コインの両面:近未来の分岐型マネー

著者:アーサー・ヘイズ 原文はこちらです。

 

少しの譲歩で膨らむ政府の思惑

新しいマネーの最初のタイプと考えられるのが、中央集権型の電子マネーである。その起源は現行システムに直結し、デジタル時代における法定通貨(Fiat)のアップデート版といえる。それは既存の中央銀行制度と急速に大企業化している経済にとって自然(筆者の意見では必然でもある)な合成体である。 

電子マネーが可能になる背景として、消費者が社会的に私生活全体を企業に委ねることに慣れてきたという現象が大きく影響している。その引き換えに、消費者は娯楽や便利さを潤沢に手に入れている。ただし、現時点では、企業によるマネーの発行とそれに伴うプライバシーのさらなる低下を消費者が自主的(または強制的)に受け入れる動きはごく限定的に見られるのみである。

電子マネーの将来の方向性を最も明確に示していると考えられるWeChat Payは、中国内の現金を実質的に消滅させている。WeChat Payのシステムの仕組みを説明しよう。マーチャントはQRコードと携帯電話を使用して、消費者の銀行口座に直接接続しているWeChatウォレットから請求額を減額する。消費者がマーケットのレジに並んでいる間、人民元(CNY)が口座から即座に減額され、マーチャントの口座に加算される。マーチャントは代金を、消費者は商品を受け取り、現金を物理的にやりとりする手間は消滅している。

WeChat Payは、中国に頻繁に旅行する人々から大変好評を得ている。ただ、銀行業界でキャリアを築き、現在、ビットコインで生計を立てている筆者は、中央集権型決済システムのプライバシー面での制約もよく認識している。

世界各国の大手業者が現在運営している多様なモバイル決済システムは細部が異なる。購入した商品やサービスから購入した場所と日時まで、運営業者が消費者に関してほぼすべてを把握しているケースがある。こうしたデータは恐らく消費者に関して入手した他のすべてのデータとリンクさせることができる。

同時に、西欧諸国政府が、気の向くままに、消費者の個人情報を引き渡すよう企業に圧力をかけてきたケースもある。当然、企業はこうした要請に従う傾向にある。民間セクターの決済ネットワークやクラウドファンディングプラットフォームでも、問題のある考えや発言との関連性が深すぎるため、あるいはトラブルメーカーであるという理由で特定の人を排除するケースが発生している。これらすべてが必ずしも不当であるとは限らないが、不当であるかどうかを判断するのは、運営元自身である。

さらに、財政的な面からこの行く末を考えると、中央銀行や政府は、突然、または段階を追って企業の財政機能についてより実践的な方法で指示し始める可能性がある。例えば、商業銀行や大手ソーシャルメディア企業を代理人に任命し、決済ネットワークの中心点として、電子マネーシステムに参加し、処理手数料を稼ぐ権限を付与する方法が考えられる。

重要なのは、決済ネットワークのルールはコードを介して即時かつ完璧に強制可能である点だ。非効率で不正を犯しがちな人間がシステムに参加できる唯一の場所は、ネットワークの頂点である。ここでは、当局者がクレジットを直接利用者に発行し、各トランザクションを即座に課税し、ネットワーク加入者審査を行う。理論上、消費者の財政はこのように規律されることが可能である。

 

ここで、救世主ビットコインが登場

上述した金融システムはブロックチェーンに類似するネットワーク上で展開される場合もされない場合もあるが、誤解しないで欲しいのは、中央集権化(トップダウン)され、検閲の対象となる(中央集権化勢力と対立した場合、使用を禁止され得る)という点である。

対照的にビットコインはピアツーピアの分散型であり、耐検閲性がある。ビットコインは自主的な独立した私利に基づく参加者によるネットワークを通じて運営されている。参加者は何らの便宜も許可も要求せず、数ベーシスポイントのトランザクション手数料が他人から求め、受領を許可される唯一の対価である。ビットコインウォレットの公開アドレスとトランザクション履歴は全員に表示されるものの、個人の身元を特定する情報はトランザクションに一切含まれない。

つまり、ビットコインやその類似物は、社会が理想とする電子マネーのプライベート形態である。そしてプライバシーはうまく機能している社会の重要な構成要素である。道義的そして心理的理由から、市民は自分の生活に関する特定の情報を内密に保つ能力を重視する。

要約すれば、物理的現金は長期にわたりプライバシーに関して最適な貨幣形態となってきた。ところが、電子マネーは効率性と透明性に優れていることから、各国政府は次々と物理的現金を徐々に時代遅れにしていくものと見込まれる。消費者が考えるより早い時点で、プライバシーあるいは他の要因で現金は選択肢にならなくなるだろう。 一方で、ビットコインは、現金が駆逐された暁には、内密に価値を保持し移転できる特質から、民間市民からその内包する価値により高く評価されるようになると予想される。

 

全般的楽観論の根拠

ビットコインはまだ実験の初段階にあるが、運用開始から10年を経て、ビットコインのプロトコルはハッキングされていない。ソフトウェアの歴史上、実質的に最大の「バグ報奨金」を提示しているにもかかわらずだ。ビットコインは、まったく無関係の民間人が共通の目標に向かって協力するという素晴らしい成果物である。

参加者が代替的貨幣システムを共同でいかに構築してきたかを考えると、個々による分散的な共同の取り組みを通じて国際社会の他の側面において改善できることに対して大いに楽観している。

しかも、多様な中央集権的力が集結されている現在の状況下でそう断言するのである。 

人類の分岐型マネーの未来は、過去の独占的貨幣より明るいだろう。利便性の高いマネーもあれば、プライバシーが顕著に強化されているマネーもあるからである。