ビットコイン送金単位の精度レベル向上

原文はこちらです。

要旨:このレポートでは、ビットコインのトランザクション・アウトプット・バリュー(送金額)における平均精度レベル(どの程度概数が用いられているか)について分析および考察します。当社の調査によると、ネットワーク開始以来ビットコインは、ゼロ値を付けたものを除くとおよそ13億回もの送金がなされました。これは総額54億ビットコイン超、すなわち12兆米ドル超に相当する金額が使用されたことを意味します。当社は今回、これらのトランザクション・アウトプットをその精度レベル毎に分類しました。この10年間、精度レベルは、力強く向上する傾向にあります。現在、ビットコイン・アウトプットの70%以上が利用可能な最高精度(1サトシ)を採用していますが、この割合は、2012年時点では約40%でした。単位として、サトシではなく、ビットコイン送金額が整数値による送金の割合は、2012年では約10%であったのに対し、2019年以降ではわずか0.6%となっています。このように、より精度の高い値による送金が増加した主な要因は、法定通貨建ての支払いがビットコイン建てに計算され送金がなされることが、ネットワークの実験的な利用の増加に比べて大きかったためだと当社は結論付けました。またこれらのデータは、ビットコインが価値尺度としての地位を確立するという、ビットコイン利用者にとっての夢の実現は、少なくとも今のところは射程距離にはないということを示唆しています。

図 1 – ビットコイン送金における精度レベルごとの比率

(出典: BitMEX リサーチ, ビットコインブロックチェーン)

(注: アウトプットは1,000ブロック単位で分類。ただし、ブロック高は613,999を上限とし、ゼロバリューのアウトプットを除く。)

概要

このレポートでは、ビットコインのすべてのトランザクション・アウトプットの精度または概数について調べます。ビットコイン史上における13億アウトプットすべてを評価し、アウトプット・バリューの精度に基づいて分類しました。1サトシを最高精度レベル、100,000ビットコインを最低レベルとして、全部で10の14乗、すなわち14個のグループに分類しました。下の表(図2)はそのすべての結果を示すもので、上の図(図1)は、各精度の普及率の変化を時系列で示したものです。

過去10年間で精度が著しく向上し、2018年以降もその傾向が続いたことを、当社のデータが示しています。ビットコイン・アウトプットにおいて、利用可能な最高精度(1サトシ)を採用した比率は、2012年では約40%でしたが、現在は70%以上となっています。ビットコイン整数値を採用した比率は、アウトプット全体に対し、2012年は10%強でしたが、2019年以降ではわずか0.6%となっています。

明らかな異常値に対する説明:

  • 10 ビットコイン群(2009年 および 2010年) – 当社のデータには、コインベースのアウトプットが含まれていることに注意してください。2009年と2010年のブロック報酬は50(10ビットコインのグループに分類される)であり、全体としての取引量が非常に少なく、手数料がほとんどなかったため(手数料により小数点以下を含むトランザクションとなる)、非常に大きな比率のアウトプットが、10ビットコインの倍数のカテゴリーにありました。2011年以降のデータは、非コインベースのトランザクションである可能性がより高くなっています。
  • 10 サトシ群(2013年)– 2013年の初めにかけて10サトシ群の数量がわずかに増加しているのは、サトシダイスギャンブルゲームによるものです。この見方は、1dice…から始まるアドレスに関連付けられたトランザクションボリュームに対する簡単な分析から導き出されたものです。このゲームは、2013年3月頃にピークを迎えたことを示しています。
  • 1,000 サトシ群(2015年)– 2015年夏、1,000サトシ群のアウトプットの割合が大幅に増加しているのは、いわゆる「フラッド攻撃」によるものです。これらの「攻撃的トランザクション」の一例については、こちらでご確認いただけますが、そのトランザクションには35のアウトプットがあり、そのうち34では1,000サトシのバリューが採用されています。多くの場合、この攻撃は、2015年から2017年にかけてコミュニティを悩ませた「ブロックサイズ戦争」に何らかの形で関連していると考えられています。この現象は、図 4 の中にも見られます。

結果および分析

主な結果は、以下の図2に要約されています。この表は、一般的に高精度アウトプットが最も一般的であり、アウトプットの60.1%が利用可能な精度のうち最高レベルを採用し、10.1%が2番目に高い精度を採用していることを示しています。精度範囲の下限において採用されている最低精度は100,000ビットコインのグループで、アウトプットは15個しかありません。ブロックチェーンには、100,000ビットコインより低い精度のアウトプットは見当たりません。

図 2 – 精度レベルごとのビットコイン・アウトプット数(ビットコイン史上の総数について分析)

精度レベルアウトプット数アウトプット比率
1 サトシ767,583,61660.1%
10 サトシ127,476,61710.0%
100 サトシ74,360,1235.8%
1,000 サトシ73,209,9315.7%
10,000 サトシ105,094,4198.2%
100,000 サトシ53,612,6724.2%
1,000,000 サトシ42,418,9883.3%
10,000,000 サトシ18,776,5701.5%
1 ビットコイン12,306,4981.0%
10 ビットコイン2,713,1600.2%
100 ビットコイン415,0570.0%
1,000 ビットコイン28,3730.0%
10,000 ビットコイン7320.0%
100,000 ビットコイン150.0%
1,000,000 ビットコイン (ン以上)00.0%
合計1,277,996,771100.0%

(出典: BitMEX リサーチ, ビットコインブロックチェーン)

(注: ブロック高は613,999を上限とし、ゼロバリューのアウトプットを除く。)

ビットコイン史上最大のトランザクション・アウトプット・バリュー(500,000ビットコイン)は、たまたま100,000ビットコイン精度群の中の15ビットコイン・アウトプットの1つとなっています

(出典: BTC.com)

次の図(図 3 および 4)は、ビットコイン・アウトプット総数の伸びと、これが時間の経過とともにどのように変化したかを示すものです。ビットコインは、これまでに約13億のトランザクション・アウトプットがありました。もちろん、これらのアウトプットのうち、ほんの一部は未使用のまま残ります(UTXOと呼ばれることもあります)。UTXOは、現在、6,500万をわずかに上回る水準で、これは累積アウトプット総数の5.1%超に相当します。

ビットコイン・コア上のgettxoutsetinfo コマンドのアウトプット(約6500 万が未使用アウトプットであることを示す)

(出典: BitMEX リサーチ)

図 3 – ビットコイン・トランザクション・アウトプットの累積数

(出典: BitMEX リサーチ, ビットコインブロックチェーン)

(注: アウトプットは1,000ブロック単位で分類。ただし、ブロック高は613,999を上限とし、ゼロバリューのアウトプットを除く。)

図 4 – ビットコイン・トランザクション・アウトプット数とビットコイン価格の比較

(出典: BitMEX リサーチ, ビットコインブロックチェーン, ビットコイン価格についてはCoinmarketcap)

(注: アウトプットは1,000ブロック単位で分類。ただし、ブロック高は613,999を上限とし、ゼロバリューのアウトプットを除く。)

下の図5および6は、ビットコイン・アウトプット・バリュー合計と、時間が経つにつれて、それがどのように増加したかを示すものです。約13億ビットコイン・アウトプットは、約55億ビットコインを費やしました。これを、支出が発生した時点でのビットコインの現物価格に基づいて換算すると、12兆米ドル以上の支出に相当する可能性があります。

図 5 – トランザクション・アウトプットにおけるビットコイン・バリューの累計値

(出典: BitMEX リサーチ, Bitcoin ブロックチェーン)

(注: アウトプットは1,000ブロック単位で分類。ただし、ブロック高は613,999を上限とする。)

図 6 – トランザクション・アウトプットにおけるビットコイン・バリューとビットコイン価格の比較

(出典: BitMEX リサーチ, ビットコインブロックチェーン, ビットコイン価格についてはCoinmarketcap)

(注: アウトプットは1,000ブロック単位で分類。ただし、ブロック高は613,999を上限とする。)

アウトプット・バリューにおける平均は、4.26ビットコインです。下の図7が示すように、この平均値は、おそらくビットコイン価格上昇が原因で、時間が経つにつれて減少しています。

図 7 – 平均アウトプット・バリュー

(出典: BitMEX リサーチ, ビットコインブロックチェーン)

(注: アウトプットは1,000ブロック単位で分類。ただし、ブロック高は613,999を上限とし、ゼロバリューのアウトプットを除く。)

プライバシーに関する考察

ビットコイン・トランザクションの精度レベルは、重要なプライバシーの問題に関わる可能性があります。典型的なビットコイン建てのトランザクションを2つのアウトプットで行う場合、そのうち1つのアウトプットは受信者に送信され、もう1つはお釣りとして送信されます。このとき、より高い精度を持つアウトプットの方がお釣りだと特定できてしまう場合が多いため、これによってプライバシーが低下してしまいます。

私たちのデータが示す通り、精度レベルの向上により、ほとんどのアウトプットが最大の精度レベルで行なわれるようになりました。これは、計画されたわけではありませんがプライバシーの観点から明るいニュースとなる可能性があります。

結論

多くの人が、ビットコインは3つのステップを通じて、お金として認識されるようになると考えています。まずは、交換の媒体として使用されます。おそらくこれは、ビットコインのユニークな潜在能力、すなわち、検閲に強い電子決済能力によって可能となるでしょう。その後、ビットコインは、信頼できる貯蓄手段となり、最後に、これは最も野心的で、最も可能性の低い段階ですが、価値尺度

としての地位を確立する可能性があります。これは、商品やサービスの価格がビットコインで設定され、企業はビットコイン建てで報告を行い、経済的決定がビットコイン建ての金額に基づいて行なわれる場合です。 

ビットコインがお金として認識されるようになるまでの考えられる道のり

Step 1交換媒体
Step 2貯蓄手段
Step 3価値尺度

ビットコインが価値尺度としての地位を確立したり、今よりもそのように認識されるようになった場合、おそらく精度の程度は、向上させるのではなく、低下させなければなりません(つまり、価値のものさしとしては概数の方が都合が良い)。本レポートのデータ(図1)は、ビットコインがそれとは反対方向に動いており、平均精度が依然として向上していることを示しています。これは、少なくともこの時点では、価値尺度として認識されるという理論に反しているということかもしれません。

精度の向上は、いくつかの要因によって引き起こされる可能性が高いと考えられます。以前は、ビットコインが利用されるのは、より実験的な状況で、最も可能性が高かったのは、ビットコイン建ての支払いを行なう場合でした。例えば、オンチェーンギャンブルやオンチェーンゲームなどに関連する支払いで、ユーザーが初めてコインを取得したり、技術的な検証を行なう場合です。そのような場合は、精度は低い可能性が高くなります。ここ数年、ビットコインは、経済的環境で利用されるケースが増加していますが、おそらく法定通貨建ての利用、例えば、米ドル建ての取引や投機、米ドルベースでの商業活動が増加したため、精度のレベルは高まっています。また、ビットコインの明確な現物価格が存在しなかった2010年中頃には、高精度は必要なかったのかもしれません。ビットコインの価値がかなり高く評価されるようになった現在、当然、高精度に対するニーズはあると考えられます。もう一つの要因は、ビットコインの歴史が長くなったことであり、時間が経つにつれ、未使用のアウトプットが増え、それによって、精度を向上させる方向に動いてきたということかもしれません。私たちの見解では、ビットコインが開発された最初の10年間に精度が大幅に向上したのには、これらの理由が関係していると考えられます。

ビットコイン建ての商品やサービスにおいて、ビットコインが価値尺度としてさらに利用されるようになることで、トレンドが変わり、精度が再び低下するかもしれませんが、たとえそういうことがあるとしても、それは何年も先になる可能性があります。現在のところ、ビットコインがお金として認められるための戦いはまだ始まったばかりで、価値尺度になることはおろか、交換媒体としての地位を現在確立中といった段階です。少なくとも今のところは、価値尺度としての地位は、まだおとぎ話の段階です。