なぜクアントなのか?

著者 – Arthur Hayes

米ドルは、世界最大のシットコインです。しかし、すべての資産は対USD(米ドル)で値付けされています。仮想通貨が影響を受けないわけではありません。仮想資産の世界では、Bitcoin(ビットコイン)/USDが最も重要なクロスです。 

アルトコイン(altcoin: Bitcoin以外の仮想通貨)の世界でも、最も活発なクロスは対USDです。当社のインバース型のデリバティブを、アルトコイン/USD クロスに対して複製するためには、問題となっているアルトコインを担保として受け入れる必要があります。BitMEX が受け入れることのできたアルトコインのうち、次の候補として上がるのはEtherです。しかし、当社のマルチシグ・セキュリティ・プロセスに適合させるには、当社が、Ethereum(イーサリアム)のマルチシグ・スマート契約を利用またはコード化する必要があります。

残念なことに、人気の高い Ethereum のマルチシグ・スマート契約は様々なかたちで悪用されているため、当社は、 Ether を決して安心して保管することができないと考えました。仮想通貨取引プラットフォームを運用する上でこれ以上ないほど重要な法則は、仮想通貨を失ってはならない、というものです。当社は、リスクを制限するためにできることは、何でもしなければなりません。したがって、現状で、Ether を担保として受け入れることは、得策とは言えません。

これらの制約を考慮すると、Ether をマージンとしたインバースEHTUSD契約をローンチすることはできません。インバース型契約では、マージンおよび損益通貨が自国通貨(ETH)建てで表示され、クォート通貨が外国通貨(USD)建てで表示され、契約価値が外国通貨(USD)の額面価額です。

インバース契約の例: XBTUSD スワップ

マージン通貨: XBT (ビットコイン)
クォート通貨: USD
契約価値: $1

ビットコインがマージン通貨および損益通貨として使われているETH/USDのリスクをオファーするためには、クアント・デリバティブ・タイプが必要です

Wikipediaより:

クアントは、デリバティブの一種で、原資産価格はある通貨建てで表示されるものの、その金融商品自体は、別の通貨の何らかのレートで清算される。このような金融商品は、外国資産のエクスポージャーは保有したいが、それに付随する交換レートリスクは負いたくないとするスペキュレーターや投資家にとっては魅力的である。

クアントは、原資産との関係において非直線的に動くことができるエキゾチック・デリバティブです。しかし、流動性を求めるスペキュレーターおよびヘッジャーにとっては非常に有益で、この場合、彼らが安心できる通貨建てでマージンを設定することができます。私がデルタ・ワンのトレーダーだった頃、外国人による取引を制限している国(例:インドおよび台湾)で現地通貨の先物取引を行うために、私たちは日常的にUSDのクアント・デリバティブ取引を行っていました。

最近ローンチされた BitMEX ETHUSD 永久スワップは、クアント・デリバティブです。この契約は、1USDにつき0.000001 XBT を支払います。これは、ビットコインのマルチプライアーが、ETHの米ドル建て額面価格にかかわらず、常に一定であることを意味します。これは、スペキュレーターにとって素晴らしいことで、ビットコインのリターンは、ETHUSDの価格と直線的に連動して変化します。ETH/USDクロスをヘッジするためにこの契約を使う人やマーケットメーカーにとっては、これは若干扱いにくいものとなります。ヘッジングとマーケットメイキングの仕組みについては、このニュースレターで後述します。

クアント事例を扱ったスプレッドシート

当社は、ユーザーがダウンロードして、以下の事例のうちのいくつかに取り組めるよう、スプレッドシートを作成しました。こちらからアクセスできます。

スペキュレーターのためのクアント

スペキュレーターは、リスクに対してエクスポージャーを取ることに関心があります。安く出たり入ったりできれば、どのような方法でエクスポージャーを取るかは二の次です。BitMEX が、クアントを使ったビットコインのデリバティブのために流動性のあるマーケットを作り出すことができれば、スペキュレーターたちが押し寄せることでしょう。

「なぜクアントなのか?」ですでに説明したように、BitMEX ETH/USDのリスクをオファーするためには、ビットコインにクアントを取り入れなければなりません。ここでは、スペキュレーターが関心を持っているコンセプトについて見ていきましょう。

以下のすべての事例において、次の前提を使います。

契約: ETHUSD

マルチプライアー: 1 USDあたり0.000001 XBT

契約数: 10,000

コントラクトバリュー(契約価値)

スペキュレーターにとって最も重要な側面は、契約のペイオフ機能です。当社はETH/USDの価格に対してリスクを取っているため、理想的には、契約のビットコインバリューが、ETH/USDの価格と直線的に連動して上昇および下落しなければなりません。

私は、スペキュレーターは、ビットコイン(XBT)建てで自分たちの利益を表示していると想定しています。したがって、特定の ETH/USD 価格におけるUSD建てでのビットコインのバリューは、関係ありません。端的に言えば、スペキュレーターは、より多くのビットコインを稼ぐために、ビットコインをマージンとして利用したいのです。

上の図は、あらゆるETHUSDのバリューで、そのポジションのXBTバリューが直線的に変化することを示しています。これこそが、スペキュレーターが望んでいることなのです。

XBT バリュー = ETHUSD 価格 * マルチプライアー * 契約数

マージンの計算

ビットコインのマージンはどうやって計算するのでしょう? ETHUSD取引のイニシャルマージンは2%、すなわちレバレッジは50倍です。

イニシャルマージン (IM) = 2% * XBT バリュー

ETHUSDの価格$500で取引を始める場合、下記がイニシャルマージン必要額になります。

イニシャルマージン(IM = 2% * $500 * 0.000001 XBT * 10,000 = 0.10 XBT

次に考慮すべき重要な事柄は、あなたの清算価格がいくらになるかということです。これは、メンテナンスマージンによって決定されます。ETHUSD契約のメンテナンスマージンは、1%です。ETH/USDの原資産スポット価格が1%下落すると、あなたは清算させられます。

損益(PNL)計算

 

損益は、ビットコイン建てで表示されます。損益は、ビットコイン建てにおいて、ETHUSDの価格に直線的に連動します。この契約が1%上昇すれば、あなたのビットコインの損益も1%上昇することになります。上のグラフは、そのことを示しています。

XBT の損益 = (ETHUSD エグジット価格 – ETHUSD エントリー価格) * マルチプライアー * 契約数

上の例で、ETHUSD 価格が $500 から $600 に動いた場合、XBT の損益は次のようになります。

XBT 損益 = ($600 – $500) * 0.000001 XBT * 10,000 = 1 XBT

契約数

ビットコインのエクスポージャーを正確に知るには、少し数学が必要になります。

次の式は、いくつ契約を取れば、理想的なビットコイン想定元本に等しくなるかを計算する方法を示したものです。

契約数 = XBT 想定元本 / [ ETHUSD 価格 * マルチプライアー ]

100 XBT のリスクを取りたい場合、ETHUSD 契約をいくつ取引すればよいのかは、次の式で計算できます。

契約数 = 100 XBT / [ $500 * 0.000001 XBT ] = 200,000 契約

クアント構造は、ビットコインをベースにしたスペキュレーターの希望を満たします。スペキュレーターが関心を寄せる主な要素は、すべてが、ETH/USD価格に直線的に連動することです。その取引に流動性があれば、対原資産で、契約が相対的に高いか安いかは、主な関心事ではありません。

契約がプレミアムであるか、ディスカウントであるかを決定する要因は、後続の要素の中に見出されます。第一原則から、これらの事柄は、クアント・デリバティブのヘッジ方法に大きく左右されます。契約をヘッジするのは、非直線的効果が問題である場合です。

クアント永久スワップのヘッジ

クアント永久スワップのヘッジは、一筋縄ではいきません。2つの仮想資産の間の相関リスクという追加的要素が、物事を複雑にしています。これを第一原則から説明し、その後、より一般的な式を提示します。

前提:

シンボル: ETHUSD

マルチプライアー: 0.000001 XBT

ETHUSD 価格: $500

.BETH (ETH/USD スポット指数): $500

.BXBT (XBT/USD スポット指数): $10,000

シナリオ 1 – ETHUSDのショートとヘッジ

あなたは、ETHUSD100,000 契約します。

まず、あなたの通貨エクスポージャーを計算しましょう。

XBT バリュー = $500 * 0.000001 XBT * -100,000 = -50 XBT

ETH バリュー = XBT バリュー / [ .BETH / .BXBT ] = -1,000 ETH

次に、あなたのETH/USDのエクスポージャーを、1,000 ETHをスポット価格で購入することによりヘッジします。あなたの購入価格は、現在の .BETH 指数価格に一致させることができるとします。

あなたは、原資産通貨のエクスポージャーをヘッジしました。この時点で、あなたのエクスポージャーは完全にヘッジされます。しかし、ETHUSDの価格が変化するにつれ、あなたのETHUSDの損益はXBT建てになり、ETHのヘッジの損益はUSD建てになります。

2つの極端な例を見てみましょう。

1: .BETH が上昇し、.BXBT が下落する

.BETH ETHUSD $750まで上昇する

.BXBT $5,000まで下落する

ETHUSD 損益 = (ETHUSD エグジット価格 – ETHUSD エントリー価格) * マルチプライアー * 契約数 = -25 XBT, USD バリュー -$125,000

ETH スポット USD 損益 = (.BETH エグジット価格 – .BETH エントリー価格) * ETH= $250,000

ネット USD 損益 = USD建てのETHUSD XBT 損益 + ETH スポット USD 損益 = +$125,000

この例では、XBTUSDバリューとETHの間の相関は、-1です。それらは、完全に負の相関関係で動いたため、あなたに利益が発生しました。

2: .BETH 上昇し、.BXBT も上昇する

.BETH ETHUSD $750まで上昇する

.BXBT $15,000まで上昇する

ETHUSD 損益 = -25 XBT, USD バリュー -$375,000

ETH スポット USD 損益 = $250,000

ネット USD 損益 = -$125,000

この例では、XBTUSDバリューとETHの間の相関は、+1です。それらは、完全に正の相関関係で動いたため、あなたに損失が発生しました。

この ETHUSD のショートポジション + ヘッジ では、相関が低下すると利益が生じ、相関が高まると損失が生じました。ETHUSD .BETHベーシスがフラットなため、エントリー価格は、2つの仮想通貨間で相関はないと仮定されます。

シナリオ 2: ETHUSD のロングとヘッジ

あなたは、ETHUSD100,000契約しました。

まず、あなたの通貨エクスポージャーを計算してみましょう。

XBT バリュー = $500 * 0.000001 XBT * 100,000 = 50 XBT

ETH バリュー = XBT バリュー / [ .BETH / .BXBT ] = 1,000 ETH

次に、あなたの ETH/USD エクスポージャーを、 1,000 ETH をスポット価格でショートすることによりヘッジします。現在の.BETH 指数価格とあなたの購入額を一致させることができるとすると、このショート売りに対してETHを借りるコストは発生しません。

あなたは、原資産通貨のエクスポージャーをヘッジしました。この時点で、あなたのエクスポージャーは、完全にヘッジされています。しかし、ETHUSDの価格が変化するにつれ、あなたのETHUSDに対する損益はXBT建てになり、ETHヘッジはUSD建てになります。

2つの極端な例を見てみましょう。

1: .BETH 上昇し、.BXBT は下落する

.BETH ETHUSD $750まで上昇する

.BXBT $5,000まで下落する

ETHUSD 損益  = 25 XBT, USD バリュー $125,000

ETH スポット USD 損益 = -$250,000

ネット USD 損益 = -$125,000

この例では、XBTUSDバリューとETHの間の相関が、-1です。これらは、完全に負の相関関係で動いたため、あなたに損失が発生しました。

2: .BETH 上昇し、.BXBT も上昇する

.BETH ETHUSD $750まで上昇する

.BXBT $15,000まで上昇する

ETHUSD 損益 = 25 XBT, USD バリュー $375,000

ETH スポット USD 損益 = -$250,000

ネット USD 損益 = $125,000

この例で、XBTUSDバリューとETHの相関は、+1です。これらは、完全に正の相関関係で動いたため、あなたに利益が発生しました。

ETHUSD のショートポジション + ヘッジは、相関が高まると利益が発生し、相関が低下すると損失が発生しました。ETHUSD . .BETH ベーシスがフラットなため、エントリー価格は2つの仮想通貨間の相関がゼロだと仮定されます。

下の表は、2つのシナリオをまとめたものです。

対象期間

XBTETHの相関は、静的ではありません。ヘッジされたスワップポジションを長く保有すればするほど、直近の状況に基づいて期待される相関関係が変化する可能性は高まります。

先物取引とは異なり、ETHUSD スワップには満期がありません。このため、あなたのクアントリスクは、あなたが対象とする期間によって決まります。急速に出たり入ったりするマーケットメーカーにとって、クアントの効果は取るに足らないものです。資金調達を行うために期間を延長してポジションを保有するキャッシュおよびキャリーのマーケットメーカーにとって、クアント効果は彼らの損益を破壊するほどのものです。

共分散

多くのマーケットメーカーは、相関リスクをヘッジされないままにしておくことに満足しないでしょう。彼らは、BitMEXとポートフォリオのスポットレッグに対する損益を常にヘッジするでしょう。XBTETHのボラティリティ、そしてそれらの相関関係によっては、損益をヘッジすることがあなたの全体的な損益にとってプラスに働くかマイナスに働くかを決定するのは、共分散です。どちらの資産のボラティリティも高く、相関があなたにとって望ましい範囲を出たり入ったりしている場合は、損益をヘッジすることによって、あなたの損益は増幅されます。

我々は、未知の領域に突入しています。私は、数ヶ月後に、過去のデータを見直し、ファンディングのうちどの程度が、クアントリスク下でのマーケットメーカーのプライシングによるものなのか、またどの程度がETHUSDの間の金利差によるものなのかを計算してみます。

2018年8月4日のダウンタイムについて

本日、2018年8月4日14:29から15:26 UTCにかけて、BitMEX.comならびにBitMEX APIへのアクセスに著しい障害がありました。

負荷の急上昇によりレート制限やセッションに使用される重要な内部システムに過負荷が発生し、システム内においてデータが通常より頻繁に再計算され、負荷が悪化するフィードバックループが発生しました。

フィードバックループは修正され、システムは正常に戻りました。 BitMEXのエンジニアは、これらのシステムを完全に分離するように取り組んでいます。そのため、これらの重要でないオペレーションは、重要な取引リクエストとログインの処理時間に影響を与えません。

今回の混乱においてご不便をおかけしたことをお詫び申し上げます。 BitMEXのエンジニアはフィードバックループの原因を解消しており、このような出来事が再び発生しないように、これらの重要なシステムを分離するために週末に取り組んでいます。

ETH/USD無期限契約提供開始のお知らせ

原文:ETHUSD Perpetual Swap Now Live – BitMEX Blog

XBTUSD先物契約に引き続き、最も高い流動性を提供する取引所としてBitMEXは、ETHUSDの無期限契約の提供を開始致します。

取引は既に可能です。契約の詳細についてはこちらをご覧下さい。

シンボル: ETHUSD
満期: 無期限
Bitcoin Multiplier: 0.000001 XBT (100 Satoshis)
XBTコントラクトバリュー: ETHUSD Price * Bitcoin Multiplier (100 Sat/$1)
価格取得元: .BETH (Bitstamp, GDAX, ならびにKrakenを同じ比率で平均したもの)
最大レバレッジ: 50x

資金調達 最大/最小: -0.75% to 0.75%

間隔: 8 hours

XBTとXBUチェーン比較

注:本稿は古い情報に基づいている。20142016年、BitMEX ではクオントとインバースの両方を扱っていたが、その後、簡略化のため、インバースのみに移行している。

新しい情報については、XBT シリーズガイド をご覧いただきたい。


BitMEX では、総合的なビットコイン派生商品を取り扱うことを目標にしている。現在の主力商品はクオントとインバースの 2 種類に大別される。XBTUSD スワップ商品ではインバース方式を採用し、XBTU16 契約ではクオント方式を採用している。

XBTUSD はビットコイン価格 (任意) 1 ドルで除した値に相当する。XBTU16 では、ビットコイン乗数が 1ドルあたり 0.00001 XBT に固定されている。いずれの契約も米ドル建てで提示され、Kaiko BitMEX インデックスビットコイン/米ドル (XBTUSD) 直物レートを参照する。 下表は XBTUSD XBTU16 の概要である。

シンボル XBTUSD XBTU16
種類 インバース クオント
原資産 1 / XBTUSD または USDXBT XBTUSD
乗数 -$1 0.00001 XBT
建値通貨 USD USD
証拠金と損益通貨 XBT XBT
満期 なし 2016 9 30
決済方式 未実現損益を毎日12:00 UTC に調整し直す Kaiko BitMEX インデックスの10:00 UTC – 12:00 UTC 1 分足時間平均加重価格 (TWAP)
1契約あたりXBT価値 1 / 価格 * $1 価格 * 0.00001 XBT
1契約あたり米ドル価値 $1 価格² * 0.00001 XBT
1契約の XBT 損益 (1 / 価格T – 1 / 価格0) * -$1 (価格T – 価格0) * 0.00001 XBT

XBTUSD は、XBTUSD と価格が提示されるためインバース () 契約であるが、実際には、原資産は USDXBT または 1/XBTUSD である。インバースとしてクォートされる理由は、ビットコイン市場の大半のトレーダーがビットコインをベース通貨とするクォート方式に馴染んでいるためである。この商品は、ビットコインの米ドル建て価値を固定する必要のあるトレーダーに適している。3 か月以内に$100,000 のビットコインを受領する予定の場合、100,000 XBTUSD 契約を売却して、$100,000 の価値を確保する。

XBTU16 は、米ドル建てでクォートされるためクオント先物契約であるが、乗数は XBT 建てである。以下は Wikipedia の引用。

クオント とは、デリバティブ の一種で、原資産単一通貨建てであるが、商品自体は別の通貨建ての固定レートで決済される。

このチェーンはビットコイン保有者がビットコインの将来価格を適切に予測することでビットコイン収益をあげる場合に適している。

上のチャートには、1,000 XBTUSD 契約をロングした場合において、直物レートの推移に伴う米ドルと XBT のエクスポージャーを示している。米ドルのエクスポージャーは、$1,000 で一定であるが、XBT のエクスポージャーは非線形に変化している。この値が XBTUSD 価格 [XBT 価額 = 1/価格 * $1 * 契約数] に相当するためである。次のチャートでは、証拠金との関係が示されている。

1,000 XBTUSD 契約を$500 で購入したものと仮定する。この契約の XBT 価額は、1/$500 * $1 * 1,000 or 2 XBT の算式で計算される。慎重を期し、2 XBT を証拠金として預託する。この証拠金で価格下落時の損失が十分カバーできるという考えの下での預託であるが、上のチャートでその考えが間違っていることがわかる。青い線は 2 XBT の投資額を示している。赤い線は 1,000 XBTUSD 契約ロングポジションの損益を示している。緑の線は損益相殺後の純投資額を示している。価格が $300 を割り込むと、アカウントの投資額は実際にはマイナスつまり破産状態となる。XBTUSD はインバース契約であるため、1,000 契約を購入すると、実際には、USDXBT をショートしたことになる (XBTUSD のロングでなく)。その結果、XBTUSD 価格が下落すると、ポジションの想定価値相当の XBT を預託しても、追加証拠金が必要となり得る。

上のチャートには、XBTU16 契約を 1,000 枚ロングした場合において、XBTUSD 直物レートの変化に伴う米ドルと XBT のエクスポージャーが示されている。XBT のエクスポージャーは、非線形に変化している。価格変数が 次の式のとおり、2乗されているためである:[USD 価額 = 価格² * 0.00001 XBT * 契約]

XBTUSD 相場の見通しに応じて、どちらかのチェーンが他方より明らかに有利となる。上の 2 つのチャートには、XBT と 米ドルの損益が示されており、1,000 XBTU16 1,000 契約のロングポジションとshort 2,500 XBTUSD 2,500 契約のショートポジションで、いずれも価格 $500 と仮定されている。$500 では、この 2 つの商品の XBT USD の価額は等しい。XBTUSD 相場に弱気な見方をしている場合、XBTUSD のショートが適した戦略である。XBTUSD 相場に強気な見方であれば、XBTU16 ロングが最適である。

超短期スプレッド取引

原文:Calling the Curve – BitMEX Blog

BitMEX 20181228日満期のBitcoin / USD 先物契約「XBTZ18」は最近取引を開始した。次の取引案では、短期直物相場は続落し、2018年第3四半期に底を打った後、2018年第4四半期に大幅な反発を見せるという前提に立つ。また、トレーダーのセンチメントに変化はなく、長期的弱気市場に突入するとも仮定されている。

ただし、このシナリオを強く確信する場合、次の戦略でリスクと収益チャンスは最大となる。

1 現在の水準からビットコインが底を打ったと確信するまで XBTU18 をショートする。

2 XBTU18 のショートをカバーしたら XBTZ18 をロングする。

まず、3 か月物をショートする理由は、時間的価値が低いため直物の価格変動により敏感に反応するためである。流動性も高いため、パニックになった投資家は投機やヘッジでこの先物契約を使用する。年率では、XBTZ18 より高いディスカウント率で取引される。

反発局面で XBTZ18 をロングする理由は、時間的価値が高いためである。市場が思惑通り動けば、投機筋はカーブのバックエンド(長期)を買い上げるだろう。年末までには、様々な事態が起こり得る。ビットコインのコールオプション的役割を踏まえ、この先インプライドボラティリティによって価格上昇がもたらされる可能性は下落より大きい。取引商品に内在する時間的価値が高いほど、長期コンベクシティの好転が有利に働く公算も大きくなる。

このシナリオでリスク軽減を図る場合、スプレッド取引が有効である。ただ、リスクが軽減すれば利益チャンスは低下する。

1 現在の水準からビットコインが底を打ったと確信するまで、XBTU18 をショートすると同時に、XBTZ 18 をロングする。

2 上記 XBTU18 のショートを XBTUSD に置き換える。

短期的に、売り圧力が予想されることから、曲線はスティープ化し、XBTU18 のショートポジションの利益でXBTZ18 のロングポジションの損失が相殺される。上記チャートでは、BitMEX Bitcoin / USD 先物市場の現在の曲率を示している。比較的フラットであることから、このスプレッド取引を始めるには今が好機であることが読み取れる。

この取引は価格的に中立であるが、各ポジションには別々に証拠金がかかることに注意されたい。XBTU18 のショートポジションの未実現利益は、XBTZ18 のロングポジションの未実現損失を相殺するために使用できない。

後者の取引にはファンディング率が発生すると同時に、6 か月と長期である。相場の反発に伴い、スワップがプレミアム方向に動くため、ショートポジションの保有者がファンディング率を受け取ることになる。イールドカーブのロングエンドは、時間的価値の上昇により、年率で買い上げられる。スワップのファンディングと先物金利差の拡大で収益がもたらされる。この取引も価格中立であるが、各ポジションに証拠金が必要である。

方向的動きを示すためにスプレッド取引の利用を選択する理由は、予想が間違っていたとしても、資金的ロスが小さいことにある。予想に対する確信が強いほど、各ポジションのレバレッジを高め、資本利益率を上げることができる。

テザー:プエルトリコ財務データ四半期アップデート

原文:Tether: Puerto Rico financial data quarterly update – BitMEX Blog

抜粋:テザーに関する当社の過去調査記事のフォローアップとして、プエルトリコの金融監督機関が発表した2018年第1四半期の財務情報を紹介する。この発表には、テザーの影響を表すさらなる証拠が含まれている。この情報に加え、テザーの消息筋から、当社の初回レポートが適切であるとの確認を得た。

初回レポートで、プエルトリコの Noble Bankがテザーの主な準備銀行であるという推論を示してから数か月後の20185月、Bloombergは当社の主張をさらに裏付ける記事 を発表した。以下にその一部を引用する。

3人の消息筋によると、プエルトリコのサン・ファンに本拠を置くNoble Bank Internationalは、昨年、Bitfinexのために銀行業務を引き継いだ。

上記に加え、BitMEX リサーチもテザーの関連者から話しを聞き、20182月の当社レポートの主張の大半の信憑性を確認できた。初期の発見は、プエルトリコの金融当局の開示データに基づくものであり、この当局者は最近、20183月終了四半期分の最新データを発表した。当社の見解では、当社の初期の推測を裏付けるデータがさらに加わった。

2018年第1四半期財務データ

Noble Bank を含む International Financial Entities (IFE) 部門の銀行預金は、35億ドルと前四半期比 6.9%増となった。同部門の総資産額は41億ドルと前四半期比で7%増加した。こうした緩やかな増加は、仮想通貨取引高の緩やかな増加に正答するものであるが、テザー残高と仮想コインのエコシステムで残高拡大が続いた反面、同四半期に仮想コイン価格が急落したため、残高の伸びが抑制された結果と考えられる。同四半期に、発行中のテザーの価値は62.7% 増加し 23億ドルに達した。

下表は、初回レポートでも紹介したテザーの残高とプエルトリコの銀行部門の預金残高(Noble Bankを含む)を比較した表で、最新データが追加されている。

プエルトリコの IFE 総預金高とテザー残高(単位:百万米ドル)。(出典: IFE AccountsBitMEX リサーチ、Coinmarketcap

総資産に占める現金割合(完全準備銀行の指標)も同四半期に85.8%から 91.0%に上昇している。前回レポートで説明したとおり、これも仮想コインやテザー関連の活動を反映する数値である。

プエルトリコの IFE 総現金残高が総資産に占める割合。(出典:IFE AccountsBitMEX リサーチ)

当四半期に監督当局は、テザー残高の名称を「預金、マネーマーケット投資、およびその他の利息収入を創出する残高」から「銀行内現金」に変更したようだ。当社はこれを不審な動きとは見ていない。

 

ペッグ通貨(Stablecoin)の略歴(パート1)

原文: A brief history of Stablecoins (Part 1) – BitMEX Blog

抜粋:本稿では、BitShares (BitUSD) および MakerDAO (Dai) の 2 つのケーススタディを中心に、分散型ペッグ通貨(stablecoin)の歴史をざっと振り返る。さまざまな設計チョイスの有効性(価格やプールされる担保など)を考察し、有効なペッグ通貨は、金融テクノロジーの究極の代名詞となる可能性が高いものの、当社が今まで考察したシステムはいずれも意義深い規模となるだけの堅牢性を持ち合わせていないという結論に至った。考察対象となった通貨は、「消去法」的な論理を根拠に、ある程度価格安定性を実現しているものの、こうした根拠はテクノロジーの向上に伴い関連性が薄れるように思われる。

概要

分散型ペッグ通貨は、ビットコインのような仮想通貨(検閲耐性のあるデジタルトランザクション)と米ドルや金をはじめとする伝統的な金融資産の安定した値動きという両方の特質を達成することを目的とする。こうしたシステムは、Tether など、一企業が米ドル担保プールをコントロールする結果、システムが中央集中型となり、当局により閉鎖されるリスクを負うトークンと大きく違う。

分散型取引所のアイデアと幾分似通った点があるのに加え、分散型ペッグ通貨は金融テクノロジーの「究極形」と呼ばれている。これは、想定されるメリットの大きさによるものである。当社の意見では、こうしたテクノロジーが社会を変革する力は強大であり、交換レートが浮動するビットコインやイーサリアムトークンをはるかに上回る可能性がある。分散型ペッグ通貨を利用すれば、交換レートの変動や未知のトークンの仕様をユーザーや業者に勧める難問に悩むことなく、ビットコインのメリット (検閲耐性と電子取引能力を兼ね備える) を享受できる。こうしたシステムが大成功する可能性は高く、以下のとおり、関連プロジェクトが多数企画されているのは、当然と言える。

ペッグ通貨プロジェクト一覧

名称 種類 開始日 ホワイトペーパーのリンク
BitShares (BitUSD) 仮想Crypto-collateralized 2014721 ホワイトペーパー
Nu (NuBits) 仮想通貨が担保 2014924 ホワイトペーパー
Steem (SteemUSD) 仮想通貨が担保 2016419 ホワイトペーパー
Corion 無担保 20171014 ホワイトペーパー
MakerDAO (Dai) 仮想通貨が担保 20171227 ホワイトペーパー
Alchemint 仮想通貨が担保 20189 ホワイトペーパー
BitBay 無担保 20189 ホワイトペーパー
Carbon 無担保 未定 ホワイトペーパー
Basis 無担保 未定 ホワイトペーパー
Havven 仮想通貨が担保 未定 ホワイトペーパー
Seignoriage Shares 無担保 未定 ホワイトペーパー

こうしたシステムの構築に伴う技術的問題は軽視されがちである。実際、金融市場につきもののサイクルや激変、ボラティリティに十分耐えうるほど堅牢な分散型ペッグ通貨システムの構築はほぼ不可能と言える。たとえば、大半の法定通貨は、米ドルも含めて達成できていない。米ドルの銀行預金は信用サイクルによるリスクにさらされるためだ。したがって、米ドルを基盤に構築されるペッグ通貨システムに、伝統的な銀行業務を上回る信頼が寄せられるとは考えにくい。

経済学では、マネーサプライ (貨幣供給) という概念があり、階層が増えるにつれ、リスクとインフレへの潜在的影響力は増大する。このペッグ通貨システムは、新たな高リスク階層に加わり得る。

  • M0 – 紙幣・硬貨と中央銀行への預金
  • M1 – 銀行当座口座預金 (M0を含む)
  • M2 – 銀行普通預金口座の預金 (M1を含む)
  • M3 – マネーマーケット口座の資金 (M2を含む)
  • MZM – 要求払いのすべての金融資産への投資資金 (M3を含む)
  • MSC (シンセティック仮想資金) – シンセティック仮想ペッグ通貨システム内の資金 (MZMを含む)

分散型ペッグ通貨テクノロジーがいかに高度または洗練されていたとしても、上記マネーサプライツリーの階層よりこのトークンの堅牢性は低いものと考えられる。

本稿では、米ドルタイプのシンセティックシステムの構築で最も顕著で興味深い試み、2014年の BitUSD とより新しいプロジェクト MakerDAO (Dai) について考察する。

ケーススタディ: BitShares (BitUSD) – 2014

データ
コイン名 BitUSD
発行日 2014721
仮想通貨担保 有り
値決め なし

まず、BitShares プラットフォームのペッグ通貨 BitUSD を取り上げる。BitShares 2014年に次の3人によって立ち上げられた DPoS (delegated proof of stake) プラットフォームである。

  • Daniel Larimer (EOS と Steem の主要アーキテクト)
  • Charles Hoskinson (イーサリアムの元創業 CEO で Cardano のアーキテクト)
  • Stan Larimer (Daniel の父親)

BitShares は、Daniel Larimer がリリースした一連の分散自律型組織 (DAC) タイプのプラットフォームの 1 つである (下図を参照)。

(注:Daniel Larmier の会社 Invictus Innovations は、トークン/DAC プラットフォームを多数リリースしている。Protoshares、Angelshares、BitShares はその数例である。黒い矢印は、Protoshares コイン保有者が新規チェーンのトークンを付与される仕組みを示している。Invictus Innovations はこうしたトークンを新しい DAC プラットフォームで配布することを約束していた。出典:BitSharestalk)

BitUSD Marketing material

(出典:Youtube ビデオ「Introduction to BitShares)

BitUSD システムの仕組み

資金プール 説明
Bitshares BitShares プラットフォームのネイティブ通貨
担保となる Bitshares 担保となる Bitshares には別のプールがあり、ペッグ通貨の予備として使用される。
BitUSD 米ドルの価値を追跡する仕組みを持つペッグ通貨
参加者グループ 説明
BitUSD 保有者 ペッグ通貨 BitUSD の投資家と使用者。BitUSD 保有者は、担保として保有されるBitshares のトークンを換金できる。
BitUSD 作成者 市場で売却 (新規ローンを組む)するか、BitShares を担保として預託することで新規BitUSD を創造する者。当該ローンは短期向けであり、期限後、更新または当初証拠金レベルまで担保を上乗せする必要がある。
トレーダー プラットフォーム固有の分散型取引所で BitUSD Bitshares に交換 (またはその逆)する者。Bitshares BitUSD 市場価格が存在する。
ブロックプロデューサー Bitshares ブロックのプロデューサー/採掘者は、BitUSDを支えるために BitShares を消費する役割を持つ。ただし、この役割を実行するのは、BitShares の価値と BitUSD の価値の差が 150% 未満となった場合に限られる (システム独自の分散型取引所の BitUSD vs BitShares 取引レートに基づく)。採掘者はこれを受け、Bitshares を使ってBitUSD を換金/破棄できる (当初証拠金レベルの150%200%に増加後)
価格安定メカニズム 価格方向 説明
投資家の心理 (不透明感、価格水準の正当化) 両方向 BitUSD システムには特定の価格安定メカニズムは存在しないようである。誰でも BitUSD を換金・作成できるが、こうした移動時の価格は、分散化型取引所の BitUSD BitShares 価格によって決められ、「実際の米ドル」とはリンクしない。ある意味、価格は自律的に決められる。したがって、BitUSD 1 ドルに維持する直接的メカニズムはないが、これに対し「なぜほかの価格で取引されるのか?」という反論が浮上する。当社の見解では、この論理は説得力に乏しい。
BitUSD 換金 (間接的) プラス 担保通貨 (BitShares) の価値が下がれば、BitUSD 保有者はBitUSD 1 ドル相当のBitShares に換金できる。この扱いは、BitUSD の市場価格が 1 ドルのままであり、十分な量の BitShares が担保として預託されているという前提に立つ。

この価格安定メカニズムは、BitShares の価値が下落し、BitUSD 市場価格が1ドルにとどまる場合のみシステムの整合性を保護するものであり、BitUSD 価格を 1 ドル前後に直接安定させるものではないというのが当社の見解である。BitUSD 価格が1 ドルから乖離しても、このメカニズムでは価格の修正はできない。担保価値の維持を目的とするメカニズムとペッグ通貨価格を直接集約させるメカニズムとの違いを明確に区別することが重要である。

弱点

担保価値の下落リスクに左右されるBitShares はテストされていない新しく低価値の資産であるため、価値が変動しやすい。BitUSD を創出するために使用されるあるローン期間中にトークン価値が 50 %急落した場合、担保が不十分となりペッグが下落する可能性がある。

値決めの欠如 – この設計で最も疑問視される点は、値決めの仕組みがなく、実世界の交換レートがシステムに提供される点であると当社は考える。ただし、値決めシステムは導入に手間がかかり、いくつかの弱点と価格操作の余地を伴うことがある(この点については、パート 2 で掘り下げる)。この唯一の迂回策は、どのペッグ通貨システムも分散型取引所の価格フィードを必要とする点である。理論上は、米ドル現物のトランザクションからの分散型価格フィードを公表できるが、BitShares の分散型取引所は、「米ドル現物」を認めなかった。Bisq などの分散型取引所システムは、中央決済なしに、論理上「米ドル現物」の価格を認め、分散型価格フィードを提供可能にした。したがって、ペッグ通貨はいずれ、流動的で堅牢な分散型取引プラットフォームの上の階層 2 のテクノロジーと見なされる可能性がある。いずれにしても、こうしたシステムの実現が大前提となる。

操作 – 分散型取引プラットフォームでの Bitshares BitUSD 市場の取引高は小規模である。そのため、ブロックプロデューサーは、Bitshares の価値が BitUSD と比較して下落させることで、Bitshares を割安に取得できるように操作できる。

価格安定メカニズムの欠如– このシステムの主な弱点は消去法的論理以外、価格を 1 ドル前後に保つメカニズムがない点である。

Daniel Larimer によるシステムの擁護

Daniel の見解によると、BitUSD 作成メカニズムは、金融機関によって実在化する点で、米ドルが経済で創出される仕組みと類似する。
つまり、通常の銀行制度で米ドルが生み出される方法と同じように創出される。ドルは担保によって保証され、存在するようになる。現在の銀行制度では、担保は自宅である。我々のシステムでは、DAC 自体を共有し合う。

(出典:Lets talk Bitcoin episode 129)

ある意味、Daniel のこの発言は正しいが、本稿の冒頭で説明したとおり、こうしたシンセティックドルは伝統的銀行の創出したドルに比べて著しく信頼性に劣るうえ、基礎貨幣とかけ離れた存在であるため、まったく新しいリスク階層とみなされ得る。そのうえ、銀行ローンを取得する際、銀行は通常、顧客の要求に応じて実際の現金を顧客に提供する法的義務を負う。BitUSD 所有者に対しこうした扱いが可能であったとしても、BitUSD 作成者にとってこれは法的義務に相当しない。銀行が預金を払い戻すだけの準備金を現金で通常保有していないのは明らかであるものの、そうする法的義務を負うという事実は、米ドルの銀行預金が BitUSD と一線を画す重要な点であると考えられる。

価格安定メカニズムの欠如という弱点に対し、Larimer は、「価格フィードは不要という仮定」を支持し、次のように主張する。

価格が実質的にショートする方向で動く場合、自動マージンコールの導入により、市場で強制的にショートカバーし、買い戻すようになっている。これが価格を安定させる。市場ペッグは、すべての市場参加者が、将来の売買予想に基づき売買するという前提の下で機能する。合理的な唯一の選択は、将来のペッグに基づき取引すると想定することだ。そう考えない場合、価格の方向性を決める必要がある。判断できないならば、市場から退くことだ。機能すると考えない場合、持ち分を売り、撤退する。何よりシステムはうまくいかなくなるだろうから。つまり、これは自律的な市場ペッグであり、資産は常にドルの購買力を伴うことになる。

(出典:Lets talk Bitcoin episode 129)

1 ドルという価格が「合理的な唯一の選択」というこのアイデアは説得力に乏しいと当社は考える。価格が 1 ドルでなければ、何ドルになるというのだろう?と言っているのと同じことである。この論理はある程度の期間、通用するかもしれないが、持続不能であり、拡張性があるとは思われない。

結論

BitUSD の取引高は期待水準を大幅に下回っている。一時は、発行高が約 4 万ドルに落ち込んだ。また、流動性もかなり低調で、価格は以下で図示するとおり安定度に欠ける。BitUSD の主要アーキテクトは、2017 年に新しいペッグ通貨「SteemUSD」の発行し、今回は価格フィードシステムを盛り込むと提案している。したがって、BitUSD は興味深い初期の実験でありと当社はみている。期待された成果を上げなかっただけでなく、堅牢なペッグ通貨の構築もなし得ていない。

(出典: Coinmarketcap)

ケーススタディ 2 MakerDAO (Dai) – 2017

データ
コイン名 Dai
発行日 20171227
仮想通貨担保 有り
値決め 有り (間接)

次に考察するペッグ通貨は Dai である。この通貨は、イーサリアムプラットフォームを使用する。システムはきわめて複雑で、関連資金プールは 4 通り、安定化メカニズム候補は 6 通りある。現在の
Dai の発行高は約 5,000万ドル相当であり、まずまず安定している。

システムの仕組み

資金プール 説明
イーサリアム イーサリアムは、Maker & Dai が使用するブロックチェーンプラットフォームのネイティブコイン
プール済みイーサリアム イーサリアムは Dai トークンの発行の担保として使用されるプールに預託されている。これは、担保債務ポジション (CDP) とよく呼ばれる。
Dai Dai は プール済みイーサを担保にすることで生成される ERC-20 トークンであり、1 ドルで固定化するよう設計されているペッグ通貨である。
メイカー メイカートークンは MakerDAO のガバナンストークンで、エコシステムの安定化に関する多様なイニシアチブの投票に使用される。また、担保解除プロセス中に所有が強制され、その間、安定手数料がユーザーから徴収され、メイカー建ての支払いのみが受け入れられる。メイカーも ERC-20 トークンである。
参加者グループ 説明
Dai 作成者 イーサリアムのスマートコントラクトへの送信者で、Dai と引き換えにイーサリアムをロックする。作成者は CDP 所有者としても知られる。
Dai 保有者/ユーザー Dai の保有者は、Dai の作成者である場合もそうでない場合もあり得る。ペッグ通貨の Dai の投資家または使用者である。
メイカートークン保有者 メイカートークン保有者は、MakerDAO システムの複数の機能とパラメータについて投票する。安定化手数料や清算率などの側面を管理し、ほかのグループを指名する責任を負う。
保管者 このトレーダーグループは、Dai の担保を監視し、不十分な水準まで落ち込めば公開入札で担保を Dai で購入する。
値決め人 価格フィードの制作者は、メイカーとイーサリアム (Dai 自体でなく) のために所与の価格を選択するために集計・使用される価格情報を送信する。この代理人は MakerDAO トークン保有者によって指名される。

操作を防止するため、価格公表とシステムへの反映に 1 時間のタイムラグがある。また、価格選択には中央値タイプのメカニズムが使用され、最高値と最安値が除外される。値決め人に利益相反がある場合や操作に関与しようとする場合、この仕組みの堅牢性は不十分と証明される場合があるだろう。

Global settler 世界決裁者も MakerDAO トークン保有者によって指名される。Dai 保有者に固定価格で担保を償還する権利を与えることで、このグループは Dai システム全体を解消することができる。
価格調整メカニズム 価格の方向 説明
Dai の換金 プラス 主な安定メカニズムは、理論上、1 ドル相当のイーサリアムで Dai を換金できることである。換金は、CDP 所有者のみが実施できる (担保が不十分な場合を除く)Dai の価格が下落する場合、値決め人が提供する価格フィードに基づき、CDP 所有者は、保有中の Dai を使用するか、市場で購入してから 1 ドル相当のイーサリアムで Dai を換金/削除できる。
Dai の作成 マイナス Dai の換金プロセスを補完する Dai 価格の急騰防止メカニズムとして、イーサリアム保有者は、イーサリアムを CDP の中にハイチすることで、新しい Dai を作成できる。
目標レート(現在無効) 両方向 「目標レートフィードバックメカニズム」(TRFM) という別の価格安定メカニズムがシステムに備わっている。ただし、まだ有効でなく、いくつかの仕様を解決する必要がある。

概念としては、MakerDAO トークン保有者が目標レートを設定することになる。このレートは実質的にスプレッドであり、Dai の作成や換金に適用され、価格修正機能を果たす。

CDP 清算 (間接) プラス トレーダー/保管者が、ほかの CDP の保有担保を換金するメカニズムである。このメカニズムは、担保価値が Dai を支えるのに不十分な水準 (Dai の価値の150%)まで落ち込んだ場合のみ機能する。これは、CDP 所有者にとってCDP を買い増して、イーサリアムの大幅バッファを確保する誘因となる。

これはシステムの整合性確保と担保価値の確保に必要なメカニズムである。ただし、この仕組みが Dai の価値を 1ドルに維持するよう直接働きかけるかは不明であり、安定メカニズムを基盤にブロックを積み上げるようなもの (すなわち担保水準の確保のみに役立つ) だと考えることができる。有意義な仕組みとするには、ほかの換金システムが必要であると見られる。

グローバル決済 プラス このメカニズムは、随時トリガーされる可能性がある。トリガーによって、すべての Dai 保有者は固定価値 (トリガー時の値決めフィードに従い 1 ドル相当) のイーサリアムへの転換を選択できる。または、システム内の総担保水準に鑑み、可能な価格となる場合もある。この転換と通常の換金との違いは、価格が固定的で、特定の CDP に抱き合わされているわけでなく、すべてのDai トークン保有者が利用できる点である。

このメカニズムの趣旨は、CDP 保有者への警告として使用して、価格下落時に、続落を待つのでなく、Dai を換金し続けるようにすることにある。

世界決済は、バグなどの緊急時にも利用できる。

MakerDAO トークン発行 (間接) プラス MakerDAO トークン保有者は、難局時における買い手の役割を担う。システム内の担保(プール済みイーサリアム)水準が担保の100% 未満に落ち込んだら MakerDAO は自動的に作成され、公開市場で入札され、システム内に必要担保を確保するために、追加資金を調達する。システム内の担保が不足する場合、メイカーの保有者が損害を負担する。

このメカニズムでも担保の価値は保護されるが、Dai の価格を 1 ドルに接近させる直接的効果は持たないものと見られる。

軸となる安定メカニズムの分析 – Dai の換金

Dai の価格が低すぎる場合、主な安定メカニズムは CDP 所有者の換金能力であるように思われる。また、Dai の価格が高すぎる場合には、新たな Dai を創造する能力がそれに当たる。たとえば、Dai の価格が 80 セントに下落した場合、CDP 所有者は市場で Dai を購入し、換金して、1 ドル相当のイーサリアムを手に入れ、まずまずの利益を上げることができる。通常の状況でシステムはこのように機能するはずである。

上記は Dai の価格を 1 ドル前後に維持する堅牢な安定メカニズムに思われる。ただし、CDP 所有者が Dai の価格上昇を予想 (1 ドルへと修正) する場合、この理論は機能しない可能性がある。Dai の価格が 80 セントに下落した場合でも、CDP 所有者が 60 セントまで続落すると予想するならば、当該所有者は換金に躊躇する可能性がある。60 セントならさらに大きな利益が期待できるためである。価格が 80 セントを付けた後、続落しないという保証はない。

したがって、安定メカニズムには Dai 所有者と CDP 所有者という 2 つのグループの力関係の変化が影響し得る。この 2 グループは、基本的に市場で逆の取引をしており、Dai の所有者は Dai を売却し、 CDP 所有者は買い手候補となる。CDP 所有者の力が強くなり、資本、忍耐、協調性、決断力で上回ると、このグループは Dai トークンの保有者の裏をかき、価格を下げてから買い戻して大儲けすることができる。可能性は小さいように思われるが、この安定メカニズムはすべての市場状況で機能しない可能性があると当社は見る。当社は BitUSD より Dai の方に軍配が上がると考えるが、Dai ペッグ通貨は市場心理と投資家の期待感に限定的ながら依存する点は、BitUSD と同様である。したがって、Dai ペッグにも弱点があり、規模の拡大は見込み薄である。

世界決済システムは、上記リスクを軽減できる。CDP 所有者が Dai 価格を低すぎる水準に誘導できた場合、それにより世界的に決済が活発になり、Dai 所有者はイーサリアムを 1 ドル前後で買い戻すことになろう。したがって、世界決済システムに脅威が及ぶと Dai 価格は高水準にとどまる。ただ、ここでも、こうした脅威の効果は多様なグループ、CDP 所有者、MakerDAO トークン保有者、世界決済の活性化要因の確信度合いによって変化する。

結論
当社の見解によると、Dai は現在までに作成されたペッグ通貨システムのうち最も洗練し、高度なものの1つである。反面、Dai の安定性メカニズムを掘り下げると、安定性を保証する強力なメカニズムは一切見当たらない代わりに、複雑なネットワークシステムがあり、ある程度相互を参照する回覧ロジックを採用している。この複雑性は 強力かつ明確な安定メカニズムの不在を際立たせ得るものであると主張することもできるが、実験段階におけるシステムの設計に対する試行錯誤アプローチを示すものであると見られる可能性の方が大きい。

したがって、システムは、BitUSD ほどでないにしろ、投資家の期待感と心理になお左右される。安定化システムは少なくともしばらく機能する可能性があるが、市場の混乱やDai 保有者とCDP 所有者とのある種の力の不均衡に耐えるほどの堅牢性は持ち合わさない。つまり、究極の仮想通貨の模索はなお続くことになる。

BitMEX 仮想通貨トレーダーダイジェスト

原文: Crypto trader’s digest

執筆:Arthur Hayes デスク
BitMEX 共同創業者兼 CEO

執筆:BitMEX リサーチデスク

A brief history of Stablecoins (Part 1)

抜粋: 本稿では、BitShares (BitUSD) および MakerDAO (Dai) の 2 つのケーススタディを中心に、分散型ペッグ通貨(stablecoin)の歴史をざっと振り返る。さまざまな設計チョイスの有効性(価格やプールされる担保など)を考察し、有効なペッグ通貨は、金融テクノロジーの究極の代名詞となる可能性が高いものの、当社が今まで考察したシステムはいずれも意義深い規模となるだけの堅牢性を持ち合わせていないという結論に至った。考察対象となった通貨は、「消去法」的な論理を根拠に、ある程度価格安定性を実現しているものの、こうした根拠はテクノロジーの向上に伴い関連性が薄れるように思われる。

ボラティリティの憂鬱

2 万ドルから 6,000 ドルへの急落過程で、世界中のトレーダーが不安に苛まれたことから見ても、最近の下落は上昇より市場にダメージを与えている。金融メディアや多数のトレーダーは、18 か月前に価格が 1,000 ドルであったこと、2015 年秋にはわずか 200 ドルであったことを忘れ去っている。

市場に新たに参入するトレーダーや投資家は、最近の価格動向に巻き込まれ、本質を見失っている。事態を悪化させているのは、価格と同時にボラティリティも急落していることである。仮想通貨にとって、この点は何より致命的だ。

ビットコインの普及に関しては、高ボラティリティも、普及を妨げる主な要因となっている。ビットコインが唯一の経済通貨であったとして、その価値が乱高下するならば、誰もビットコインと現物を交換したがらないためだ。潜在的トレーダーは、この新しい取引ネットワークには、単純に「基礎的」価値がないと参入に躊躇している。そこで、質問がある。1 年足らずで価値が 20 倍に増えた取引ネットワーク通貨が他にあるだろうか。もちろんない。したがって、ボラティリティを動かす要因は、現在の利便性でなく、将来の利便性に対して飛び交う激しい憶測にある。

人類が貨幣の使用法を変えるのは、非常に長期的で、困難なプロセスである。このプロセスでは本質的に混乱は避けられない。貨幣、そしてその扱い手段は、個人的なものであり、時に宗教的でもある。明日から、今まで200年続いていたやり方が変わると伝えられたら、社会は変更に激しく抵抗するだろう。激震は必至である。したがって、ビットコインが生産的な方法で使用される場合、その画期的新時代が訪れるまでの期間、大きな変動は避けられない。

ビットコインは新しい貨幣システムのコールオプションにほかならない。価格形成にとって最も重要な要素は、原資産のインプライドボラティリティである。上記で図示するとおり、実現済み 30 日足ボラティリティ(年率)は価格と共に急落している。ボラティリティが戻れば、価格も上昇するだろう。

歴史は繰り返す

2015 年のベア市場が 1 月に始まったとき、価格は 300 ドルをつけていた。その後 10 か月間、価格は 200 ~ 300 ドルを推移した。レンジは 50% であるが、日足での価格変動はごくわずかであった。

ボラティリティ不足で、多数のトレーダー、投資家、市場解説者がビットコインを償却した。直近最高値から 80% 超急落して以来、ほとんど変動しない資産など、考慮に値しない。

トレーダーが市場に戻ってきたのは、ボラティリティも戻ってきたためである。ビットコインは、30 日間で年率ボラティリティが 100% 上下し、すぐに戻す可能性がある。相場が 200 ドルから 2 万ドルに変動した要因は、さほど苦労せず、わずかな時間で自分の運命を変えることができると考える世論に迎合的(FOMO)な「投資家」の存在であり、2015 年から 2017 年にかけての実際の経済状況において、ビットコインの普及に関して著しく変化した要因は少ない。

20,000 ドルへの戻し

ボラティリティが大幅に増加するまで、価格の本格的戻しはあるまい。市場が必要とする活況は、1日の価格変動率が 10% を記録するようになれば、再来するだろう。そこで問題となるのが、パリティに戻る材料と、戻るのにかかる時間である。

2017年の強気市場では、世界のマクロ材料のビットコインに対する影響は忘れられていた。2018年下半期については、世界のマクロ材料からみて、ビットコインは安全逃避資産であると証明されるはずだ。2015年に、ギリシャはメルケル氏にその証明をするとほぼ言いかけたが、決断を敢行することはできなかった。それでも、ギリシャが実際に経済自由化を図ることができるというに認識が市場で広がったときに、ビットコイン価格は上昇した。年内にこうした類いの不安要素が生じた場合、ビットコインは安全逃避資産の地位を取り戻すだろうか。

FRB、ECB、日銀が実質的にバランスシートのフラット化や縮小を進める中、年末までに金融市場はほころびを露呈し始めるだろう。長期的に見て供給拡大が繁栄をもたらすことはなく、供給を縮小すれば金融市場の魔物が暗躍することになる。

メディアはなおビットコインに好意的

幸いなことに、大手金融メディアで仮想通貨はもてはやされている。主要プレーヤーの人生は、誇張的に報道され、ビットコインが 6,000 ドル、イーサが 400 ドルの水準にあっても、富裕な個人投資家は、メディアにとってかっこうの話題となる興味深い選択をしている。2015 年には話題にならなかったことが、2018 年には注目を浴びている。

先見性を証明するため、主要メディアはビットコイン価格の底を躍起になって予想しようとしている。こうした専門家が将来の繁栄をもたらすと信じる多数の愚か者はおこぼれを得ようと試みる。多くは失敗するだろうが、十分な努力が報われる者もあり、成功者は取引ゴールとして、メディアでもてはやされることになる。これにより 世論に迎合する層、ボラティリティと価格の増大が加速する。

どんな資産も一本調子で上昇することはなく、底を打ったと考えるほど、十分な調整局面を経たとは言えまい。ビットコイン価格は本来、誰も予想しなかった水準まで上昇し、トレーダーがパニック売りのときに底値買いするより早いペースで反発するものである。

長短期スプレッド取引

2018 年 12 月 28 日満期の BitMEX Bitcoin / USD 先物契約XBTZ18は、最近取引され始めた。以下の取引案では、直物相場は短期的に下落し続け、2018 年第 3 四半期に底を打ってから 2018 年第 4 四半期に大幅に反発すると仮定されている。また、トレーダーのセンチメントに変化はなく、長期的弱気市場に突入するとも仮定されている。

ただし、このシナリオを強く確信する場合、次の戦略でリスクと収益チャンスは最大となる。

1 現在の水準からビットコインが底を打ったと確信するまで XBTU18 をショートする。
2 XBTU18 のショートをカバーしたら XBTZ18 をロングする。

まず、3 か月物をショートする理由は、時間的価値が低いため直物の価格変動により敏感に反応するためである。流動性も高いため、パニックになった投資家は投機やヘッジでこの先物契約を使用する。年率では、XBTZ18 より高いディスカウント率で取引される。

反発局面で XBTZ18 をロングする理由は、時間的価値が高いためである。市場が思惑通りに動けば、投機筋はカーブのバックエンド(長期)を買い上げるだろう。年末までには、様々な事態が起こり得る。ビットコインのコールオプション的役割を踏まえ、この先インプライドボラティリティによって価格上昇がもたらされる可能性は下落より大きい。取引商品に内在する時間的価値が高いほど、長期コンベクシティの好転が有利に働く公算も大きくなる。

このシナリオでリスク軽減を図る場合、スプレッド取引が有効である。ただ、リスクが軽減すれば利益チャンスは低下する。

1 現在の水準からビットコインが底を打ったと確信するまで、XBTU18 をショートすると同時に、XBTZ 18 をロングする。
2 上記 XBTU18 のショートを XBTUSD に置き換える。

カーブのショートエンド(短期)に売り圧力がかかると予想する場合、XBTU18 ショートの利益は XBTZ18 ロングの損失を相殺するため、期間構造はスティープ化する。上記チャートでは、BitMEX Bitcoin / USD 先物市場の現在の曲率を示している。比較的フラットであることから、このスプレッド取引を始めるには今が好機であることが読み取れる。

この取引は価格的に中立であるが、各ポジションには別々に証拠金がかかることに注意されたい。XBTU18 のショートポジションの未実現利益は、XBTZ18 のロングポジションの未実現損失を相殺するために使用できない。

後者の取引にはファンディング率が発生すると同時に、6 か月と長期である。相場の反発に伴い、スワップがプレミアム方向に動くため、ショートポジションの保有者がファンディング率を受け取ることになる。イールドカーブのロングエンドは、時間的価値の上昇により、年率で買い上げられる。スワップのファンディングと先物金利差の拡大で収益がもたらされる。この取引も価格中立であるが、各ポジションに証拠金が必要である。

価格方向性を示すためにスプレッド取引をお勧めする理由は、予想が外れた場合でも、資本基盤を破綻させることがないためである。予想に対する確信が強いほど、各ポジションのレバレッジを高め、資本利益率を上げることができる。

リスクに関する免責事項

BitMEX は金融アドバイザーとしての認可を得ていません。本ニュースレターに記載される情報は、筆者の意見であり、事実と想定されてはなりません。ビットコインは価格変動の大きい商品であり、いずれかの方向に素早く変動する可能性があります。BitMEX は、本稿の助言に従って発生した取引損失の責任を負いません。

資金洗浄にはビットコインでなく不動産が有効

原文:Money Launderers Use Property, not Bitcoin – BitMEX Blog

仮想通貨には一部で悪評が漂う。「マネーロンダリングを幇助する」という通念があるのだ。仮想通貨投資歴の長いHodler(暗号通貨保有者)たちは、公開台帳の存在や米ドルと比べた換金性の低さを理由に資金洗浄にまったく向かないと反論する。米ドルの方が向いているとすると、どの米ドル資産が資金洗浄に有利だろうか?プロは「ビットコインではない」と断言する。

昨今、コカイン売買で得た100万ドルの利益を新品の100ドル紙幣で洗浄するのは容易ではない。銀行に行って預金しようとしても、背を向けた窓口の職員によって、警察に通報されるのが関の山だ。ニューヨークの宝石街を訪れ、ダイアモンドを購入して資金を洗浄できたとしても、このダイアを買値で売りさばくのは至難の業だ。どの国の政府も国内フローの引き留めを常に望んでいる。

ただ、各国政府は時折、誠実な役割を演じることを余儀なくされ、テロリストへの資金供与撲滅を明言する(サウジアラビアは例外)。以下に、不動産市場が未洗浄の資金にとって有能な「ランドリー」になる理由を説明する。

まず、香港での不動産の購入と保有に関する開示に目を向ける。香港は中国人の資金洗浄の舞台であり、米国では世界中の資金が洗浄される。本稿では、共通報告基準(CRS)を通じて両方を考察する。平均的な中国人富裕家Zhou氏の視点で、現金の洗浄方法、中国政府から資金源を隠蔽する方法を考察する。

中国人は同国政府の貪欲な性質を熟知している。過去30年、経済改革は大方の国民に大いなる恩恵をもたらしたが、政治的な過ちを1つでも犯せば、財産を没収され、農村地域に追放される可能性がある。国家が完全に統制する金融システムでは、中国政府の意向次第で、瞬く間に身ぐるみ剥がされることも他人事とは言えない。

自由の国アメリカは、世界各地に居住する納税者のあらゆる金融資産の所在を知る必要があると判断し、米国人の資産に関する報告を金融機関に義務付けている。中国などの多数の外国でも、米国の姿勢に同調し、共通報告基準(CRS)創設の運びとなった。CRSでは、加盟国に他の加盟国と金融データを共有する道筋を設けている。つまり、中国は香港に中国人の情報を要求できるのである。

CRSの進展に伴い、非常に興味深い次の2つの動きが見られた。

  1. 米国はCRSの批准に失敗した。つまり、米国人は米国内に資産を保有する中国人の金融データを中国と共有する義務を負わない。実に考えさせられる話しである。米国はすべての国にFATCAに従い、米国人に関する情報の提供を求めているのに、他国の便宜は図ろうとしない。米国人以外が保有する資産は結果としてどこに行き着くのだろう。
  2. 香港は報告対象資産から不動産を除外した。

こちらのサウスチャイナモーニングポスト の記事が指摘するように、中国人は早速、銀行預金を不動産に転換する動きに出た。不動産は経済活動を有力な原動力の1つであり、不動産ブーム時には多数の雇用が創出された。政策的観点からは、不動産ストックの増大奨励策を講じることで、経済運営の手腕を誇示することができる。

同日は、中国が共通報告基準(CRS)と共同歩調を取る日付である。この基準は、G20の要請に応じて策定された外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)タイプの制度であり、国際的租税回避行為の撲滅と国際税制の完全性の保護を目的とする。中国政府は、2014年にCRSの参加を誓約した。CRSの参加により、中国本土の居住外国人が保有する金融資産情報も収集され始める。合意によると、情報は来年、香港を含む100の国・地域の税務当局と交換される。譲渡税が課されない香港は、多数の中国本土投資家にタックスヘイブンとみなされてきた。だが、外国に保有する金融資産を中国当局に申告するのを防ぐため、こうした投資家は7月の期限までに、金融投資を不動産に転換する必要性に迫られている。

米国に関しては、全米リアルター協会が、不相談の購入を顧客の身元確認(KYC)/マネーロンダリング防止(AML)規制の免除対象とするよう画策している。金融犯罪取締執行ネットワーク(FinCEN)は、一部のホットマネー市場で、不動産が明白な資金洗浄マシンとなっていることを突き止め、2017年8月に開示要件を課した。

2017年2月23日の満期を前に、FinCENは、最新GTOでの報告対象トランザクションの相当部分が、ダミー会社の購入者の受益所有者と判明した個人による犯罪が疑われる活動に関連していることを発見した。結果として、FinCENは直近GTOの満期を2017年8月22日まで180日延長し、今年中に別の都市でも恒久的データ収集の必要性を検討する可能性がある。GTOは、銀行ローンなどの外部資金を調達せずに居住用不動産を購入する法人の持ち分を25%以上所有する自然人を特定するために、次の地域においてトランザクションが所定の閾値を満たす場合、特定の権原会社を必要とする。

  • 50万ドル以上 – テキサス州ベア郡
  • 100万ドル以上 – フロリダ州マイアミ・デイド郡、ブロワード郡、パームビーチ郡
  • 150万ドル以上 – ニューヨーク市ブルックリン区、クイーンズ区、ブロンクス区、スタテンアイランド区
  • 200万ドル以上 – カリフォルニア州、サンディエゴ郡、ロサンゼルス郡、サンフランシスコ郡、サンマテオ郡、サンタクララ郡
  • 300万ドル以上 – Nニューヨーク市マンハッタン区

これにより、悪質な資金洗浄に対抗するために適切な方向へ大局的に一歩踏み出したことになるが、典型的な投資家であるZhou氏は数百万ドルを隠し持ち、今までどおりビジネスを続けている。

中国政府の詮索の目や、資本逃避の防止に取り組む他の政府の目を逃れるには、米国はなお選好される資金の隠し場所となっている。上記の上限額を超えない限り、無傷の銀行口座を開設し、現金で不動産を購入するのはさほど難しくないはずである。

ビットコインはどうか

香港や米国の流動的な不動産市場で数百万ドルを洗浄し、隠蔽するのは明らかに容易である。では、我らがビットコインを使用するとどうなるだろう。

100万ドルの資金をビットコインで移動させるとしよう。

選択肢は2とおりある。取引所にアカウントを開設するか、ディーラーと相対(OTC)取引をする。

これだけの額を扱える取引所は、銀行と密接な関係を築いている。銀行は広範なKYC / AML検査をすべての口座に求めている。目的が資金フローの隠匿であれば、これは最善策とは言えない。召喚状を提示され、取引所は顧客情報を提出せざるを得ない。

取引所を使用できないのであれば、OTCディーラーと取引できるかもしれない。だが、大手ディーラーもKYC / AML規制に従う必要があり、同じく銀行と強固な関係を築いている。

取引所と規制準拠のOTCディーラーは、主な流動性の提供者である。KYC審査なしで顧客を迎えるディーラーもあるが、スプレッドは市場と大きくかけ離れている。資金サイズに対応可能であったとしても、資金洗浄のために、20%超の利息が予想される。

仮想通貨市場での資金洗浄は、身元情報を提供したくないのであれば、きわめて難しい。不動産の方がはるかに容易である。不動産ブローカーには政府から金利が付与される。ブローカーはKYC / AMLの報告要件を緩和するためにあらゆる努力を注ぐだろう。

結論:「違法資金の洗浄を可能にするのは、Satoshiでなく アンクル・サム(米国)である。」

ゴドーを待ちながら

原文: Waiting for Godot – BitMEX Blog

“Nothing happens.Nobody comes, nobody goes.It’s awful.(何も起こらない。誰も来ない。誰も出て行かない。最悪だ。)” 

― サミュエル・ベケット『ゴドーを待ちながら』

仮想通貨市場は、その発端以来、さまざまなゴドーを待ち続けている。トレーダーにとってのゴドーとは、架空の機関投資家である。彼らが市場で大勝負をかけると、参加者は一生楽に暮らせるだけの大儲けをして、その一部でランボルギーニを購入する。彼らが市場に関与すれば、流動性は驚異的に改善し、市場は筋書き通りに「振る舞う」ようになる。

自分も含め仮想通貨批評家の多くは、2018年を機関投資家が大勝負に出る年と宣言した。新規マネーが殺到し、ビットコイン価格は1万ドルを突破。瞬く間に参加者を天界(ヴァルハラ)へ導いた。

北半球で夏が近づく中、機関投資家はこの新市場に実際に群がるだろうか。ゴールドマンとJPモルガンの仮想通貨取引デスクのニュース以外で、仮想通貨市場への機関投資家の興味を表象するのはどういった要因であろう。

最も有力なのが、CMEとCBOEビットコイン先物契約の取引高である。いずれの契約も米ドル建て証拠金で決済される。この契約を取引すれば、ビットコインにまったく手を触れずに、ビットコイン価格のポジションを取ることになる。BitMEXの契約の証拠金と決済はビットコイン建てである。つまり、取引するには、ビットコインを所有していなければならない。大半の機関投資家はビットコインという概念を好むが、実際に購入、保管、移転することに及び腰だ。

数値データ

上のグラフでは、CME、CBOE、BitMEXでのビットコイン/米ドル契約の年初来取引高(米ドル建て)を示している。

最初のポイントは、BitMEXの市場シェアの大きさだ。BitMEXのリテール顧客基盤は、CMEとCBOEの機関投資家顧客基盤の数倍規模に及ぶ。BitMEXの大半のリテールトレーダーは、 CMEやCBOEへのアクセスを提供するブローカー付きのアカウントを開設するのが非常に困難である。最小の必須入金額が相対的に高いためだ。CMEとCBOEでは、レバレッジ率は低目で、想定元本は高目である。したがって、BitMEXの典型的顧客がアクセスを得たとしても、契約1枚でさえ取引できないだろう。

このグラフのデータからは、リテールトレーダーの資金フローが市場でなお圧倒的シェアを占めることが明確に読み取れる。ちなみに、Telegram、WeChat、Redditなどに常駐していれば、デリバティブ市場を中心とする急転が引き金となるスポット相場の動きについてユーザーが話しているのを聞くことになるだろう。OKExの金曜の決済が市場を完全な乱高下状態に陥らせたことは何度もある。BitMEX XBTUSDスワップでは大量の資金調達率の大量支払いが近づいており、これも取引行動を左右する。  一方で、CMEやCBOEの満期を受けた市場変動はほとんど耳にしない。

転換期

CMEとCBOEの取引高からは、機関投資家の消極的な関与がうかがえる。1~5月の前月比CAGR(年平均成長率)は3.94%にとどまる。ただし、この状況は変化が予想される。今後6~12か月にわたりが取引を活発化していく中、銀行は顧客が仮想通貨の洗礼を受ける手助けをし始めるだろう。銀行が取引デスクの開設を公表することでリスクを公に取り始めれば、銀行はあらゆる事業を生み出して、そのリスクを正当化するはずだ。最も取引が簡単な商品は、原資産を実際に保有する必要のない商品である。

新設の取引デスクが手っ取り早く成功を納めるには、CMEとCBOE上場先物でリスク商品の価格を提供することだ。顧客は仮想通貨を取引したくてうずうずしている。セルサイドのデスクは、2方向でクォートし、取引日内に取引所リスクを解消することになる。顧客は潤沢な流動性にすぐアクセスでき、銀行はそれなりの額の取引から、十分な売買スプレッドを稼ぐことができる。

取引高と建玉が増えるにつれ、米ドル決済とビットコイン決済の各デリバティブ市場の相互作用は、市場の収益構造の変化につながっていく。そうなる前に、興味のあるトレーダーに、the BitMEX vs. CME Futures Guideの一読をおすすめする。BitMEX商品の非線形的要素は事態を複雑にするものの、いずれ、収益につながる裁定取引やスプレッド取引が2つの市場を舞台に行われることだろう。

ビットコイン経済学 – 負債デフレによるスパイラル(パート3)

レポートの原文は以下より。

Bitcoin Economics – Deflationary Debt Spiral (Part 3) – BitMEX Blog

抜粋

本レポートは、ビットコイン経済学3回シリーズの3回目である。このシリーズの第1回では、銀行の貸付の仕組みについてのありがちな誤解、および銀行が経済における信用水準を拡大する能力にこの貸付の仕組みがどう影響しているかについて考察した。こうした一般に理解されていない貨幣の本質を分析し、それがビジネスサイクルに及ぼしうる影響を評価した。このシリーズの第2回では、ビットコインが独特な特徴を併せ持つと考えられる理由を、伝統的な貨幣と比較しながら検討するとともに、  こうした特徴が銀行の信用拡大能力に及ぼしうる影響について説明した。第3回(パート3)では、ビットコインのデフレ的性質を説明し、こうしたデフレを必然とするビットコインの弱点をいくつか検討する。また、デフレの経済的デメリットに対する一部の従来の概念について、ビットコインは一部の批判派が考える以上に弾力的である可能性についても考察する。

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ビットコインのデフレ問題

ビットコインと関連仮想通貨システムについて、供給上限(ビットコインの場合は2,100万)と付随するシステムのデフレ的性質を批判する声がよく上がっており、経済への悪影響が懸念されている。批判派は、マネーサプライに限りがある経済政策は、歴史的に良策と言えず、経済破綻または悪化につながると主張する。なぜなら、貨幣価値の上昇傾向を受け消費者が支出を控えるため、あるいは債務の実質価値が増加し、経済に占める債務額が増大するためである。ビットコイン支持派は、過去のこうした教訓を学んでいないことを理由に「経済に疎い」と頻繁に揶揄される。

ビットコイン経済学シリーズのこのパート3では、ビットコインは過去に登場した貨幣種類と根本的に異なることから、こうした批判派が考える以上に状況は複雑である可能性について指摘したい。こうした独自の特徴により、ビットコインはデフレ的方針により適する可能性がある。逆に、ビットコインには制限や弱点もあり得る。つまり、インフレ率が上昇すると伝統的貨幣形態には当てはまらない悪影響が及ぶ恐れがある。ビットコイン経済の批判派の一部はこうした問題点を見過ごすことが多いと我々は考える。

ビットコインのインフレ問題に関する主な引用

中央銀行紙幣の供給は、容易に増減できる。紙幣に対する需要ショックがプラス(消費/投資から貨幣にシフト、すなわち「デフレショック」)の場合、中央銀行は証券と外貨を購入してマネーサプライを増大させる。    紙幣に対する需要ショックがマイナスの場合、中央銀行は証券などの資産売却によって貨幣を吸い上げる。  [ビットコイン]の場合、2番目の選択肢はそのプロトコルに含まれていない。つまり、仮想通貨プロトコルには通常、通貨の供給ルールは含まれる、通貨の吸収や償却は含まれていない。我々は、この不可逆性を軽減できるだろうか?

– 岩村充教授(『Can We Stabilize the Price of a Cryptocurrency?: Understanding the Design of Bitcoin and Its Potential to Compete with Central Bank Money』) – 2014年

肝心な点は、ビットコインの世界的供給にインフレ率(例えば年率2%)を織り込まなければ、通貨としての機能が著しく損なわれることにある。人々は、今年より来年価値が高くなることを知っているため、ビットコインを買いだめし始める。

–  David Webb (動画の51分目) – 2014年

大局的には、ハードサプライの上限、すなわち内在的デフレは、貨幣候補にとって本質的強みとは言えない。貨幣の強みは、社会的ニーズを満たせる点にある。ビットコインは内在するデフレ的性質により、社会的ニーズを満たすという側面で期待外れに終わると筆者は考えている。もちろん、私の考えが誤りと判明する可能性もある。状況を見守ることにしよう。

–  エコノミスト誌 (『Bitcoin’s Deflation Problem』) – 2014年

ビットコインの「マネーサプライ」は、最終的に2,100万単位で頭打ちとなる。この制限は、ビットコインが自由主義という原則を貫くうえで、インフレ気味の政策運営という中央銀行の介入を避ける賢明な方法であり、大半の通貨はこうした介入に左右される。ただ、最近の中央銀行には、低水準であれインフレ率をプラスに保つことを支持するしかるべき理由がある。現実世界の賃金は「硬直的」で、企業が従業員給与を削減するのは困難である。賃上げ率がインフレ率を下回る場合、わずかなインフレは実質的に労働者賃金を削減させることで、システムの潤滑油となる。マネーサプライの成長ペースが鈍すぎる場合、物価は下落し、賃金が硬直的な労務コストは上昇する。その結果、失業率は上昇する傾向にある。さらなる物価の下落を見越す労働者が現金を貯め込む場合、景気後退に拍車がかかる。

エコノミスト誌 (『Money from Nothing』) – 2014年

現在のグローバルシステムもかなりひどい状態であるが、ビットコインは最悪だと私は考える。  初心者にとって、ビットコインは元々デフレ的である。作成可能なビットコインの数には上限がある(ちなみに作成とは、業界用語で「採掘」と呼ばれる。新しいビットコインは数学的演算を行うことで作成されるが、ビットコイン業界が発展するにつれ、急速に難解になっている。空前の桁数の素数を計算するように、異次元レベルへと向かっている)。そのため、新しいビットコインの作成コストはどんどん上昇し、ビットコイン価格の上昇率は市場で入手可能な財やサービス価格の上昇率を上回る。資金の投資妙味があるモノが少なくなり、消費者が支出する資金も減少する(モノの供給ペースが貨幣の供給ペースを上回る)。

–  Charlie Stross (『Why I want Bitcoin to die in a fire』) – 2013年

いずれにしても、2,100万問題は払拭されない。この上限に達すれば、ビットコインの供給はいずれ、わずかな準備銀行活動に向かわざるを得なくなる。供給不足の克服策は、既存コインの再貸付、あるいはいずれビットコイン建てで決済が可能という根拠を拠り所とする貸付(伝統的な銀行活動)のみとなるためだ。

Izabella Kaminska – フィナンシャル・タイムズ (『The problem with Bitcoin』)– 2013年

この実験[ビットコイン]から通貨体制について学べることは、それが新たな絶対的基準のようなものとは逆の傾向を強めるということである。それが示すのは、こうした基準が消費控え、デフレ、不況にいかに脆弱であるかということのみにとどまるためである。

–  Paul Krugman (“Golden Cyberfetters』 – 2011年

ビットコインは、限定的規模であれ自立に成功しているが、需要変動に対応する仕組みに欠けている。ビットコインの需要が増大すれば、ビットコイン建てでの価格下落(デフレ)につながり、需要が減少すれば、価格上昇(インフレ)につながる。これら各ケースで何が起こるのか?現在、ビットコインの需要は増大しているため、デフレのケースについて先に述べよう。今日より明日の方があるモノの価値が高くなると考えられる場合、消費者はどのように行動するだろう。そう、そのモノを手に入れ、ため込んでしまう!価値が上昇する一方のモノをどうして手放す必要があるだろう。つまり、需要が増大し続けると、さらに増大することになる。根拠なき熱狂(irrational exuberance)である。デフレは際限なく(少なくとも被害をもたらすまでの間)、デフレを誘う。

The Underground Economist (『Why Bitcoin can’t be a currency』) – 2010年

デフレと負債デフレによるスパイラル

多くの経済学者が、長年、インフレのメリットとデメリットを巡り論争を繰り広げている。ただ、論争の焦点はある理論に集約される(各学派に属する経済学者のこの件に対する見解は多岐にわたる)。  すなわち、デフレが望ましくない経済現象であるのに対し、年率2%前後の緩やかなインフレは望ましいというのが現在の経済的コンセンサスであると断言して良かろう。特定のプラス目標に向けてインフレを中央で管理することに反対するオーストリア学派は、ビットコイン、および金の若干デフレ的性質をひいき目に支持する傾向がある。

デフレに対する否定的な見解の主因として、1929年の大恐慌と負債デフレによる負のスパイラルが挙げられる。この理論は、景気後退にデフレが重なると、債務の実質的価値は増加するというものである。増加により、既に悪い景気はさらに悪化していく。経済学者のアーヴィング・フィッシャーは、1837年、1873年、1929年の大恐慌における金融危機の処方箋としてこの理論を形成した功績を認められることが多い。

そこで我々は、9つのリンクで、以下の一連の結果を推測できる。

1 債務の清算により、経済的困窮状態が定着し、

2 銀行ローンが返済されるにつれ、預金通貨の収縮、流通速度の減速につながる。こうした預金収縮と流通速度の低下は、悲観売りにより加速し、

3 物価水準の下落、つまりドルの膨張をもたらす。上述したとおり、こうした物価下落がレフレーションなどの干渉を受けないと仮定した場合、

4 企業の純資産はなお大幅に下落し、倒産を加速させ、

5 利益低下をもたらす可能性が高い。これは、「資本主義」、つまり営利社会では、赤字運営に対する懸念を生み、

6 生産、取引、雇用の減少につながる。損失、倒産、失業は、

7 人々の先行きと信用に対する不安感をあおり、ひいては、

8 消費行動が控えられ、景気後退に拍車がかかる。上記8つの変化は、

9 金利低下(特に名目金利の低下)、貨幣やレートの低下と商品価格や実質金利の上昇といった複雑な攪乱要因によって引き起こされる。

負債とデフレは、きわめて単純な論理的方法で大方の現象を説明する決め手となる。

アーヴィング・フィッシャー (1933年)

デフレとは批判派の主張ほど悪役であるか?

批判派がビットコイン支持派を「経済に疎い」と非難しても、批判派が常に正しいとは限らないし、ある微妙な点を見落としている可能性もある。まず、オーストリア学派でなくとも、デフレ(供給上限)が常に望ましくない現象であるかどうかは疑問である。デフレが望ましくない状況は確かにあるが、その判断は、経済の性質や社会で用いられる貨幣タイプに応じて異なり得る。人文科学はコンピューターサイエンスの数学と異なり、正答と強く確信できる者はいないし、学術界の意見は時と共に変化する。経済状況も同様であり、それが一連のダイナミクスの変化をもたらし、最適なインフレ政策が変わる可能性がある。したがって、「デフレは常に悪である」という強固な常に固定化したルールは、正しい理念でない可能性がある。例えば、インフレに対するフィッシャーの見解は、20世紀経済には正しかったが、テクノロジーは劇的な変化を遂げるであろう2150年までには、別のインフレ政策が社会にとってより適切となる可能性がある。

ビットコインは異なる性質を持ち、負債デフレによるスパイラル議論は的外れである

本シリーズのパート1とパート2で説明したとおり、ビットコインは米ドルや金本位制など経済で伝統的に使用されている貨幣と根本的に異なる特質を持つ。米ドルをはじめとする伝統的貨幣は、法定通貨の本質的特質である債務を基盤とする。片や、ビットコインは、信用拡大能力に弾力的な特質を持つ可能性があるため、本質的に債務とリンクしない。そのため、ビットコインを基盤とする経済では、経済破綻やデフレ時における債務の実質価値増大の影響は、想定されるほど大きくない可能性がある。したがって、負債デフレによるスパイラル議論は、ビットコインを基盤とする経済にとって関連性が薄くなるものと考えられる。  ビットコイン批判派の多くは、ビットコインのデフレ的貨幣政策のデメリットを評価する際、この点を見過ごしているのではないかというのが我々の見解である。

ビットコイン固有のインフレデメリット

デフレのデメリットに対する弾力性を高めるビットコインの潜在的メリットに加え、ビットコイン批判派は、ビットコインの以下のような弱点も見過ごしている可能性がある。こうした弱点によりビットコインはインフレにより脆弱となる。

  • 恣意的な環境破壊 – ビットコインに対するよくある別の批判として、エネルギー集約的採掘プロセスにより生じる環境破壊が挙げられる。本シリーズのパート2で採掘インセンティブについて取り上げたが、この問題は過大視されている可能性がある。採掘者には採掘活動の地理的場所に関して、それぞれ独自の幅広い選択権が与えられている。こうした柔軟性により、採掘者は新規プロジェクトに投資する代わりに、失敗したエネルギープロジェクトを活用できる。  ただし、ビットコインが環境にもたらす悪影響は、相当否定的な外部要因であると考えられる点は否めない。  採掘インセンティブは、トランザクション手数料とブロック報酬(インフレーション)から成る。したがって、インフレ率の上昇により環境被害の度合いは拡大し、否定的外部要因も増える。2%のインフレ政策が決断される場合、システム価値の少なくとも2%は、毎年環境の”破壊に費やされる可能性がある。こうしたインフレ政策の決断は、多少、恣意的であり、インフレターゲットが高いほど、環境破壊の度合いも大きくなる。既存の金融システムに平行する場合さえある。インフレ目標を達成するための中央銀行の景気刺激策も、少なくとも一部の批評家の目からは、高度の環境破壊を恣意的にもたらす可能性があると言われている。ビットコインを基盤とするシステムにおけるインフレと環境破壊との関係はより直接的で測定可能であり、  インフレが継続する代わりに、ビットコインでは、採掘インセンティブが完全にトランザクション手数料によって運営されるまで、ブロック報酬は4年ごとに半減する。つまり、環境破壊の度合いは市場によって左右することになり、市場は、インフレ的な金融政策の結果である恣意的な高度の環境破壊でなく、利用者がセキュリティに支払う意思のある金額を表す可能性がある。
  • 採掘者と利用者の利益のすり合わせ – 現在、採掘者の主な誘因は、トランザクション手数料でなくブロック報酬である。この点は、採掘者と利用者の利益相反など、エコシステムに潜在的な問題を多数もたらしている。例えば、採掘者は利用者の利益に反し、ブロックからトランザクションを除外することができる。採掘者の主な誘因がトランザクション手数料である場合の方が、採掘者がこの種の行動を取る可能性は小さいが、ビットコインのデフレ的方針を踏まえるといずれそれが現実となるのは確実である。
  • コイン価値の創出不能 – 投資家にとって、供給上限はビットコインの主なセールスポイントと考えられ、投資家の興味を掻き立て、システムの自立に不可欠な要素であったのかもしれない。無期限のインフレ方針が選択されたならば、経済的観点からはデフレ方針の方が不利であるとしても、ビットコインはこれほど成功できなかったかもしれない。

この議論の皮肉な点は「経済的批判が意味を持つのは、ビットコインが大成功を収めた場合のみ」という点

この議論の大半は、ビットコインの経済的意味に焦点を当てており、ビットコインが広範に普及しているため、インフレダイナミクスが社会に影響するものと仮定している。我々はこれをありそうもない結末と考えている。おそらく、ビットコイン批判派は、より強くそう考えているはずだ。さらに我々は、ビットコインが有益なニッチを満たし得ると考えており、検閲に強く、デジタル決済であるという性質を兼ね備えるが、経済における主要通貨となる可能性は小さい。したがって、ビットコインのデフレ的性質を巡る論争は、いずれにしても、概ね的外れであると考えられる。以上より、一部の批判派がこの点をビットコインに対する批判の根拠とするのは、やや奇妙な話しである。

この点は、2013年に米経済学者のポール・クルーグマン氏が『Bitcoin is Evil』という論文で展開した主張と類似する。クルーグマン氏は、「2005年前後までに、インターネットの経済的影響はファックスの経済的影響と大差ないことが明らかになるだろう」という1998年の発言を筆頭に、ビットコイン業界では広く嘲笑の的となっているが、以下の引用で引き合いに出した違いは、正確であると同時に示唆に富むものであると考えられる。

ビットコインがバブルであるか、素晴らしい発明であるかの両方について話そう。その理由の1つは、我々がこの2つの質問を混同しないようにするためだ。

ポール・クルーグマン – 『Bitcoin is Evil』 – 2013年

ビットコインの発明者ナカモト・サトシ氏は、社会的観点からメリットがあるのは、緩やかなインフレの方であったとしても、供給に上限を設けデフレ気味にすることが、システムの成功に役立つと考えたのだろう。システム考案者の立場からは、優先されるのは機能する決済システムの構築である。理論上、社会に有益であったとしても、成功しないシステムは最終的には用をなさないためである。

結論

結論として、ビットコイン支持派は経済に疎いというより、債務、デフレ、貨幣の特質、信用拡大について批判派の考えとは微妙に異なる理解をしているのだろう。対照的に、経済的主流派は貨幣と債務の関係をよく理解しておらず、ビットコインはこの2つの要素を何らかの形で分断する能力を秘めているという主張もあり得る。実際、この主張は、最もよく見受けられる誤解である。債務を貨幣から分断できる能力で、負債デフレによるスパイラルの問題を起こさずにデフレ環境をもたらすというビットコインの能力を多くの者は欠陥でなく利点と捉えている。

ただし、ビットコインがこの経済的問題を解決したとしても、恐らく、ビットコインがより成功を納める経済システムにつながると考えるのは短絡的であろう。ビットコインは新しい独自のシステムであるため、予想外または新規の経済的問題をもっと引き起こす可能性が高い。結局、完璧な貨幣など存在しない。伝統的な過去の経済問題をこの新種の貨幣に当てはめることが単純に適切でないのかもしれない。ビットコインの潜在的経済問題を見極めることは、より困難な可能性があるが、そのさらなる分析と基礎となる技術の理解を深めることが必要であると考えられる。

皮肉にも、デフレに関連するこうした経済的問題が的外れなものでない可能性は低いと考えるならば、ビットコインが広範に普及し、大成功を収める余地は小さくないということになる。その場合、賢明なのは、ビットコインを購入し、その後売らずに保持する(「HODL」)ことであろう。

EOS先物契約開始のお知らせ

この一ヶ月の間に、BitMEXでは取引エンジンの性能を大幅に改善し、システム全体の処理能力や過負荷時のレスポンス性能の引き上げを行いました。近日中に、BitMEXの発展とシステムのスケーリング手法をについて、私達が行った改善の詳細と、現在我々が取り組んでいる課題についてお伝えしたいと思います。前回のレポートはこちらでご覧いただけます。

BitMEX取引エンジンの性能向上と大きな需要を受けまして、私達はEOS Token / Bitcoin 29 June 2018の先物取引の提供を開始致しました。