Tether

この記事は、2018年2月18日にBitMEXリサーチによりアップロードされた記事の日本語訳です。

 

抜粋:テザー(Tether)は、ビットコインとイーサリアムのブロックチェーンを基盤とする仮想通貨で、その価値は、中央管理される米ドル準備金によって米ドルと連動します。テザーを巡る懐疑論があり、システムの裏付けとなる準備金が不十分と非難されています。こうしたテザー懐疑論の大半は論点の焦点がずれているとBitMEXは考えています。当社は、プエルトリコの銀行制度へのテザーの影響を明示する証拠となりそうなものを公表財務データで発見しており、規制関連の問題に直面する可能性(あるいは既に直面?)が、テザーの保有者にとって長期的に大きな懸念材料になると考えています。

テザーについて

テザーは、米ドルなどのFiat(法定)通貨をビットコイン(およびイーサリアム)のブロックチェーンで使用できるスキームです。以下は、テザーの ホワイトペーパー でのテザーについての説明の抜粋です。

デジタル通貨を法定通貨で裏付けることで、個人や機関投資家は、堅牢な分散管理型方式のメリットを得つつ、馴染みのある会計単位を使用することができます。ブロックチェーンの革新性は、監査可能で、暗号によって保護される世界的レジャー(台帳)にあります。資産担保通貨の発行企業をはじめとする市場参加者は、ブロックチェーン技術および組み込まれたコンセンサス(合意形成)システムを活用して、馴染みのある、比較的変動の小さい通貨や資産で取引できます。説明責任を維持し、交換価格を安定させるために、我々は、仮想通貨「テザー」と関連のある実在資産「法定通貨」との間の準備比率を 1:1 に保つ方式を提案しています。この方式では、ビットコインのブロックチェーン、準備金証明、その他の監査方法を用い

て、懸案通貨が完全に担保され、準備金が常備されていると証明します。

つまり、テザー通貨は、 ビットコイン と イーサリアム のブロックチェーンに存在しており、その割合はそれぞれ、約 97%、3% となっています。ビットコインでは、テザー通貨は 実在通貨 同様に存在し、 Omni Layer を使用しています。Omni Layer のプロトコルでは、ビットコインの余剰取引データ(テザーの作成や移転など)から追加的意味を解釈します。

テザーは主に金融投機に使用されている模様で、多くの取引所で、ビットコインなどの仮想通貨を相手資産とするテザーの売買を認めています。テザーの現在の発行高は約 22 億(22 億米ドルに相当)となっています。以下のチャートで示されるように、テザー保有者の約 85% は身元が特定されており、仮想通貨取引所の最大手クラスが上位保有者に名を連ねています。こうした大口保有者がテザーを直接米ドルに換金できる何らかの仕組みがある可能性が高く、そうした仕組みについてこのレポートで後ほど推察します。

20182月時点のテザー所有者、単位:百万米ドル。(出典:Tether rich list Tether transparency report)

テザーのハッキング

テザーの金庫ウォレットは 2017 年 11 月に ハッキングされた疑いがあります。盗難額は 3,100 万米ドルで、外部ビットコインアドレスに送金され、そこで 凍結状態のままになっています。11 月 21 日、テザーは OmniCore の フォーク済みクライアント をリリースしました。この Omni Layer の実質的なハードフォークにより、盗難資金は凍結されました。テザー社は現物の米ドルでテザー通貨を担保していますが、その選択した側のフォークのトークンのみを担保するのは明らかであるため、テザーの利用者はアップグレードせざるを得ませんでした。以下はテザー社の主張です。

すべてのテザーのインテグレーターに、このソフトウェアを即刻インストールすることを強くお願いします。

ハッキング事件を受け、テザー社がハードフォークを独断で強行し、トランザクションを振り戻すことができたことから、レジャーが実質的にテザーの完全支配下にあることが実証されました(ただ、それ以前のテザー社の支配について何ら疑うべき点はなかったかもしれませんが)。これにより、テザー社がビットコインやイーサリアムのブロックチェーンにデータベースをわざわざ構える理由が問われ始めました。採掘業者に手数料を支払わずに、自前の公開データベースを作成した方が、テザー社にとってはるかにコスト安です。テザー社は資金を凍結し、その状態を保つことはできたものの、そのプロセスは、新しいソフトウェアプログラムを記述、リリースし、すべてのテザー取引所にアップデートを求める必要があり、高度な技術と多くの時間を必要とします。

テザーの支配者とは?

テザー社の「About us」ページが 2017年 12 月 5 日 ~2017 年 12 月 7 日の間だけ表示され、テザー社の経営陣は Bitfinex 取引所と同じであると判明しました(以下に図説)。これは、テザー社が米商品先物取引委員会から召喚状を受領したとされる時期(2017 年 12 月 6 日)とほぼ同じです。それ以前に、テザー社は経営陣を少なくとも Web サイトでは開示していませんでしたが、テザー社の背後には Bitfinex がいると広く考えられていました。開示のタイミングから見て、召喚状がきっかけで透明性を高めた可能性が浮上します。

Bitfinex 幹部チーム テザー社経営陣
JL van der Velde (CEO) JL van der Velde (CEO)
Giancarlo Devasini (CFO) Giancarlo Devasini (CFO)
Philip Potter (CSO) Philip Potter (CSO)
Stuart Hoegner (ゼネラルカウンセル) Stuart Hoegner (ゼネラルカウンセル)
Matthew Tremblay (最高コンプライアンス責任者) Matthew Tremblay (最高コンプライアンス責任者)
Paolo Ardoino (CTO)
Chris Ellis (コミュニティマネージャー)

テザー社と Bitfinex の経営陣はほぼ同じ。(出典:Tether Bitfinex)

2017 年 11 月発行の「The Paradise Papers」によると、Bitfinex の CFO と CSO は、それぞれテザー社の所有者および取締役です。テザー社と Bitfinex のつながりについては、テザー社の Web サイトでの完全開示前にも若干、疑われていました。

テザー社経営陣と所有者。(出典:Paradise Papers)

Bitfinex はテザー社を支配していないと、テザー社が過去に示唆したことがあると考える人もいます。たとえば、テザー社の創業者兼顧問、Craig Sellars 氏は、Bitfinex の元 CTO でもあるのですが、2017 年の春にReddit について 以下のように述べています。

Bitfinex はテザー社の 顧客 です。Bitfinex がもっと米ドルを必要とするなら、他のテザー社の顧客と同じように、テザー社にリクエストします。テザー社は米ドルが出回るのを待ち、出てきたら、必要なテザーを作成して、Bitfinex に提供します。

この発言は、多様な解釈が可能ですが、Bitfinex はテザー社を支配していないと明示するものでないのは確かです。上記の発言の 1 か月前のこちらの 発言の中で、Sellars 氏は、自分と Bitfinex CSO の Phil Potter 氏がテザー社の改善方法を話し合っていたことを明言しています。Sellars 氏は、テザー社と Bitfinex への同時関与についても、公表しており、LinkedIn プロフィールに以下を明示しています。

  • 2014 年 4 月から現在まで:テザー社創業者兼顧問
  • 2015 年 1 月~2016 年 5 月:Bitfinex CTO
  • 2014 年 4 月~2016 年 5 月:テザー社創業者兼 CTO

一部の人が主張するように、テザー社が Bitfinex への関与について大衆を欺いたという証拠があると、当社は考えていません。

テザーの監査

テザー社ホームページ には以下の記述があります。

当社の準備金保有高は毎日公表され、専門家による度重なる監査の対象となります。

会計事務所 Friedman LLP (FLLP) は、2017 年 9 月に報告書を公表し、テザー社が保有することになっていた米ドル残高を確認しました。報告書には、2017 年 9 月 15 日時点で、テザー社名義の銀行口座残高が 382,064,782 ドルであったと記載されています。

ただし、報告書には銀行名の開示がなく、銀行の営業国にも触れていません。さらに、報告書には、以下の記載もあります。

FLLP は、上記銀行口座の条件を評価しておらず、当該クライアントが口座から資金にアクセスできるか、または資金がテザートークンの換金以外の目的に確保されているかどうかについて表明しません。

2018 年 1 月、テザー社は FLLP との関係を終了し、以下の説明メールを出しています。

当社は、Friedman との関係を解消したことを認めます。  比較的単純なテザー社のバランスシートに対して、Friedman がとったきわめて周到な手順を考慮すると、監査を適当な期限内に完了できないことは明確です。テザー社は、こうしたプロセスを経験し、一定レベルの透明性を追求する業界初の企業であるため、プロセスの指針となる前例も、成否を測る指標も存在しません。

上記の声明から、透明性の欠如と監査プロセスの不備、あるいは少なくともテザー社 Web サイトの約束との不整合がうかがえます。これが仮想通貨界の憶測の原因となった可能性があります。例として、テザーは 投資詐欺であるという 主張 が挙げられます。

透明性の欠如=不正とは限らず

テザー社は利用者が米ドルを送金・受領できるようにしています。トランザクションは簡単に阻止できず、利用者は許可を必要としません。ただし、トランザクションを阻止するためにテザー社がすべての利用者に新規クライアントへのアップグレードを求める場合を例外とします。3,100 万ドルのハッキング事件後に生じたこのプロセスは手間がかかります。

テザー社は、トランザクションの作成や受領時に、利用者にある程度の匿名性を認める可能性もあります。その特徴は、ビットコイン同様、犯罪者を魅了する恐れがあります。取引所など、テザーの発行・換金能力を持つ者は、承認と身元確認プロセスを通過する必要がありますが、個人ユーザーは公開/秘密鍵ペアの作成のみでテザーを使用でき、この点もビットコインと共通しています。

規制当局は、こうした点を好ましく思っていない可能性があり、銀行は懐疑心を持ってテザーを捉える可能性があります。テザーの担保に必要な米ドル準備金を保有するため、テザー社も銀行を利用する必要があります。多くの銀行は、テザー社に対して慎重な態度を取る可能性があり、テザー社を顧客として受け入れることは、マネーロンダリング防止用規則など銀行のコンプライアンス手続きに違反する可能性があります。

つまり、テザー社は問題に直面する可能性があります。テザー社が準備銀行からテザーを操作する方法を隠そうとするか、コンプライアンス手続きが大半の大手金融機関のものほど厳格でない銀行をテザー社は見つける必要があるかもしれません。テザー社は、銀行との適切な関係を模索した可能性があり、しかるべきパートナーを見つける過程で、多数の法域の多数の銀行に口座を開設した可能性があります。米ドルの準備金不足というより、透明性の明らかな欠如が主な理由である可能性が高いと当社は考えています。基礎となる活動が規制当局の明確な認可を受けていないか、規制下にない場合、テザー社の株主の一部が期待する透明性を実現するのは金融部門では不可能かもしれません

Bitfinex 取引所は、先頃の仮想通貨バブル相場で 1 日あたり 100 万ドルの余剰収益を上げていた可能性があります(1日あたり取引高 100,000 BTC、手数料率 0.1%、価格 10,000 BTC と想定)。テザー社が問題を抱えていたとしても Bitfinex はシステムを救済する十分なリソースを所有している可能性があります。こうした資金力により、テザー懐疑派が主張する類の不正行為や投資詐欺を実行する誘引の一部は排除されることにもなります。

プエルトリコからの財務データ


 では、テザーがプエルトリコ(未編入の米国領)と何らかのつながりがあると取り沙汰されています。当社は、 公開財務データ を分析して、異常な活動や大幅な成長の印を探すことにしました。

International Financial Entities (IFE) 銀行部門で現金残高(および預かり金残高)が大幅に増えているのが目につきました。現金準備高のこうした急増はテザーに関連している可能性があります。また、仮想通貨エコシステムのテザー以外の領域に関連している可能性もあります。例えば、プエルトリコを 仮想通貨のユートピアとする計画があります。

以下のチャートでは、発行済みテザーの値とプエルトリコ IFE 銀行部門の預かり金残高を比較しています。相関性はまったく見当たらず、データから有力な結論は導き出せません。今後、この地域の規制当局のデータがどのように推移するかが注目されます。

プエルトリコの IFE 合計預かり金残高とテザー残高の比較、単位:百万米ドル。(出典:IFE AccountsBitMEX リサーチ、Coinmarketcap)

合計現金残高は、それ自体急増しているだけでなく、以下で図示するとおり、総資産に占める割合も増加しています。

 プエルトリコの IFE 合計現金残高が総資産に占める割合。(出典:IFE AccountsBitMEX リサーチ)

このバランスシートは、一般的ではありません。通常、銀行は資産の大半を貸し付け、現金は少額のみ保有します。以下の表では、銀行バランスシートの簡略化した一般構造を示しています。

通常の銀行および準備金 100% の銀行のバランスシートの雛形。(出典:BitMEX リサーチ)

完全準備銀行のバランスシートは通常と異なり、財務アナリストであればマクロ経済データを見ても区別できるはずです。2017 年 9 月末時点で、プエルトリコの金融機関の同部門では総資産に占める現金比率が 70% 超まで上昇しました。この事実から、プエルトリコに完全準備銀行があり、その数は増えていることが読み取れます。

完全準備銀行

完全準備銀行(別名「準備金 100% 銀行」)とは、預かり金を貸し付けず、カストディ銀行または中央銀行に現金を現物でまたは預金として電子的に預かり資金の全額を維持する銀行を指します。完全準備銀行は、近代財務学における非主流概念で、オーストリア学派やリバタリアニズム(あるいはビットコイン型哲学)とよく関連付けられます。完全準備銀行制度では、金融システムが信用拡大の影響を受けにくくなると言われていますが、ビットコインも同様の効果を達成できると提唱されています。その主なメリットは、経済においてビジネスサイクルが発生しにくくなる可能性が指摘されています(このトピックについては、過去の ブログで説明しています)。

Noble Bank

プエルトリコの IFE 部門に属する全金融機関を考察したところ、完全準備銀行であると主張する銀行を 2 行特定しました。Euro Pacific International Bank および Noble Bank Internationalです。完全準備銀行は稀であるため、他にも存在する可能性は否定できないものの、その可能性はきわめて小さいと考えられます。

プエルトリコの登録 IFE リストから抜粋。Noble Bank BitMEX によって赤で囲まれています。(出典:Commissioner of Financial Insitutions of Puerto Rico)

Euro Pacific Bank の経営者はオーストリア人著名経済評論家のピーター・シフ氏です。同氏はビットコインに対して懐疑的立場をとっているため、シフ氏がテザー社のようなビットコイン関連企業に関与する可能性は低いと考えられます。

一方、Noble Bank は仮想通貨と関連があり、テザー社とかかわっている可能性があります。仮想通貨への Noble の関与の証拠としては、次の抜粋文書が挙げられます。2015 年に同行が送付した 規制当局宛ての書簡の以下の部分です。

Noble は、現物通貨、ビットコインおよびその他のデジタル通過の取引、清算、および決済業務の総合金融市場ネットワークを運営する予定です

Noble はまた、2015 年にナスダックとビットコイン関連の事業 提携 を結んでいます。プエルトリコにおける金融サービス業界のこの部門の急成長は、テザーの関与の有無を問わず、Noble Bank と仮想通貨に関連すると当社は推察します。

Noble Bank のジョン・ベッツ創業者兼 CEO は、2014 年に Sunlot Holdings がマウントゴックスのテイクオーバーと救済に 乗り出した 際にも、陰で糸を引いていました。Sunlot の 背後 には、テザー社 創業者 の 1 人であるブロック・ピアス氏がいました。

言うまでも無く、Noble Bank CEO とテザー社創業者の 1 人が過去に仕事上のつながりがあったことが、何らかの証明になるわけではありませんし、ブロックチェーンのエコシステムは狭い世界であるため、こうしたつながりはあり得ることです。Noble Bank がテザーの主要準備銀行であったとしても、Noble Bank が不適切な行為や違法行為に手を染めているという証拠にはならないことを強調しておきます。

インターネットサイト Medium への投稿記事で、Noble は「顧客に自前の信用プールを作成」可能にする方法を示し、このシステムの構造を以下の図で説明しています。

(出典:Medium)

上記モデルは、テザーの基本構造である可能性があり、テザーが米ドルで担保される仕組みとなり得ます。このモデルによると、テザーを担保する米ドルはプエルトリコの銀行制度に組み込まれていることが読み取れます。準備金は Noble のカストディ銀行であり、世界最大のカストディ銀行でもあるバンク・オブ・ニューヨーク・メロン銀行が保持しています。  真実であれば、テザーは投資詐欺ではないことになります。米ドルの準備金が存在し、当局に報告されており、準備金は比較的安全であると考えられるためです。ただ、このレポートで後述するように、長期的なテザー保有者を完全に安心させる要因ではありません。

事例研究

上述したとおり、テザーには次の特徴があります。

  • テザーの送金や受信に許可は不要。
  • トランザクションは容易に阻止できない。
  • テザー利用者はある程度匿名性を保つことができる。

こうした特徴により、テザーのシステムは、犯罪者やマネーロンダリング実行者にとって魅力的となる可能性があります。犯罪活動が蔓延するようになれば、当局はシステムの閉鎖を望むかもしれません。こうした事態は、以下の事例研究が示すとおり、過去、頻発しています。こうした事例研究の歴史について、このレポートで詳しく後述します。

リバティ・リザーブ (2006-2013)

リバティ・リザーブはコスタリカを拠点とする中央集中管理型のデジタル通貨サービスであり、インターネットから米ドル建て決済資金の送金と受領が可能でした。決済はメールアドレスを使って実行され、システム使用者の身元を特定する手順はありませんでした。2013 年、コスタリカ当局は、リバティ・リザーブを 閉鎖しました。  起訴の対象となっている 60 億米ドルの犯罪収益の浄化手段となっていることが理由に挙げられました。リバティ・リザーブの創業者は逮捕され、禁固刑を宣告されました。以下は、BBC による リバティ・リザーブの説明 です。

クレジットカード、郵便為替などの送金サービスを使って、リバティ・リザーブに現金を注入することが可能でした。注入後に、ユーロか米ドルに連動する同社固有通貨に「転換」されると、別の口座保有者に振り込み、その口座の保有者が資金を引き出せるようになります。

GoldAge (1999-2006)

リバティ・リバースの創業前、同じ創業者は GoldAge という金ベースの決済プラットフォームを運営していましたが、これも当局によって閉鎖されています。米司法省は、以下のとおりGoldAge を表現しています。

2002 年の営業開始以来、被告は、少なくとも 3,000 万ドルを世界中のデジタル通貨口座に転送した。デジタル通貨取引所、GoldAge がマネーロンダリングスキームの一環として、2006 年 1 月 1 日~2006 年 6 月 30 日の期間に受領・転送した額は 400 万ドルにのぼる。

e-Bullion (2001-2008)

e-Bullion は、中央集中管理型のインターネットベースの金決済システムでした。2008 年、同社の共同創業者が 殺害されました。その結果、米国政府は同社資産を没収し、システムは閉鎖されました。

DigiCash (1994-1998)

中央集中型の連動決済プラットフォームの中でも DigiCash ほど興味深いものはそうありません。デイビッド・ショーン氏が創立した、DigiCash は、システムに組み込まれた ブラインド署名を基盤とする強力な匿名性技術を有していました。プラットフォームは、モネロのような最新分散型無記名トークンと似ています。

DigiCash は、中央集中管理型でしたが、すべての情報が匿名であったため、処理者はトランザクションに関して詳しい情報が得られませんでした。そのため、トランザクション自体、ある意味、完全に検閲に耐えられる仕組みとなっていました。ところが、同社はやがて破綻し、1998年に破産を申請します。

検閲耐性には 2 つの側面があります。1 つめは、トランザクション自体を阻止できない側面。2 つめは、システム全体を容易に閉鎖できない側面です。1 つめの側面は、リング署名などの匿名ベースの技術を通じて、比較的簡単に達成されますが、2 つめの側面を実現するのはそれほど容易ではありません。

米国司法省は、インターネットベースの決済システムの閉鎖に関して、以下を含む 他の事例を公表 しています。

E-gold (1996-2007)

2007 年 4 月、ワシントン D.C.の連邦大陪審は、デジタル通貨事業の運営企業 2 社とその所有者を起訴しました。起訴されたのは、E-Gold Ltd., Gold、Silver Reserve, Inc.、およびそれぞれの所有者であり、訴因は、貨幣手段の洗浄の共謀、連邦法に基づく免許を取得せずに送金事業を運営したことによる無免許での送金事業運営の共謀、およびワシントン D.C. の法律に基づく免許なしでの送金でした。起訴状によると、代替決済システムの利用希望者に対して、E-Gold が必要としたのは、有効なメールアドレスの提供と、E-Gold 口座の開設のみで、他の連絡先情報は検証されませんでした。この起訴は、米シークレットサービスによる 2 年半の捜査の賜物であり、内国歳入庁(IRS)連邦捜査局(FBI)、州や地方のその他法執行機関などの捜査官の協力も得ました。ワシントン D.C. 担当のジェフリー A. テイラー連邦検事は次のように主張しています。「被告は高度かつ広範な海外送金事業を、世界中で何らの監督や規制も受けずに運営し、マウスをワンクリックするだけで匿名での資金移動を可能にしていた。当然、あらゆるタイプの犯罪者は、無法の資金移動場所として、 E-Gold に引き付けられていった。」

ShadowCrew

2006 年 6 月 29 日、アンドリュー [マントバニ] は、オンラインの議論フォーラム「Shadowcrew.com」を共同創設した罪で、連邦刑務所での 32 か月の禁固刑を宣告されました。このサイトには、4,000 名を超えるメンバーがおり、その多くは個人情報盗難や詐欺の専門家でした。Shadowcrew のメンバーは、物品や犯罪サービスの代金をデジタル通貨で送金・受領していました。起訴されたメンバーの 1 人、Omar Dhanani は、違法通貨取引所を運営し、違法活動で得た現金を匿名でデジタルゴールド(ビットコイン)に転換するマネーロンダリングサービスをメンバーに提供していました。Dhanani は、Shadowcrew メンバーがデジタルゴールドを使用することで従来の銀行システムを回避していたと証言しました。米シークレットサービスが 1 年かけて捜査した結果、2004 年 10 月に米国内で 21 人が逮捕されたほか、数人が海外で逮捕されました。

Western Express International Currency Exchange Company (2002-2005)

2006 年 2 月 22 日、Vadim Vassilenko、Yelena Barysheva、Alexey Baryshev は、2002 年~2005年にかけて違法な小切手の現金化および送金事業に従事した罪で、ニューヨーク州で起訴されました。3 人が在籍していた Western Express International は、犯罪収益とデジタル通貨との交換であることを知りながら、通貨取引所の役割を果たしていました。Western Express は Web サイトを通じて、米国での違法活動に東欧、ロシア、ウクライナの海外顧客を積極的に勧誘していました。顧客は架空の身元を多くの場合複数使いながら、リシッピング、フィッシング、スプーフィング、スパミングなど、多彩なサイバー犯罪を実行しました。盗難クレジットカード番号を使って購入されたアイテムはデジタルゴールドと交換で再売却され、Western Express を通じてさらに浄化されていきました。ニューヨーク州銀行規制に違反して、同社の銀行口座から流出した資金は、4 年間で総額 2,500万ドルに達しました。

結論

特定の特徴(検疫耐性型、匿名トランザクションなど)を持つ中央管理型システムが監督当局によって閉鎖される傾向にあるのは、歴史が物語っています。テザーはこうした閉鎖サービスといくつか共通する特徴を持つため、犯罪の温床となり、いずれ同じ運命を辿る可能性があります。

テザーには、次の 2 つの選択肢があると当社は考えます。

  1. 身元確認やマネーロンダリング防止手順を含むようにシステムを改善し、運営者がトランザクションを簡単に阻止したり資金を凍結したりできるようにする。テザーは、そのために技術アーキテクチャの抜本的変更が必要となる可能性があり、公開ブロックチェーンを去ることになるでしょう。実質的に、テザーは従来型(または完全準備)銀行に転換することになります。
  2. 現状のまま継続すると、いずれ、当局によって閉鎖されるリスクを負うことになります。

テザーが閉鎖された場合、一部のユーザーは一時的であれ、自己資金にアクセスできなくなる可能性があります。当社はテザーの長期保有をおすすめしませんが、その理由は、通常主張される疑念のためではありません。テザーの大半の用途が金融投機にあると考えられることから、テザーが犯罪に悪用される恐れは比較的低いと当社は考えます。また、テザーを使って資金を洗浄する犯罪者の証拠は見つかっていません。現状では、直ちに閉鎖される可能性は低いでしょう。

上記事例を読むと、2 つの角度(個別取引とシステム全体)から見た検閲への耐性、および分散型仮想通貨が長期的に存続するために達成が必要な要素が分かります。トランザクションを阻止不能、使用許可が不要、または匿名使用を許可する決済システムは、いずれ閉鎖されることになるでしょう。これはテザーやリップル のようなシステムに当てはまります。リバティ・リザーブ、E-gold、DigiCashがそうであったように。回避策として、閉鎖不能の分散型システムの構築を目指す(つまり、システム全体を検閲耐性型とする)ことが考えられます。  ビットコインなどのプルーフ・オブ・ワークベースのシステムが達成できるかどうかは、なお検証が待たれます。

免責事項:

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