リップル・ストーリー

これは、2018 年 2 月 6 日 BITMEX リサーチによりアップロードされた記事の日本語訳です。

 

抜粋:今回のブログでは、リップルの歴史を概観すると共に、主に XRP トークンの支配権を巡る創業者とパートナー企業との様々な論争を詳細に見ていきます。次に、リップルの背後にあるテクノロジーの各要素について考察します。結論から述べると、リップルの分散コンセンサスメカニズムはその明らかな目的を果たしていません。なぜなら、リップルのノードのデフォルトでの動作は、台帳の更新に関する完全な支配権を、Ripple.com サーバーに事実上委譲するようになっているため、Ripple はビットコインやイーサリアムなどの暗号トークンの興味深い特徴を、少なくとも技術的には、まったく共有していないように、当社には思われます。

 

2011年にリップルに入社した Jed McCaleb (左) と、2012年に同社に入社した Chris Larsen (右)。(出典:BitMEX リサーチ)

はじめに

2018 年 1 月 4 日、リップル (XRP) の価格は $3.31 を付け、2017 年初以来の上昇率は51,709% とまさに驚異的な域に達しました。その結果、時価総額は 3,310 億ドルとなり、リップルの評価額は、Google、Apple、Facebook、Alibaba、Amazon といった世界最大のテクノロジー企業と並びました。Forbes誌によると、リップル の Chris Larsen 上級会長は同社株の17% を所有し、51.9 億 XRP を支配しているため、ピーク時の時価で換算して約 500 億ドルと、世界長者番付にランクインすることが確実視されています。こうした驚異的な評価の反面、市場ではリップルの歴史やその背景にあるテクノロジーについてあまり知られていません。今回のブログでは、リップルの歴史を概観し、技術的基盤をいくつか考察していきます。

リップルの歴史

RipplePay:2004 年~2012 年

2004 年、Ryan Fugger は、「RipplePay」社を創業しました。その中心的アイデアは、信用のおけるピアツーピア式金融リレーションネットワークを確立し、銀行を凌駕するというものでした。

RipplePay 現存時の同社のロゴ。

RipplePay 現存時の同社のロゴRipplePay の基本理論は次のようなものでした。

  • 銀行の業務は資金を預かり、貸し付けているだけである。
  • 銀行預金は、顧客からの銀行へのローンにほかならない。従来の銀行システムでは、ボブからアリスへの送金は、2人の銀行へのローン残高を変更するだけにすぎない。つまり、ボブの銀行ローン残高は減り、アリスの銀行ローン残高は増える。
  • RipplePay は信用のおける利用者同士(ピアツーピア)のネットワークを確立して、個人間で直接相互に貸し借りをすれば、銀行に置き換わることができると考えた。ローン残高を変更すれば支払いは可能である。
  • この場合、支払いはローン残高の変更によって簡単に行われる。ただし、支払者から受領者へのリレーションパスを見出す能力を持つシステムが必要となる。

上図の例では、右端の人が左端の人に 20 ドルを支払う。 支払者と受領者はお互いを直接信用しているわけではないが、支払いは、相互に信頼関係にある 7人 が交わす 6 枚の借用証書 (IOU) をチェーン状につなげ、その信頼関係を通じて移転していく。(出典:Ripple.com)

上記のネットワークアーキテクチャは、ライトニングネットワークの基本構想と類似しますが、カウンターパーティリスクの点で、この問題を克服しているライトニングネットワークと立場が異なります。このモデルは、不安定である可能性が高いと当社は考えます。信頼関係に基づくネットワークは「信用がおける」とみなされる可能性は低く、その有効性は不明です。システムを大手銀行寄りに集中化させるか(この場合、既存の金融システムとの大きな差別化は望めません)、支払い不能が日常茶飯事になる恐れがあります。ただ、現在のリップルのシステムは、この当初のアイデアから様変わりしています。

2011 年初め、ビットコインは上昇気流に乗り、リップルのターゲット層の注目を引き始めました。ビットコインは、リップルの失敗をある程度克服するのに成功し、リップルより一見優れたアーキテクチャを持つピアツーピア式決済ネットワークを構築していました。2011 年 5 月、ビットコイン初期の創始者 Jed McCaleb がリップルに入社します。上記懸念材料に対処することが目的であったと推察されます。

McCaleb は、2010 年に「Mt. Gox Bitcoin」取引所を創設しましたが、2011 年 3 月に MarkKarpeles に売却しました。WizSec 社の Kim Nilsson 氏による Mt. Gox 失敗の分析によると、プラットフォームは既に資金難に陥っており、 2011 年 3 月に McCaleb が売却したときには、手元資金は 80,000 BTC と 5 万ドルに減っていました。この直後、Ryan Fugger はリップルプロジェクトの舵取りを McCaleb に引き継ぎました。

2011 年撮影のこのビデオでは、McCaleb がこのプロジェクトに参加後のリップルの理念とアーキテクチャについて説明しています。

OpenCoin:2012 年 9 月~2014 年 9 月

OpenCoin 時代のリップルのロゴ。(出典:Ripple.com)

2012 年、McCaleb は Chris Larsen を雇い入れました。Larsen は執行役会長として現在も取締役会メンバーにとどまり、Web サイトでは、リップルの共同創業者と紹介されています。これが OpenCoin 時代の幕開けとなります(リップルはこれを皮切りに、2012 年から 2015 年にかけて、社名を3 度変更します)。Larsen は、1996 年に共同創業した E-Loan の元会長兼 CEO でした。ハイテクバブルがピークに達した 1999 年に上場した同社は2005 年に Banco  Popular に売却されました。その後 Larsen は、ピアツーピアの貸付プラットフォーム「Prosper  Marketplace」を創設し、2012 年にリップル入社までこのプラットフォームを運営していました。

Larsen は以前も価格変動とバブルを経験しています。E-Loan の株価は 1999 年から 2001年にかけて 99.1% の騰落率を記録しました。1999 6 28 日における E-Loan IPO 価格は 14 ドルでしたが、2005 年には4.25 ドルに落ち込みました。 (出典:Bloomberg)

ビットコインの成功に便乗しようと、リップルは内部ネットワークでビットコインでの決済を認め、基本決済通貨とする計画も立てていました。リップルゲートウェイの枠組みができたのもこの時期のことです。利用者コミュニティは、ピアツーピアという体系が機能しないことに気付き始めていました。一般ユーザーは相手を十分信用することをためらう傾向にあり、ネットワークを決済に利用しようとしませんでした。この問題を解消するため、多数のユーザーが信頼できる大規模な安定的事業として、リップルはゲートウェイの構築を決断しました。この決断は妥協と揶揄されましたが、従来の銀行などの金融機関と、ピアツーピアのネットワークとを組み合わせたものです。

リップルゲートウェイの仕組み。(出典:Ripple.com)

2012 年終盤、OpenCoin はリップル決済ネットワークの導入前に存在していた通信会社 Ripple Communications から、「Ripple Card」という名称の使用を反対されます。この出来事からは、会社を法律で保護する社風の変化の兆しと共に、リップルブランドに集中する戦略シフトがうかがえます。

Ripple Communications は、米ネバダ州を拠点とする無関係の通信会社であり、リップルの決済ネットワークが誕生する前から、「Ripple.com」というドメインを保有し、「Ripple」という名称を使用していました。  (出典:Internet Archive)

2012 年 10 月、取引所「Kraken」 (2011 年創設) の創業者兼 CEOであり、McCaleb とも親しい、Jesse Powell が、リップルの初回シードラウンドに参加しました(投資総額は約 20 万ドルと見られています)。Roger Ver はまた、自身がリップルの初期の投資家で、「製作者がまだどうなるのかさえ明らかになる前から」投資をしていると言っています。

XRP トークンのローンチ:2013 1

リップルは、2013 年 1 月、自社コイン「XRP」を発行しました。ビットコイン同様、XRP は暗号式署名の公開チェーンを基盤としているため、初回の Web サイトの信頼性評価 (WOT) やゲートウェイ設計を必要としませんでした。XRP は、ゲートウェイやカウンターパーティリスクなしで、利用者から利用者へ直接送信できました。この方法は、米ドルを含め、リップルのすべての通貨で採用されました。リップルは、米ドル決済で WOT 構造と XRP の併用を想定していたようです (例えばトランザクション手数料の支払い)。リップルは、XRP の供給量を 1,000 億と高く設定しました。理由の 1 つとして、価格の急騰防止が挙げられました。批判筋は、XRP トークンが同ネットワークの必須要素ではなかった可能性を指摘しました。

2013 年 4 月、OpenCoin は Google Ventures、Andreessen Horowitz、IDG Capital Partners、FF Angel、Lightspeed Venture Partners、Bitcoin  Opportunity  Fund、Vast  Ventures から 150 万ドルの資金提供を受けました。  これを皮切りに、世界の著名ベンチャーキャピタルファンドを筆頭に、ベンチャーファンドが何度もリップルに注入されました。

McCaleb は 2013 年 6 月から 2014 年 5 月に、一時、プロジェクトを離脱しましたが、この話題が論議されたのは、2014 年 5 月以降で、リップルコミュニティ内のみにとどまったようです。後日会社が発表した声明によると、McCaleb がプロジェクトに関与しなくなった時期は、Stefan Thomas が CTO として経営の舵取りに乗り出した 2013 年 6 月と推察されます。Thomas は、2011 年 3 月に Web サイト「We Use  Coins」を立ち上げ、同年、  YouTube 動画「What is Bitcoin?」を制作しました。

McCaleb は、戦略面で Larsen と意見が合わず、プロジェクトから手を引かざるを得なくなったようです。ベンチャーキャピタルの新規投資家は、Larsen を支持しました。  リップルを去った後、McCaleb は 2014 年に ステラ (Stellar) を創設します。このプロジェクトは、リップルの当初の理念を基盤にしていると言われました。

Ripple Labs2013 9 月~2015 10

2013 年 9 月、OpenCoin は Ripple Lab に社名を変更しました。

2014 年 2 月、リップルは、「残高凍結」機能を導入し、2014 年 8 月に実践に移しました。この機能を使うと、リップルのゲートウェイは同ゲートウェイの利用者からのコインを、トランザクションの有効な署名なしに、凍結 (あるいは没収さえ)できます。この機能を導入した理由は、ゲートウェイが規制要件 (資金の没収を求める裁判所命令など) に準拠できるようにするためと言われています。ゲートウェイのデフォルト設定では、「凍結」機能は有効にされていましたが、ゲートウェイは「NoFreeze (凍結なし)」フラグを使ってこの機能を無効にできました。つまり、この機能によりゲートウェイが所有するトークンを凍結または没収することは不可能となりました。  当時、最大のゲートウェイであった Bitstamp は凍結機能をオプトアウトしませんでした (つまりデフォルト設定を選択) 。

2015 年 5 月、米規制当局は、Ripple Labsに 70 万ドルの罰金を科しました。必要な承認を得ずに XRP を売却することで、銀行秘密法に違反したことが原因です。リップルはさらに、救済措置にも同意しました。中でも手痛かったのが次の措置です。

  •  Ripple Labs は FinCEN に登録しなければならない。
  • リップルが XRP をさらに発行した場合、受領者は口座情報を登録し、身元情報をリップルに提供しなければならない。
  • リップルは、マネーロンダリング防止規制に準拠し、コンプライアンス役員を任命しなければならない。リップルは、外部監査を実施しなければならない。
  • リップルは、トランザクションと資金フローを規制当局が分析できるようにデータかツールを当局に提供しなければならない。

Ripple (リップル)2015 10 月から現在まで

2015 年 10 月、社名が Ripple に簡略化されました。

現在のリップルのロゴ。(出典:Ripple.com)

2016 年 9 月、リップルは日本の大手オンライン小売証券会社、SBI ホールディングス (8473 JP) が指揮を執った資金調達で 5,500 万ドルを調達し、SBI はリップルの持分 10.5% を取得しました。過去のブログ「暗号通貨事業に進出する上場企業」で述べたように、この取得は SBI による暗号通貨分野への広範な投資の一部です。SBI とリップルは、合弁事業 SBI Ripple Asia を設立しました。出資の内訳は、SBI が60%、リップルが 40% であり、リップルの「分散型金融テクノロジー」を活用した決済プラットフォームの提供を目指しています。

2017 年 9 月、ブロックチェーン企業 の 1 つ R3 がリップルを告訴しました。R3 の主張によると、リップルは 2019 年 9 月までに 50 億 XRP を行使価格 0.0085 ドルで購入する権利を R3 に付与することに、2016 年 9 月に同意したとされます。ピーク時にこのコールオプションの内在的価値は約 165 億ドルに達していました。R3 は、2017 年 6 月に、リップルが権利もないのにこの契約を解除したと主張しています。リップルは、その後、2016 年の原契約に関して、R3 側の条件不履行を理由に反訴しました。リップルに多数の銀行顧客を紹介するか、銀行システムでの XRP の使用を促進するという約束が守られなかったことを根拠としています。2018 年 2 月時点で、この裁判は係争中です。

リップルの供給と会社の留保

リップルは創業時に 1,000 億単位の XRP トークンを発行し、そのうち800億トークンは会社に、200 億トークンは創業者 3 人に割当てられました。以下は、これらトークンの配分の概略です。

  • Ripple は会社として800 億 XRP を受領。
  • Chris Larsen が 95 億トークンを受領。
    •  2014 年、Larsen は 90 億トークンのうち 70 億トークンを慈善基金に拠出。
  • Jed McCaleb が95 億トークンを受領。リップル退社時:
    • McCaleb は 60 億トークンを保持 (ロックアップ契約の対象)。
    • McCaleb の子供が 20 億トークンを保持 (ロックアップ契約の対象)。
    • 15 億トークンは慈善団体と McCaleb の他の親族に贈与 (ロックアップ契約の対象外)。 
  • Arthur Britto が 10 億トークンを受領 (ロックアップ契約の対象)。

McCaleb がリップルを退社する際、保有する XRP を市場に投売りして、価格を暴落させる可能性が取り沙汰されました。McCaleb とリップルは、XRP の売却を制限することでこうした事態を防ぐ以下の契約を練り上げました。この契約は、McCaleb が最初の条件に違反しているとリップルが非難したのを受け、2016 年に改定されました。

2014年の契約
  • 初年度:McCalebの売却限度額は、1週間あたり1万ドル
  • 2〜4年目:McCalebの売却限度額は、それぞれ1週間あたり2万ドル
  • 5〜6年目:McCalebの売却限度単位は、それぞれ年間7億5000万XRP
  • 7年目におけるMcCalebの売却限度単位は、年間10億XRP
  • 8年目以降におけるMcCalebの売却限度単位は、年間20億XRP

(出典:http://archive.is/cuEoz)

リップルが保有していた 800 億 XRP については、残高を売却または無償配布し、その資金を会社の運営や、国際的な送金ゲートウェイの元手に利用する計画でした。以下は Ripple wiki からの引用です。

XRP の価値は低下不可能である。リップルネットワークの構築時に、1,000 億 XRP トークンが作成され、創業者は Ripple Labs に 800 億 XRP を委譲した。Ripple Labs はリップル用ソフトウェアの開発、リップル決済システムの普及、XRP の無償配布や売却に当たる予定である。

2014 年 12 月~2015 年 7 月、同社はその Web サイトで XRP の自己保有高、流通高を開示し、(留保高を示すことで)会社運営に使用された量も間接的に示されました。売却分と無償配布分は区別されませんでした。以下は、2015 年 6 月 30 日付けの開示内容です。

(Source: Ripple.com)

2015年7月以降のある時点で、保有残高が確認できないように開示部分は修正されました。その後2017年後半から、リップル社は3つの数字「リップル社によって保有されているXRP」、「配布されたXRP」、および「エスクローに保管中のXRP」を開示し始めました。2018年1月31日時点において、保有残高は次のようになっています:

  • 70億XRPがリップル社によって保有されている
  • 390億XRPが配布された
  • 550億XRPがエスクローに保管中

当社は古いリップル社保有残高と新しいリップル社に保有されているXRPとの関連付けができておらず、それゆえ当社は、全期間においてどれほどの額をこの会社が自社の運営に使用したのか明らかにできていません。しかしながら、2015年7月までに古い方法により開示された合計12の情報、および同社の現在の主任暗号作成者 David Schwartz (リップルのテクノロジーの主な設計者の 1 人とみなされ、JoelKatz というネット名を持ち、10 億 XRPを保有しているとされる) のRipple Forumへの投稿を当社は分析し、XRP の流通量や使用量を計算した結果、以下のチャートが得られました。

2013 年~2015 年の XRP 保有高単位:10 億。(出典:BitMEX リサーチ、Ripple.com)

 

XRP の流通高 (パートナーへの売却高+ XRP の無償配布高) および会社運営目的での XRP 使用高単位:10 億。バッテンは、情報が存在した時点を表す。会社運営に使用された量が 2015 年末に向かい減少している理由は不明。 (Sources:Ripple.com,https://forum.ripple.com/viewtopic.php?f=1&t=3645, https://forum.ripple.com/viewtopic.php?f=1&t=3590)

 

XRP 流通高単位:10 億。(出典:Ripple.com https://forum.ripple.com/viewtopic.php? f=1&t=3645, https://forum.ripple.com/viewtopic.php?f=1&t=3590, Coinmarketcap/new Ripple disclosure)

データによると、リップルは 2013 年 1 月から 2015 年 7 月にかけて、125 億 XRP を売却または配布しています。売却数、売却価格、無償配布高は特定できませんでした。会社は、2014 年 3 月 から 2015 年 7 月にかけて会社運営資金として 40 億 XRP を使用しましたが、詳しい使途やこの期間以外に会社が支出した XRP の枚数は分かっていません。この点に関する開示は不十分であると当社は考えます。

会社創業者同士の論争

上述したとおり、McCaleb の退社は円満とは言えなかったようです。2014 年5 月、リップルの初期の投資家 Jesse Powell は次のように状況を説明しています。

Jed (McCaleb の愛称) の退社以来、会社の経営陣は方向性を変えた。残念なことに、Jed と私が初期においてこのプロジェクトに抱いていたビジョンは失われてしまった。私はもはや、経営陣にも、会社の回復能力にも、信頼を寄せることができない。20% という創業者への XRP の割当て率は、常識を逸しており、つい最近まで、返却されることを願っていた。Jed がリップルを去る前、私は分配された XRP を会社に返却するよう創業者に求めた。Jed は同意したが、Chris [Larsen] は拒否し、事態は行き詰ってしまった。今日の午後、私は 2 人に割当の件を再び持ちかけてみたが、またもや、Jed からは前向きな返事を得たが、Chris は反発した。

リップルは Powell への反論の中で、リップルの取締役会メンバーの義務にそむいて、Powell が虚偽で中傷的な情報を流布していると主張しました。以下は会社書簡からの引用です。

実際、Chris には、貴殿と Jed との過去の話し合いの中で述べたように、創業者としての XRP の割当の大部分を返却する意思が常にある。

Powell は、Larsen が自分の XRP の一部のみを、返却でなく、貸付として会社に引き渡すつもりであると反論、会社宛ての書簡の最後で、創業者に 200 億 XRP が付与された状況とリップルの創設についての自分の見解を説明しています。

Jed と私は、2011 年 9 月にリップルに入社した。Chris は、2012 年 8 月頃に入社したはずだ。Chris の入社前、会社には 2 人の投資家がいた。Jed と Chris が自分たちにいつ XRP を割当てたか確信が持てないが、2 人は会社設立前の 2012 年 9 月だったと主張している。初期投資家の承認を得ず、他の株主と割当を共有せずに、XRP を取得する行為は、この 2 人による会社資産の横領であると私は考えている。OpenCoin の設立前に、自分たちに割当てたコインは、すべて放棄されたものであると私は考える。2012 年 9 月から 2012 年 12月にかけて、複数の台帳が初期化されており、OpenCoin が構築した新しいバージョンのリップルが明らかに会社の資金で出現した。Jed と Chris が Betacoin を維持するために古いソフトウェアを実行し続けていたなら、問題はない。残念なことに、2012 年 12月、Jed と Chris は再び自分たちに XRP を割当てた。その XRP が、Jed と Chris によって会社に贈与されたものでないことは間違いない。会社の誕生前に存在しておらず、会社のリソースを使って作成されたものだ。その XRP はずっと会社に帰属するものであり、会社から Jed と Chris によって奪われた。盗んだものを返すことを、私は 2 人に求めている。

Powell は Ripple Forum で、状況について発言を続けました。

取締役会と投資家は長年この件について知っている。私はこの件を知って以来、XRP を返却するよう、2 人に求め続けている。Jed は常にその用意があるが、Chris は違う。Jed が 保有し続けているのは、Chris に持分の返却をより強く求めるために万一必要になった場合、Jed の持分を活用するためだ。この件は、一般的に議論するトピックではなく、リップルのイメージと普及にこの件がもたらすダメージを Chris が認識できれば、自然に解決する問題だと私は考えていた。私の目標が正当な分け前を得ることであったなら、この件について、より先見的に行動していただろうが、いつか会社に全部返却されると想定するだけだった。現金報酬や株式の代わりに、小規模の XRP の支払いを受けることには同意できただろうが、そうでなければ、我々は皆、他のすべての人のように、市場価格で XRP を購入するべきであったはずだ。

リップルは、マーケティング担当バイスプレジデントの Monica  Long を通じて、次の公約を発表し、Powell から公開の場で受ける圧力に対抗しました。

さらに、共同創業者兼 CEO の Chris Larsen は、恵まれない人々や金銭的に困窮している人々の寄付として 70 億 XRP を分配するために、基金の創設を承認しました。このプランは、過去、構想段階にあったが、当初創業者全員の正式な合意により、進展し、最終化されたものです。Chrisは、この決断が、当社の幅広いビジョンを追求するうえでの障害を取り除く、適切かつ最善の方法であると考えています。基金の詳細、その独立的取締役、および贈与の詳細は、追って公表されます。

上記の返答により、リップルコミュニティ内で蓄積しつつあったリップルと Larsen への圧力は沈静化しました。こうして創設された基金がRipple Worksです。当社が2015 年 4 月および2016 年 4 月末終了の会計年度における同基金の米国納税申告書を点検したところ、以下の寄付が XRP で行われています。

公約後 2 年経過した 2016 年 4 月時点で、Larsen は約束した合計 70 億 XRP のうち少なくとも 12 億 XRP を基金に拠出したようです。2017 年 4 月に終了する会計年度の申告書はまだ公表されていない可能性があり、入手できていません。

論争、および Bitstamp のリップル凍結事件

2015 年、リップルが、2014 年 8 月に開始したリップル凍結機能を活用する事件が起こりました。Bitstamp ゲートウェイが Jed McCaleb の親族に帰属する資金を凍結したのです。この事態を皮肉と捉える者もいました。リップルは当初、凍結機能の導入理由を、ゲートウェイが司法命令に従えるようにするためだと説明していました。ところが現実には、最初の使用例は、創業者の 1 人に対するリップル自身の指示に従うためのものでした。

経緯を説明すると、McCaleb の親族の 1人が 9,600 万 XRP (恐らく他の親族へ贈与された 20 億 XRP の一部であり、ロックアップ契約の対象にはならない) をリップルに約 100 万ドルの対価で売り戻しました。リップルは米ドルと引き換えに XRP を取得すると、リップル凍結機能を使って、トークンの購入に使用したばかりの 100 万ドルを没収するよう、Bitstamp に依頼したようです。2015 年、Bitstamp は、リップルと McCaleb の双方を相手取って訴訟を起こし、最善の措置の判断を裁判に委ねました。

以下は、裁判文書に記載される容疑/発見事項です。

  •  McCaleb は 55 億 XRP を所有していた。
  •  McCaleb の 2 人の子供は 20 億 XRP を保有していた。
  •  さらに 15 億 XRP が、慈善団体と他の親族によって保有されていた。
  •  2015 年 3 月、McCaleb の親戚である Jacob Stephenson が 9,600 万 XRP の売却をリップルに持ちかけた。
  •  リップルは、約 100 万ドルの対価で、9,600 万 XRP を Stephenson から購入することに同意した。取引は、「市場を操作」し、「XRP 当たりの取引価格を不当に水増しして、他の購入者を誤解させる」ような複雑な形で行われた。この取引の一環として、リップルは原価を超過する対価を支払い、超過額の 7 万 5,000 ドルをリップルに返却するよう Stephenson に求めた。
  •  Bitstamp の最高法務責任者は、リップルの顧問でもあるため、利益相反が存在した。

McCaleb と Ripple との論争は、2016 年の最終決議まで継続しました。その中でリップルは、McCaleb が 2014 年の XRP ロックアップ契約に違反したことを挙げ、最終的な和解に達したとして、次の声明を出しました。

Jed はリップルがまだ OpenCoin であった 2013 年に会社を離れた。それ以来、リップルの戦略にも運営にも一切関与していない。ただし、相当の割合の XRP と会社株式を保有していた。2014 年 8 月、我々はロックアップ契約の条件に合意し、Jed が XRP を売却できる日程と上限高を決めた。契約の目的は、リップルのエコシステムにとって建設的な方法で、Jed の保有する XRP が分配されるように取り計らうことにあった。2015 年 4 月以降、Jed は 2014 年の契約違反の疑いに関連して継続訴訟の当事者となっていた。

McCaleb は上記の声明に対して、自分の視点からの説明で返答し、最終的な合意に自分も納得しているとしました。

今週は、長期的な問題の終結も迎えた。ステラと私は、リップルとの間で進行していた論争で、ようやくリップルとの和解に至った。和解では、リップルの主張が完全に根拠がないことが証明された。リップルは、ステラと私が法的和解に同意する代わりに譲歩した。

最終合意では、McCaleb の親族の 100 万ドルの凍結は解除され、リップルは裁判費用全額の支払いに合意し、20 億 XRP が慈善団体への寄付に開放されました。McCaleb は、残りの XRP (50 億超と推定)を、以下の表の条件と一致する形で売却可能となりました。

2014年の契約 2016年の改定契約
  • McCaleb の売却は、初年度中、1 週間当たり1 万ドルに制限される。
  • 24 年目における McCaleb の売却限度額は、それぞれ、1 週間あたり 2 万ドルとする。
  • 56 年目における McCaleb の売却限度単位は、それぞれ、年間 7 5,000 XRP とする。
  • 7 年目における McCaleb の売却限度単位は、年間 10 XRP とする。
  • 8 年目以降における McCaleb の売却限度単位は、年間 20 XRP とする。
  • McCaleb は、20 XRP を慈善団体に寄付すること。
  • McCaleb は、53 XRP の所有権を留保する必要があるが、リップルが資金を管理する。
  • McCaleb と慈善団体は、 1 日平均取引高に対して以下の割合で、共同で売却できる。
    • 初年度:0.5%
    • 23 年目:0.75%
    • 4年目:1.0%
    • 5年目以降:1.5%

 

 

   (出典:http://archive.is/cuEoz)

リップルのコンセンサス (合意形成) プロセス

コンセンサスシステム

リップルのテクノロジーは、複数の反復を経由しているように見受けられますが、リップルのマーケティングの中核部分は、コンセンサス (合意形成) プロセスにあります。2014 年、リップルは以下の画像を使って、コンセンサスシステムを説明しました。図によると、サーバーが提案を行い、ノードは特定の定足数条件を満たす場合のみこの提案を受け入れるプロセスを反復しているように見うけられます。サーバーの 80% という閾値は重要レベルとみなされ、この閾値を越えると、ノードは提案を最終とみなします。図では、プロセスの一部がやや複雑となっています。BitMEX リサーチチームは、システムの詳細な内部機能がどうなっているか、コンセンサスシステムに必要な収斂的特質をどのように備えているかという点を理解できませんでした。

(Source: Ripple wiki)

2018 年 1月、BitMEX リサーチチームはこのレポートのためにリップルシステムのコピーをインストールし、実行しました。ノードは、サーバー (v1.ripple.com) から 5 つの公開鍵のリストをダウンロードすることで動作します (以下のスクリーンショットを参照)。  5 つの鍵はすべて Ripple.com に割当てられます。ソフトウェアでは、提案が受諾されるためには、5 つのうち 4 つの鍵が提案をサポートする必要があることが示されます。  鍵はすべて Ripple.com サーバーからダウンロードされていることから、リップルは台帳を進めるうえで完全な支配権を実質的に所有します。そのため、システムは中央集権的であると言うことができるでしょう。実際、当社のノードでは、2018 年 2 月 1 日に鍵の期限が切れることが示されています (スクリーンショットのほんの数日後)。つまり、ソフトウェアは、Ripple.com のサーバーに再びアクセスして、新しい鍵のセットをダウンロードする必要があります。

動作中のリップルのスクリーンショット。(出典:BitMEX リサーチ)

言うまでも無く、中央集権的システムに問題はありません。電子システムの圧倒的多数はそうなっています。   中央に権限を集約すると、システムは構築しやすくなり、効率性、速度、実行コスト、他のシステムとの統合しやすさの面で優れています。ただし、以下の画像のように、一部のリップルのマーケティング資料では、リップルシステムは分散されていると主張しており、誤解を招く可能性があります。

(出典:Ripple.com)

誤解を招く可能性のあるマーケティング資料に加え、定足数プロセスが関与する構造や 80% という閾値は、必要でない場合があり、難解さを高めるだけにすぎないと思われます。一方、リップルの擁護者は、5 つの公開鍵リストがカスタマイズ可能である点、すなわち設定ファイルを手動で編集し、好きなキーを入力できる点を長所に挙げることができます。  実際、リップルの Web サイトには、こうしたバリデータのリストが掲載されています。とはいえ、リップルのユーザーの多数がこの設定ファイルを手動で変更するという証拠はありません。

ユーザーが設定ファイルを修正したと仮定した場合でも、大して有益ではない可能性があります。こうした状況で、システムが単一の台帳に収斂すると想定する理由は特にありません。例えば、当社ユーザーは 5 つのバリデータを接続し、別のユーザーは別の 5 つのバリデータを接続できます。この場合、各ノードは 80% の閾値に達しますが、2 つの相反する台帳に対してです。サーバーグループからの 80% という定足数閾値には、当社が認識している限り、収斂性またはコンセンサスという特質はありません。従って、このコンセンサスプロセスは不要な可能性があると当社は考えます。

台帳のバリデーション

コンセンサスプロセスは中央集権的ですが、ユーザーノードはなお参加者全員からのトランザクションデータを検証できるという主張することもできます。この主張には納得のいく面もありますが、台帳を先に進める行為が中央集権的なプロセスであるならば、リップルのサーバーはユーザーのローカルノードが拒絶する無効な提案を受諾し、ユーザーのノードは前進できなくなります。したがって、この検証にはほとんど価値がなく、リップルが台帳を実質的に支配していると主張することができます。

リップルでは明らかに、台帳の最初から32,000~ 33,000 のブロックが不足しており、ノードはこのデータを取得できません。 つまり、チェーン全体、およびリップルが当初ローンチした、1,000 億 XRP の完全なパスを監査できないことになります。「初期に台帳がリセットされた可能性」を示唆する Powell の発言を受け、一部この点を懸念する声が上がっています。David Schwartz は不足しているブロックの重要性について次のように説明しています:

これは平均的なリップルユーザーには何も問題ありません。2013年1月、リップルサーバーのバグが原因で台帳のヘッダ部分が失われました。リップルサーバーで稼働する全てのデータが集められましたが、それらは台帳を構築するのには不十分でした。実際のトランザクションは、どのトランザクションがどの台帳に入ったかわからない情報や、その他のトランザクションと混ざっています。台帳のヘッダ部分がないと、台帳を再構築するのは容易ではありません。台帳番号N-1のハッシュが台帳番号Nを作成するのに必要で、そのことが物事を複雑にしているのです。

 

 

結論

このレポートの大半では、横領容疑を含めた XRP の支配権を巡る論争に焦点が当てられています。恐らく、こうした論争は、エコシステムの価値が急速かつ予想外に拡大したことを考慮すれば、それほど特異とはいえません。実際、この論争ストーリーは、このブログの冒頭で触れたハイテク大手企業の一部のエピソードと大差ないかもしれません。

論争より重要なのは、リップルのシステムが、あらゆる実務的な点で、完全に中央集権化しているように思われ、そのためユニークな技術的特徴を失っているという事実です。ただ、この事実によりリップルまたは XRP が失敗する運命にあるということにはなりません。リップルは多額の財務資本を有し、マーケティングや事業パートナーの形成において有能である点も証明済みです。こうした点から、企業や消費者による XRP トークンの普及に成功する可能性があり、その場合、ビットコインの批判家がよく指摘する点は、リップルの場合の方がより関連性が高いと言えるでしょう。主な指摘点を以下に挙げます。

  •  インフレの欠如が経済政策として未熟である。
  •  トークン価格は過度に変動的で、投機的である。
  •  人気が加熱した場合、規制当局がシステムを閉鎖する可能性有り。
  •  おそらく最も重要なことには、USドルを使えばいいのではないか。銀行が既存通貨をベースに、競争力のあるデジタルシステムを構築するだろう (まだ構築されていなければ)。

リップルを巡る最大の疑問は、システムの市場価値が巨大であるのに、ビットコイン批判家が沈黙している点です。  この疑問の答えは、ビットコインの批判家と同様に擁護者の一部にも当てはまるかもしれません。すなわち、大半の人は、技術的基盤でなく、文化や関与している人々の特徴で物事を判断する傾向があるということです。

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