP が失敗する運命にあるということにはなりません。リップルは多額の財務資本を有し、マーケティングや事業パートナーの形成において有能である点も証明済みです。こうした点から、企業や消費者による XRP トークンの普及に成功する可能性があり、その場合、ビットコインの批判家がよく指摘する点は、リップルの場合の方がより関連性が高いと言えるでしょう。主な指摘点を以下に挙げます。

  •  インフレの欠如が経済政策として未熟である。
  •  トークン価格は過度に変動的で、投機的である。
  •  人気が加熱した場合、規制当局がシステムを閉鎖する可能性有り。
  •  おそらく最も重要なことには、USドルを使えばいいのではないか。銀行が既存通貨をベースに、競争力のあるデジタルシステムを構築するだろう (まだ構築されていなければ)。

リップルを巡る最大の疑問は、システムの市場価値が巨大であるのに、ビットコイン批判家が沈黙している点です。  この疑問の答えは、ビットコインの批判家と同様に擁護者の一部にも当てはまるかもしれません。すなわち、大半の人は、技術的基盤でなく、文化や関与している人々の特徴で物事を判断する傾向があるということです。

免責事項:このブログで展開される多くの主張は引用ですが、当社はその正確性を保証しません。間違いがあれば、ぜひ、ご指摘ください。