執筆:Arthur Hayes デスク
BitMEX 共同創業者兼 CEO
執筆:BitMEX リサーチデスク
A brief history of Stablecoins (Part 1)
抜粋: 本稿では、BitShares (BitUSD) および MakerDAO (Dai) の 2 つのケーススタディを中心に、分散型ペッグ通貨(stablecoin)の歴史をざっと振り返る。さまざまな設計チョイスの有効性(価格やプールされる担保など)を考察し、有効なペッグ通貨は、金融テクノロジーの究極の代名詞となる可能性が高いものの、当社が今まで考察したシステムはいずれも意義深い規模となるだけの堅牢性を持ち合わせていないという結論に至った。考察対象となった通貨は、「消去法」的な論理を根拠に、ある程度価格安定性を実現しているものの、こうした根拠はテクノロジーの向上に伴い関連性が薄れるように思われる。
ボラティリティの憂鬱
2 万ドルから 6,000 ドルへの急落過程で、世界中のトレーダーが不安に苛まれたことから見ても、最近の下落は上昇より市場にダメージを与えている。金融メディアや多数のトレーダーは、18 か月前に価格が 1,000 ドルであったこと、2015 年秋にはわずか 200 ドルであったことを忘れ去っている。
市場に新たに参入するトレーダーや投資家は、最近の価格動向に巻き込まれ、本質を見失っている。事態を悪化させているのは、価格と同時にボラティリティも急落していることである。仮想通貨にとって、この点は何より致命的だ。
ビットコインの普及に関しては、高ボラティリティも、普及を妨げる主な要因となっている。ビットコインが唯一の経済通貨であったとして、その価値が乱高下するならば、誰もビットコインと現物を交換したがらないためだ。潜在的トレーダーは、この新しい取引ネットワークには、単純に「基礎的」価値がないと参入に躊躇している。そこで、質問がある。1 年足らずで価値が 20 倍に増えた取引ネットワーク通貨が他にあるだろうか。もちろんない。したがって、ボラティリティを動かす要因は、現在の利便性でなく、将来の利便性に対して飛び交う激しい憶測にある。
人類が貨幣の使用法を変えるのは、非常に長期的で、困難なプロセスである。このプロセスでは本質的に混乱は避けられない。貨幣、そしてその扱い手段は、個人的なものであり、時に宗教的でもある。明日から、今まで200年続いていたやり方が変わると伝えられたら、社会は変更に激しく抵抗するだろう。激震は必至である。したがって、ビットコインが生産的な方法で使用される場合、その画期的新時代が訪れるまでの期間、大きな変動は避けられない。
ビットコインは新しい貨幣システムのコールオプションにほかならない。価格形成にとって最も重要な要素は、原資産のインプライドボラティリティである。上記で図示するとおり、実現済み 30 日足ボラティリティ(年率)は価格と共に急落している。ボラティリティが戻れば、価格も上昇するだろう。
歴史は繰り返す
2015 年のベア市場が 1 月に始まったとき、価格は 300 ドルをつけていた。その後 10 か月間、価格は 200 ~ 300 ドルを推移した。レンジは 50% であるが、日足での価格変動はごくわずかであった。
ボラティリティ不足で、多数のトレーダー、投資家、市場解説者がビットコインを償却した。直近最高値から 80% 超急落して以来、ほとんど変動しない資産など、考慮に値しない。
トレーダーが市場に戻ってきたのは、ボラティリティも戻ってきたためである。ビットコインは、30 日間で年率ボラティリティが 100% 上下し、すぐに戻す可能性がある。相場が 200 ドルから 2 万ドルに変動した要因は、さほど苦労せず、わずかな時間で自分の運命を変えることができると考える世論に迎合的(FOMO)な「投資家」の存在であり、2015 年から 2017 年にかけての実際の経済状況において、ビットコインの普及に関して著しく変化した要因は少ない。
20,000 ドルへの戻し
ボラティリティが大幅に増加するまで、価格の本格的戻しはあるまい。市場が必要とする活況は、1日の価格変動率が 10% を記録するようになれば、再来するだろう。そこで問題となるのが、パリティに戻る材料と、戻るのにかかる時間である。
2017年の強気市場では、世界のマクロ材料のビットコインに対する影響は忘れられていた。2018年下半期については、世界のマクロ材料からみて、ビットコインは安全逃避資産であると証明されるはずだ。2015年に、ギリシャはメルケル氏にその証明をするとほぼ言いかけたが、決断を敢行することはできなかった。それでも、ギリシャが実際に経済自由化を図ることができるというに認識が市場で広がったときに、ビットコイン価格は上昇した。年内にこうした類いの不安要素が生じた場合、ビットコインは安全逃避資産の地位を取り戻すだろうか。
FRB、ECB、日銀が実質的にバランスシートのフラット化や縮小を進める中、年末までに金融市場はほころびを露呈し始めるだろう。長期的に見て供給拡大が繁栄をもたらすことはなく、供給を縮小すれば金融市場の魔物が暗躍することになる。
メディアはなおビットコインに好意的
幸いなことに、大手金融メディアで仮想通貨はもてはやされている。主要プレーヤーの人生は、誇張的に報道され、ビットコインが 6,000 ドル、イーサが 400 ドルの水準にあっても、富裕な個人投資家は、メディアにとってかっこうの話題となる興味深い選択をしている。2015 年には話題にならなかったことが、2018 年には注目を浴びている。
先見性を証明するため、主要メディアはビットコイン価格の底を躍起になって予想しようとしている。こうした専門家が将来の繁栄をもたらすと信じる多数の愚か者はおこぼれを得ようと試みる。多くは失敗するだろうが、十分な努力が報われる者もあり、成功者は取引ゴールとして、メディアでもてはやされることになる。これにより 世論に迎合する層、ボラティリティと価格の増大が加速する。
どんな資産も一本調子で上昇することはなく、底を打ったと考えるほど、十分な調整局面を経たとは言えまい。ビットコイン価格は本来、誰も予想しなかった水準まで上昇し、トレーダーがパニック売りのときに底値買いするより早いペースで反発するものである。
長短期スプレッド取引
2018 年 12 月 28 日満期の BitMEX Bitcoin / USD 先物契約XBTZ18は、最近取引され始めた。以下の取引案では、直物相場は短期的に下落し続け、2018 年第 3 四半期に底を打ってから 2018 年第 4 四半期に大幅に反発すると仮定されている。また、トレーダーのセンチメントに変化はなく、長期的弱気市場に突入するとも仮定されている。
ただし、このシナリオを強く確信する場合、次の戦略でリスクと収益チャンスは最大となる。
1 現在の水準からビットコインが底を打ったと確信するまで XBTU18 をショートする。
2 XBTU18 のショートをカバーしたら XBTZ18 をロングする。
まず、3 か月物をショートする理由は、時間的価値が低いため直物の価格変動により敏感に反応するためである。流動性も高いため、パニックになった投資家は投機やヘッジでこの先物契約を使用する。年率では、XBTZ18 より高いディスカウント率で取引される。
反発局面で XBTZ18 をロングする理由は、時間的価値が高いためである。市場が思惑通りに動けば、投機筋はカーブのバックエンド(長期)を買い上げるだろう。年末までには、様々な事態が起こり得る。ビットコインのコールオプション的役割を踏まえ、この先インプライドボラティリティによって価格上昇がもたらされる可能性は下落より大きい。取引商品に内在する時間的価値が高いほど、長期コンベクシティの好転が有利に働く公算も大きくなる。
このシナリオでリスク軽減を図る場合、スプレッド取引が有効である。ただ、リスクが軽減すれば利益チャンスは低下する。
1 現在の水準からビットコインが底を打ったと確信するまで、XBTU18 をショートすると同時に、XBTZ 18 をロングする。
2 上記 XBTU18 のショートを XBTUSD に置き換える。
カーブのショートエンド(短期)に売り圧力がかかると予想する場合、XBTU18 ショートの利益は XBTZ18 ロングの損失を相殺するため、期間構造はスティープ化する。上記チャートでは、BitMEX Bitcoin / USD 先物市場の現在の曲率を示している。比較的フラットであることから、このスプレッド取引を始めるには今が好機であることが読み取れる。
この取引は価格的に中立であるが、各ポジションには別々に証拠金がかかることに注意されたい。XBTU18 のショートポジションの未実現利益は、XBTZ18 のロングポジションの未実現損失を相殺するために使用できない。
後者の取引にはファンディング率が発生すると同時に、6 か月と長期である。相場の反発に伴い、スワップがプレミアム方向に動くため、ショートポジションの保有者がファンディング率を受け取ることになる。イールドカーブのロングエンドは、時間的価値の上昇により、年率で買い上げられる。スワップのファンディングと先物金利差の拡大で収益がもたらされる。この取引も価格中立であるが、各ポジションに証拠金が必要である。
価格方向性を示すためにスプレッド取引をお勧めする理由は、予想が外れた場合でも、資本基盤を破綻させることがないためである。予想に対する確信が強いほど、各ポジションのレバレッジを高め、資本利益率を上げることができる。
リスクに関する免責事項
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