仮想通貨ブームの後遺症

2018年4月20日 BitMEX Crypto Digest より 著者:Arthur Hayes BitMEX共同設立者及びCEO

急騰に沸いた12月の後、仮想通貨は「市場」という荒波にもまれた。ボラティリティは申し分ない。だが、多数の投資家は、乱高下で損失を膨れ上がらせた。痛手を負ったトレーダー、ヘッジファンド、ICO発行企業が情報を錯綜させる。それでも、相関性のないリターンという黄金を求め、この新しい刺激的な業界に踏みとどまる投資家は多数いる。

 

成功報酬なし

筆者のLinkedInの受信箱には仮想通貨ヘッジファンド創設通知が届かない日はない。第2四半期末までには、登録仮想通貨ヘッジファンドの数は数百規模に達すると様々なメディアが報じている。

こうしたファンドの大半は買い持ちのみである。つまり、こうしたファンドマネージャーの狙いは支払い超過のベータ商品にある。ベータそのものに問題はない。ただ、アルファを期待すると、手痛いしっぺ返しに遭う。

数千ドル(時には数百万ドル)を気前よく投じていた投資家は損失で首が回らなくなっている。ヘッジファンドマネージャーの友人数人に尋ねると、集金ペースは予想より遅いと言う。

中級レベルのファンドマネージャーは裁定取引をしながら、米著名投資家のスティーブン・コーエンクラスに仲間入りすることを期待した。確かに彼らは通常より成功したが、仮想市場ではリスク管理が鉄壁でなければ、破滅するという教訓を得た者もいる。どんな不運もリターンに悪影響を及ぼした。スプレッド取引で証拠金要件を満たせなければ、成功の道は閉ざされる。

ジョン・ポールソンの後継者を夢見た多数のファンドマネージャーは、仮想通貨取引の難しさを思い知ることになった。市場は不安定で、先が読めない。実績や理論どおりに「動かない」のだ。

ICO、先延ばしされた夢

どの技術チームも、今やICO戦略を必要とする。見かけ倒しのWebサイトや調子の良いホワイトペーパーで知識不足の投資家が資金を拠出してくれたら、儲けものだ。ICOラッシュは収まる兆しを見せないが、2017年に発行されたトークンは、現在そのICO価格を下回るレベルで取引されている。

筆者は、ICOとは技術プロジェクトの資金を調達する革命的な方法であると確信している。また、インターネット接続と数枚のビットコインかイーサがあれば、誰でもプロジェクトの成功にあやかるべきだ。だが現実には、ICOは熱狂的な私募手法と化している。

ICO取引が巨大化する過程で、サフト(SAFT)という怪物が必然的に生まれた。公募ICO発行の参加者であった小口投資家は、SAFT手法で実施される私募には参加できない。Telegramは、このSAFT形式の発行でプロの投資家から20億ドルを超える資金を集めた。見事な手法であるが、これは真のICOと考えるべきでない。

旧型ベンチャーキャピタル投資家は、SAFTを歓迎した。従来の段階的ファンディング手法とよく似ているためだ。SAFTは換金性に優れており、流通市場でのリテール投資家に素早く売りさばくことができる。ところが、市場にはさばききれないほどのトークンが溢れている。ICO市場は停滞し、主力通貨のイーサも巻き込まれた。

新規発行トークンの投資家の多数は、リテールの支持がなくては、自分たちがベンチャーキャピタル内で厄介者を押しつけ合っているだけだと気づくことになるだろう。残念ながら、こうした厄介者はすぐ時価評価され、わずか数パーセントのリターンしかもたらさない。

これは、「ICOの終焉」宣言でなく、むしろ、ICOが過去の栄光を取り戻すことを意味する。基本に立ち返る必要があるのだ。市場を復活できるのは、SAFTを否定し、トークンの公正な一般公募を実際に実施できるチームである。大成功するプロジェクトもあるだろうが、大半のトークンは現在、そして今後も投資する価値はない。

全市場の取引

金融メディアは仮想通貨をもてはやす。パトス(哀愁)と興味深い性質を持つためだ(著名投資家ブロック・ピアスの風変わりの帽子みたいに)。素早く儲ける次の投資話を探す読者は仮想通貨に関するあらゆる記事を読み漁る。重要:仮想通貨市場の現状把握のためにBloombergを読む習慣があるなら、仮想通貨以外の市場にも目を配っておく必要がある。

第1四半期に相場が2万ドルから6,000ドルに急落した理由は多数考えられる。米国税金関連の売り、規制を巡る懸念、ICOのスランプ、じり貧状態の投げ売りなどが妥当な理由だろう。これらに、1年で20倍の急騰という単純な事実を加えれば、相応の調整局面はあってしかるべきだ。

いかなる相場も一直線に上昇/下降しないという単純な理由はなかなか受け入れられない。理由は常に存在しなければならないものであり、エディターにとって妥当に思える解釈をこねくりまわす。

優秀な仮想通貨トレーダーは、強気と弱気の両サイドだけでなく、トレンドと不規則市場の両方で取引する。ただ、このタイプのトレーダーにはめったにお目にかかれない。成功するには、こうしたトレーダーを手本にし、現況がふさわしくなければ様子見する。

現在、市場は不規則モードにあり、1万ドルの急落後、6,000~1万ドルのレンジで推移している。ビットコインの良い点は、このレンジが広く、突如動くところだ。戦略に忠実なトレーダーにとって、こうした不規則相場は稼ぎ時だ。

Telegramのチャットルームに座り、ネットで情報を読み漁る投資家が狂乱的ブームの立役者となった(気の毒なことに損を抱えたが)。今も市場に関わり続けるトレーダーは、コツコツ努力すれば、報われると身をもって認識している。仮想通貨市場は、本当の意味で自由である世界で唯一の資産市場だ。これは、市場を学ぶ者を興奮させる事実である。高級車に乗り、ドンペリニョン「列車」を注文する生活を夢見る投資家にとっても。

追記:「列車」の意味がわからなければ、クラブで注文してみるとよい。勘定書きを見て、心臓が止まるかもしれないが。

死後の楽園を求めて

地上の楽園には一気に辿り着けない。第1四半期は大暴落だった、第2四半期は調整局面になろう。

規制当局の脅しや爆弾発言にもかかわらず、相場が5,000ドルを割り込むことはなかった。ビットコインは健在であり、相場は安定性に欠けるが、仮想通貨、デジタルトークン、ICOに関する知識は今まで以上に広まっている。総合的には好ましい状況だ。

今や、株式より仮想通貨市場の登録ユーザーの方が多い取引業者は多数ある。こうした市場に対する取引需要は取引業者の許容量を超えている。仮想通貨には未来がある。この分野にすっかりなじんだトレーダーは、今後も株式や債券より仮想通貨投資を選び続けるだろう。

今後、3か月の相場展開は読めないが、センチメントはシフトしつつあると直感している。次の勝負所は1万ドルとなるだろう。このレベルを相当期間維持できれば、2万ドル復活へと上昇が見込める。