次の世界金融危機を分析

原文:Anatomy Of The Next Global Financial Crisis – BitMEX Blog

抜粋:仮想通貨業界でおなじみの質問として「次の金融危機はいつ起こるのだろうか」というものがある。当社はこの質問に答える道筋として、まず2008年以降、金融リスクの震源地が銀行から資産運用業界にいかにシフトしたかという説明を試みる。シフトしたことで、リテール銀行預金と決済システムが脅かされた2008年が再現する可能性は低い。具体的には、金融システムの綻びが最も大きい領域は、実際より低目に抑制されているボラティリティとリターンを追い風とする社債投資ファンドと新型の債務投資ビークルであることを論証する。



(世界金融危機から10年経ち、当時の新聞は陽にさらされ黄色やピンクに変色している。いずれ、信用状況が再び逼迫する可能性はあるが、リスクの震源となるのは銀行部門でなく資産運用業界ではなかろうか?)

概要

ビットコインは導入時期も一因であろうが、2008年の世界金融危機に起因する金融の混乱と不信感の落とし子と言われている。したがって、ビットコイン投資家や仮想通貨業界からは次の質問がよく聞かれる。

「次の金融危機はいつ起こるのだろうか」

ご要望に応え、今回はこの問題の解決を試みることにする。

まず、質問自体を考えてみよう。この質問は主として次の3点を前提としているように当社には思われる。

  1. 今後数年内に世界は次の金融危機に見舞われる。金融危機は10年前後の間隔で必ず起こるものである。
  2. こうした危機はビットコイン価格に好影響を及ぼす。
  3. 次の世界金融危機は前回の危機と似通っており、銀行システムと電子決済システムの完全性に多くの疑問が投げかけられることになる。

上記3つの前提のうち当社が実際に賛同するのは最初の前提のみである。他の2つも正しい可能性はあるが、かなり不透明な部分がある。 

2番目の前提について、当社は2018年3月のブログで取り上げ、ビットコインは安全資産というよりリスクオン資産のように取引されていると指摘した。もちろんビットコイン価格は当時から大幅に下落し、この状況はこの先変動する可能性がある。実際に、ビットコインが次の危機(流動性が収縮時)に好反応を示せば、それはビットコインおよび価値の保存投資理論にとって大きな好材料となる。ただその強力な証拠はまだ存在しない。ビットコイン価格が他の代替的コインと乖離するシナリオには、リスクオン型投資理論(世界的なコンピューターまたは高処理能力決済ネットワーク等)が色濃く反映されており、こうした状況が起こる重要な根拠となりうるのではないかと当社は考える。 

3番目の前提には、本稿の主題となる次の世界金融危機の構造が関係する。

先進国市場の銀行のバランスシートは比較的健全

有名な格言曰く「歴史は繰り返さないが、韻を踏むことがよくある」。過去10年に銀行の経営陣と規制当局は2008年の暗雲の中で運営を続けてきた。その結果、銀行のバランスシートと自己資本率は大幅に強化されている。先進国市場の銀行の普通株式等ティア1(CET1)資本率は危機前の約5%から現在12%近辺まで向上している(グラフ1)。操作が難しく、より基本的な比率である対総資産自己資本比率もグラフのように同様の改善を示し、c5% からc9%に上昇している(グラフ2)。

グラフ1 – 米銀と英銀の累計CET1自己資本比率

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(出典:バンクオブイングランドの英国累計データ、連邦準備銀行の米国累計データより)

グラフ2 – 米銀累計対総資産有形普通株式株主資本比率(資産500億ドル以上の銀行)

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(出典:連邦準備銀行

次の単純なグラフの方が、恐らく、上記比率より明確で説得力があるだろう(グラフ3)。このグラフからは、西欧諸国の主要銀行が世界金融危機以降、まったくバランスシートを拡大させていないことが読み取れる。実際、考察対象となった主要9行の累計総資産は2008年の19.3兆ドルから2018年には15.6兆ドルへ大幅に減少している。この急減の背景にはM&A活動があると主張する向きもあろうが、当社の主張はなお有効である。

グラフ3 – 先進国市場の主要銀行の総資産(単位:1兆ドル)

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(出典:BitMEXリサーチ、銀行決算情報、ブルームバーグ)

(注:グラフには次の銀行の合計報告資産が反映されている:JPモルガン、バンクオブアメリカ、シティグループ、ウェルスファーゴ、HSBC、RBS、ドイツ銀行、クレディスイス、UBS)

当社は、財務レバレッジが金融リスクの主因の1つであると考える。金融システムに潜むリスクの震源は2008年以降シフトしており、2008年の危機は、銀行システムにおけるレバレッジ(借入)、およびこの要因と住宅ローン市場の証券化が絡み合いにより引き起こされた。現在、一見低く見えるボラティリティ環境によって促進される資産運用業界のレバレッジ(特に社債部門)が同等のリスクにさらされている。

資産運用業界でレバレッジ増大

資産運用業界は銀行業界よりずっと不透明であり、レバレッジの程度を判断するのもはるかに難しい。そのため、資産運用業界のレバレッジ規模もこのレバレッジに関連する金融危機のタイミングも結論を下すのは難しい。

国際決済銀行(BIS)が2015年に公表した報告書『Leverage on the buy side』では、銀行システムから資産運用業界へのリスクシフトに焦点を当てた。この報告書では、投資ファンドのレバレッジは株式では比較的安定しているが、債券分野のレバレッジは2008年以降、新興市場を中心に増加が著しいとし、以下のように結論付けている。

銀行システムにおけるレバレッジは2008年の世界金融危機の重要な要因であった。危機以降、バランスシートの健全化のため銀行のレバレッジ活動は急減したのを追い風とし、国際ファイナンス分野への投資顧問(「バイサイド」)の進出が急速に進んだ。投資ファンドのバランスシート情報は、規制の厳格な銀行の情報ほど入手しやすくない。そこで当社は市場データ業者が提供する情報を使用して、バイサイドのレバレッジがそれなりの規模に達していることを発見した。ただし、レバレッジの規模はファンドの種類に応じてかなり変化に富むようである。株式ファンドポートフォリオのレバレッジは最小限にとどまるのに対し、債券ファンドは借入金にかなり依存する傾向があるようだ。

(出典:BIS

BISがこの報告書で使用したのは投資ファンドフローの専門業者であるEPFRが提供したデータである。当社は報告書の結論に賛同するものの、データの信頼性については一抹の不安を感じ得ない。当社自身で国際データの優れた情報源はまだ見つかっていないが、特定規模の米国内の投資ファンドは利用したレバレッジの規模に関するデータをSECに提出する義務を負う。SECは2013年第2四半期以降、このデータをまとめており、その主な傾向をまとめたものが以下のグラフである(グラフ4、5、6)。

データによると、資産運用業界は銀行部門とは対照的に、2008年以降大幅に規模を拡大している(グラフ4)。同時に、レバレッジも増加しているようであるが、この点を示す2008年以降の明確なグラフを作成するのは困難である。

グラフ4 – 米ファンド業界総資産価額(単位:10億ドル)

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(出典:BitMEXリサーチ、SEC

投資ファンドのレバレッジ規模を立証する計算方法は他にもあるが、最も基本的なのは総資産価額と純資産価額の比率を計算することである(通称ギアリングレシオ)。残念ながら以下のグラフ(グラフ5)の時間枠は限定的であるが、少なくともヘッジファンド部門ではレバレッジの緩やかな拡大が示されている。 

グラフ5 – 米プライベートファンド業界ギアリングレシオ – 総資産価額/純資産価額

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(出典:BitMEXリサーチ、SEC

ギアリングレシオはデリバティブの影響を考慮していないため実際のレバレッジより低く算定されるが、SECではデリバティブのエクスポージャーの名目元本の開示も義務付けている。以下のグラフを見ると、米国を拠点とするヘッジファンドがデリバティブの利用を増やしていることがわかる。

グラフ6 – 米プライベートファンド業界 – ヘッジファンドのデリバティブの名目元本/純資産価額

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(出典:BitMEX リサーチ、SEC
(注:SECのデータ報告方法の変更を反映するために調整を加えている。)

新型の社債市場ビークル

投資ファンドが社債市場でレバレッジの使用額を増やしているのに加え、債務市場の仕組みもきゅうそくに複雑かつ不透明になっている。社債市場での銀行の役割交替により、あらゆる種類の相互に関連する非排他的な投資構造が急拡大している。その一部を以下の表にまとめた。

債務の種類 説明/コメント レファレンス
ローン担保証券(CLO)複数企業のローンをグループにまとめて証券にしたもの。通常、複数トランシェに分割され、低リスクトランシェは低リターン、高リスクトランシェは高リターンである。最高リターントランシェの投資家は支払不能時の返済順位が最後になる。代表的買い手は、年金ファンド、保険会社、ヘッジファンドであり、特に高利回り商品を好むアジア投資家に人気がある。市場規模の拡大 – グラフ7
レバレッジドローン一般的に、既に借入率の高い企業に提供される変動金利ローン。大半の場合、100%無担保である。年金ファンドや他のプライベート投資家が購入することが多い。バンクオブイングランドの最近の試算によると、レバレッジドローンの世界市場の規模は2.2兆ドルであり、2006年の米サブプライムローン市場の規模1.3兆ドルを上回っている。市場規模の拡大 – グラフ8信用度 – グラフ15
プライベートデッド取引レバレッジドローン市場と似ているが、デッド(債務)は通常流通市場で取引されない。市場規模の拡大 – グラフ9
債券ETFおよび投資信託ETFはこの時期あらゆる資産クラスで人気が高まっており、社債ファンドも例外ではない。市場規模の拡大 – グラフ10
プライベートエクイティ信用度 – グラフ16

(注:上記表の各フィールドは相互排他的ではない)

多様な出典からの以下のグラフが示すように、銀行以外を通じて企業に信用を提供するすべてのメカニズムは前回の世界金融危機以降大幅に拡大している。

グラフ7 – ローン担保証券(CLO)市場の規模(単位:10億米ドル)

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(出典:シティ、FT

グラフ8 – 米レバレッジドローン市場の規模(単位:10億米ドル)

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(出典:S&P、FT

グラフ9 – プライベートデッド市場の規模(単位:10億米ドル)

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(出典:バンクオブアメリカ、FT

グラフ10 – 米国投資家向け上位債券ETF(単位:10億ドル)

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(出典:BitMEX リサーチ、ブルームバーグ)

(注:このグラフは次の債券ETFの時価総額合計を表したものである。iShares Core U.S. Aggregate Bond ETF、Vanguard Total Bond Market ETF、iShares iBoxx $ Investment Grade Corporate Bond ETF、Vanguard Short-Term Corporate Bond ETF、Vanguard Short-Term Bond ETF、Vanguard Intermediate-Term Corporate Bond ETF、iShares J.P. Morgan USD Emerging Markets Bond ETF、Vanguard Total International Bond ETF、iShares MBS Bond ETF、iShares iBoxx $ High Yield Corporate Bond ETF、PIMCO Enhanced Short Maturity Strategy Fund、Vanguard Intermediate-Term Bond ETF、iShares Short-Term Corporate Bond ETF、SPDR Barclays High Yield Bond ETF、iShares Short Maturity Bond ETF)

社債市場の状況

グラフ11が示すように、社債発行高は2008年以降激増した。ラッセル3000指数の構成企業の社債総額は現在11兆ドルと前回危機時の8兆ドルを大きく上回る。このように社債による資金調達額が記録的水準に達している背景には、低金利と上述の新型商品がある。 

ただし、グラフ11の赤線が示すように、ラッセル3000企業のバランスシートの状態は比較的健全に見受けられ、対EBITDAの累計純債務比率はわずか2.5倍弱にすぎない。   この比率はここ数年上昇しているが、2008年の金融危機前に観測されたc3.7倍にははるかに及ばない。こうした健全性に貢献しているのが、少数の大手ハイテク企業である。こうした企業は潤沢なキャッシュを保有し、景気拡大を牽引する高収益を上げているが、景気状況が変われば、収益減少に合わせて企業のバランスシートは再び悪化し始める可能性がある。

グラフ11 – 社債発行高

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(出典:BitMEXリサーチ、企業データ、ブルームバーグ)
(注:数値はラッセル3000の全構成企業の累計データ)

今後数年間、多額の社債償還が予定されており、流動性危機や社債部門の圧迫要因の影響を増幅させる可能性がある。当社の以下の分析が示すとおり(グラフ12)、米国市場における2019年の社債償還高は8,800億ドルに上る。

グラフ12 – 社債償還予定(単位:10億米ドル)

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(出典:BitMEX リサーチ、ブルームバーグ)
(注:数値は約6,400件の米国社債データベースに基づき、累計発行高は5.7兆ドルに達する。)

最も警戒すべき指標は恐らく社債の信用度である。グラフ13には投資適格債の信用度別発行高が時系列で示されている。 2018年末、投資適格のうち最低クラスに該当するのは全体のほぼ50%を占める。これは過去30年の記録において際だって高い水準である。グラフ14では2021年以降状況がさらに悪化することが示されている。同年に償還する社債の圧倒的多数は最低クラスの投資適格債である。

グラフ13 – S&Pによる米社債信用格付け分布の時系列データ

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(出典:ブルームバーグ、HSBC USD IG指数構成企業。金融/非金融企業を含む)

グラフ14 – 米社債償還年別発行高のS&Pによる信用格付け分布

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(出典:BitMEX リサーチ、ブルームバーグ)
(注:数値は約6,400件の米国社債データベースに基づき、累計発行高は5.7兆ドルに達する。)

上述した従来とやや異なる債券ビークルの中には、信用度を評価するのが難しいものがある。だが、ムーディーズの最近のレポートでは、レバレッジドローン市場での投資家保護レベルの大幅な低下が指摘されている(以下のグラフ15を参照)。

グラフ15 – レバレッジドローン(米・カナダ)の契約条項の質に対するムーディーズの評価

https://blog.bitmex.com/wp-content/uploads/2019/02/cc.png

(出典:ムーディーズ、ブルームバーグ
(注:5.0が最も低く、1.0が最も高いスコアである)

グラフ16 – プライベートエクイティ取引のEBITDA乗数に対する平均合計債務

https://blog.bitmex.com/wp-content/uploads/2019/02/12.png

(出典:S&P、FT

低ボラティリティ環境

先進国における異例の金融政策により投資リターンとボラティリティが縮小しているのに対し、借入コストは低下しているため、投資顧問はレバレッジを利用しやすくなり、リスクオン傾向が強まっていると当社は考える。同時にこの政策により企業は借入をしやすくなっており、債券部門が低ボラティリティの影響を最も受ける結果となっている。「リスクパリティ」型、すなわち各資産クラスのリスク(ボラティリティ)に基づきポートフォリオを構築してから、レバレッジを利用してリターンを高めることでリスクを管理する投資戦略が人気を集めている。低リスク資産のウェイトを高くすることによる低リターンの影響はレバレッジにより軽減される。この戦略では株式よりも債券のウェイトを高くしつつ、レバレッジの組み込み率を高めることで一般的に低リスク資産とされる債券の低リターンのデメリットを軽減する。

2018年2月、恐怖指数(VIX)が急上昇し、Velocity Shares Daily Inverse VIX ETNを筆頭にVIXの空売りに主軸を置く投資戦略の価額はほぼゼロまで暴落した。これに伴いボラティリティは急騰した。この件については、BitMEX Crypto Trader Digestの2018年3月号を参照していただきたい。犠牲となったのは、手軽なリターンを求める好機便乗型の一部投資家であり、金融システムの他の部分への「ボラティリティ急騰」の影響は限定的であった。だが、見方を変えれば、2018年2月の出来事は債券市場全体の状況の縮図であった。現在、市場の主流投資家が意図的に低く抑えられたボラティリティと低借入コストの恩恵を受けている。いずれ市場は調整され、数億ドルどころか数兆ドルの資産クラスのポートフォリオが処分されれば、2018年2月より遙かに多くの投資家に影響を及ぼすことになる。

以下はこのシナリオを順番に示したものであり、リスクを深刻化する多様な要因が絡み合う。

  1. 何らかの材料に触発されボラティリティが急騰する。
  2. 投資ポートフォリオのリスク軽減が必要となり、最も流動的な市場で取引される債券が最初の標的となる。
  3. 最も流動性の高い市場では機械取引が主流であり、機械によって流動性が同時に消失する可能性がある。
  4. 投資家が我先に撤退すると、債券市場はボラティリティと流動性が急上昇し、機能不全となる。
  5. CLOや債券ETFといった債券ベースの証券化資産が純資産価値から大幅に割り引かれて取引される。
  6. 株式などの他の流動的資産クラスに影響が広がる。
  7. その後数年間、新たに確立された債務生産構造が枯渇し始める。企業は借換に手こずり、景気に悪影響が及ぶ。

言うまでもなく、ボラティリティ増大につながる主要因はわからない。地政学的事象、新興市場における過剰な米ドル建て債務、中国の資産運用業界における高度のレバレッジ、受動的ETF、高頻度取引、中銀バランスシートの急速な縮小、想定外の大企業破綻、ユーロ圏の債務危機など、果てはビットコインのコンセンサスにおける致命的バグなど、ボラティリティ急増の原因は枚挙に暇がない。  

肝心なのは何が具体的なきっかけであるかではなく、低ボラティリティと過剰なレバレッジによって金融システムは不安定さと脆弱さをはらむようになる。問題が生じた後でそのきっかけを探り出し、元凶と非難される向きは多数いるが、理論的誠実性を欠いていると思われる。

結論

銀行は資産運用機関より金融システムおよび社会にとって重要性が大きい。資産運用機関に圧力が加わる場合、一部の富裕層は資産価値の減少に見舞われる可能性があるが、リテールと法人の預金は安全である。そのため、次の危機は2008年ほど強烈なものになるとは考えにくい。ただし、危機の影響を抑制するための政府が介入する可能性は2008年より小さい。 

1つめの要因は最も明白なものでもあるが、中銀が使える手段が大幅に減っていることが挙げられる。金利は既に低く、バランスシートは既に拡大している。2番目の要因として、政治的なものが挙げられる。これは最も重要な要因でもある。例えば、米国のトランプ大統領、英国のブレグジット、フランスの黄色いベスト運動の背後にいる人々は、絶対とは言えないものの、金融市場での特定の種類の政府介入を支持しない可能性がある。 

現在の「大衆主義」傾向の強い政治情勢では、金融資産を大量に所有していない中間層の相対的な負担が大きくなる資産価格を上昇させるためのプログラムや量的緩和プログラムの正当性を主張するのは前回の危機時より困難である可能性がある。したがって、次の危機では「政治的反対」という知覚されたリスクに対処することにより、中銀が積極的に取れる措置の範囲が大幅に絞られる可能性がある。 

忘れてならないのは、2008年以降、中央銀行の政策に対して政界が反発し、2011年頃にピークに達した事実である。別の重要な相違点として、ソーシャルメディアなど当時反発を誘発させるために使用できるツールが今ではさらに発達していることが挙げられる。西欧では2008年以降、政治的不透明要素が増えているように見受けられる。こうした不安定要素が金融ボラティリティと絡み合うと、リスクは増大しかねない。

次に危機が発生する時期については、皆目見当が付かない。本稿のグラフでは問題を特定することはできても、現時点で大規模な危機が視野に入っているのか、数年先のことなのかは読み取れない。危機で利益を得る方法については、その時期を予期するよりさらに難しいだろう。VIXのコール、長期社債ETFのプット、インデックスリンク国債、ボラティリティ専門のヘッジファンド、金などからポートフォリオを組み、規模は小さくてもビットコインをその中に組み込む余地もあるかもしれない。繰り返しとなるが、危機の時期は誰にもわからない。ただ、今が投資ポートフォリオを調整するタイミングではないだろうか。