資金洗浄にはビットコインでなく不動産が有効

原文:Money Launderers Use Property, not Bitcoin – BitMEX Blog

仮想通貨には一部で悪評が漂う。「マネーロンダリングを幇助する」という通念があるのだ。仮想通貨投資歴の長いHodler(暗号通貨保有者)たちは、公開台帳の存在や米ドルと比べた換金性の低さを理由に資金洗浄にまったく向かないと反論する。米ドルの方が向いているとすると、どの米ドル資産が資金洗浄に有利だろうか?プロは「ビットコインではない」と断言する。

昨今、コカイン売買で得た100万ドルの利益を新品の100ドル紙幣で洗浄するのは容易ではない。銀行に行って預金しようとしても、背を向けた窓口の職員によって、警察に通報されるのが関の山だ。ニューヨークの宝石街を訪れ、ダイアモンドを購入して資金を洗浄できたとしても、このダイアを買値で売りさばくのは至難の業だ。どの国の政府も国内フローの引き留めを常に望んでいる。

ただ、各国政府は時折、誠実な役割を演じることを余儀なくされ、テロリストへの資金供与撲滅を明言する(サウジアラビアは例外)。以下に、不動産市場が未洗浄の資金にとって有能な「ランドリー」になる理由を説明する。

まず、香港での不動産の購入と保有に関する開示に目を向ける。香港は中国人の資金洗浄の舞台であり、米国では世界中の資金が洗浄される。本稿では、共通報告基準(CRS)を通じて両方を考察する。平均的な中国人富裕家Zhou氏の視点で、現金の洗浄方法、中国政府から資金源を隠蔽する方法を考察する。

中国人は同国政府の貪欲な性質を熟知している。過去30年、経済改革は大方の国民に大いなる恩恵をもたらしたが、政治的な過ちを1つでも犯せば、財産を没収され、農村地域に追放される可能性がある。国家が完全に統制する金融システムでは、中国政府の意向次第で、瞬く間に身ぐるみ剥がされることも他人事とは言えない。

自由の国アメリカは、世界各地に居住する納税者のあらゆる金融資産の所在を知る必要があると判断し、米国人の資産に関する報告を金融機関に義務付けている。中国などの多数の外国でも、米国の姿勢に同調し、共通報告基準(CRS)創設の運びとなった。CRSでは、加盟国に他の加盟国と金融データを共有する道筋を設けている。つまり、中国は香港に中国人の情報を要求できるのである。

CRSの進展に伴い、非常に興味深い次の2つの動きが見られた。

  1. 米国はCRSの批准に失敗した。つまり、米国人は米国内に資産を保有する中国人の金融データを中国と共有する義務を負わない。実に考えさせられる話しである。米国はすべての国にFATCAに従い、米国人に関する情報の提供を求めているのに、他国の便宜は図ろうとしない。米国人以外が保有する資産は結果としてどこに行き着くのだろう。
  2. 香港は報告対象資産から不動産を除外した。

こちらのサウスチャイナモーニングポスト の記事が指摘するように、中国人は早速、銀行預金を不動産に転換する動きに出た。不動産は経済活動を有力な原動力の1つであり、不動産ブーム時には多数の雇用が創出された。政策的観点からは、不動産ストックの増大奨励策を講じることで、経済運営の手腕を誇示することができる。

同日は、中国が共通報告基準(CRS)と共同歩調を取る日付である。この基準は、G20の要請に応じて策定された外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)タイプの制度であり、国際的租税回避行為の撲滅と国際税制の完全性の保護を目的とする。中国政府は、2014年にCRSの参加を誓約した。CRSの参加により、中国本土の居住外国人が保有する金融資産情報も収集され始める。合意によると、情報は来年、香港を含む100の国・地域の税務当局と交換される。譲渡税が課されない香港は、多数の中国本土投資家にタックスヘイブンとみなされてきた。だが、外国に保有する金融資産を中国当局に申告するのを防ぐため、こうした投資家は7月の期限までに、金融投資を不動産に転換する必要性に迫られている。

米国に関しては、全米リアルター協会が、不相談の購入を顧客の身元確認(KYC)/マネーロンダリング防止(AML)規制の免除対象とするよう画策している。金融犯罪取締執行ネットワーク(FinCEN)は、一部のホットマネー市場で、不動産が明白な資金洗浄マシンとなっていることを突き止め、2017年8月に開示要件を課した。

2017年2月23日の満期を前に、FinCENは、最新GTOでの報告対象トランザクションの相当部分が、ダミー会社の購入者の受益所有者と判明した個人による犯罪が疑われる活動に関連していることを発見した。結果として、FinCENは直近GTOの満期を2017年8月22日まで180日延長し、今年中に別の都市でも恒久的データ収集の必要性を検討する可能性がある。GTOは、銀行ローンなどの外部資金を調達せずに居住用不動産を購入する法人の持ち分を25%以上所有する自然人を特定するために、次の地域においてトランザクションが所定の閾値を満たす場合、特定の権原会社を必要とする。

  • 50万ドル以上 – テキサス州ベア郡
  • 100万ドル以上 – フロリダ州マイアミ・デイド郡、ブロワード郡、パームビーチ郡
  • 150万ドル以上 – ニューヨーク市ブルックリン区、クイーンズ区、ブロンクス区、スタテンアイランド区
  • 200万ドル以上 – カリフォルニア州、サンディエゴ郡、ロサンゼルス郡、サンフランシスコ郡、サンマテオ郡、サンタクララ郡
  • 300万ドル以上 – Nニューヨーク市マンハッタン区

これにより、悪質な資金洗浄に対抗するために適切な方向へ大局的に一歩踏み出したことになるが、典型的な投資家であるZhou氏は数百万ドルを隠し持ち、今までどおりビジネスを続けている。

中国政府の詮索の目や、資本逃避の防止に取り組む他の政府の目を逃れるには、米国はなお選好される資金の隠し場所となっている。上記の上限額を超えない限り、無傷の銀行口座を開設し、現金で不動産を購入するのはさほど難しくないはずである。

ビットコインはどうか

香港や米国の流動的な不動産市場で数百万ドルを洗浄し、隠蔽するのは明らかに容易である。では、我らがビットコインを使用するとどうなるだろう。

100万ドルの資金をビットコインで移動させるとしよう。

選択肢は2とおりある。取引所にアカウントを開設するか、ディーラーと相対(OTC)取引をする。

これだけの額を扱える取引所は、銀行と密接な関係を築いている。銀行は広範なKYC / AML検査をすべての口座に求めている。目的が資金フローの隠匿であれば、これは最善策とは言えない。召喚状を提示され、取引所は顧客情報を提出せざるを得ない。

取引所を使用できないのであれば、OTCディーラーと取引できるかもしれない。だが、大手ディーラーもKYC / AML規制に従う必要があり、同じく銀行と強固な関係を築いている。

取引所と規制準拠のOTCディーラーは、主な流動性の提供者である。KYC審査なしで顧客を迎えるディーラーもあるが、スプレッドは市場と大きくかけ離れている。資金サイズに対応可能であったとしても、資金洗浄のために、20%超の利息が予想される。

仮想通貨市場での資金洗浄は、身元情報を提供したくないのであれば、きわめて難しい。不動産の方がはるかに容易である。不動産ブローカーには政府から金利が付与される。ブローカーはKYC / AMLの報告要件を緩和するためにあらゆる努力を注ぐだろう。

結論:「違法資金の洗浄を可能にするのは、Satoshiでなく アンクル・サム(米国)である。」